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あの人に死を  作者: 月見うどん
第3章 おっさん覚醒する
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83.螭の仕様

 螭は馬鹿だが覚えは良い。元々出来ていたことを復習しているに過ぎないからなのだろう。

 プールを創ってから早一月となるが、延々と転移の訓練をさせているだけだ。

 そろそろ別のことも教えるべきかとは思うのだが、何を教えるべきか? 翻訳は円四郎と同様にまず必要ないだろう、それに難しいので教えられるとも思えない。

 器の創り方でも教えてみるか? 一から教えるのではなく、現在使っている器を分解しながらコピー出来るようになれば良いだけのこと。それなら螭でも大丈夫だろう、たぶん。

 だがしかし、問題が無い訳でもない。螭の動力源が不明なのだ、水を媒介としていることは判明しているのだが、神である以上何らかの思念やその残滓を用いているはず。それが何なのか、全く見当すらつかない。

 判らないことは、知っている奴に訊くのが一番。従者たちから聞き出すとしよう、従者たちについても疑問があるので丁度良いかもしれん。


「アンソニー、所用で少し出掛けてくる。戻りが遅くなるようなら、ソフィーに伝えてくれ」

「はい、旦那様」

 偶然近くに居たアンソンニーに伝言を託し、転移した。


 さて、従者たちはどこに居るか? 浸透させてある分体から情報を抜き取り、従者たちの元へと急ぐ。

「おお、いたいた。お前たち、少し質問があるのだが良いか?」

「これは、ご無沙汰しております。それで質問ですか、私にわかる範囲であればお答えしますが」

「大丈夫だ、お前たちなら分かるはず。螭が水神なのは知っているが、あれはどんな残滓を集めている?」

「それは、大切なことを伝え忘れておりましたね。主様は人々の歓喜の感情を集めております」

 歓喜の感情ね。ニュアンスは異なるが、凡そ思念や残滓と同じ意味合いなのだろう。

 俺の所だと俺自身の支配が強すぎて、螭には何も還元されていないと思われる。仮初の世界では、創造した神にすべてが流れ込むとかいう話だった。

「わかった、一度螭を連れてくることにする。その方が良いだろう?」

「そうですね。通えるようにしてくださるというのは、どうなったのですか?」

「それは邪魔な神を排除してからだ。うちの方の安全も保たねばならんからな」

 我が家のセキュリティーは強固ではあるが、万全を期したい。

「排除するおつもりなのですか?」

「当然だ。でなければ、お前らも安心できんだろうし、螭も正式に帰せない」

「私共ではどうにも出来ませんので、お任せするしかありませんね」


「まあ、それは色々探っている最中だ。どうなるとも言い切れんところが歯痒いな。

 それでもう一つ質問なのだが、お前たちいずれ消えてしまうのではないのか?」

「ッ!……それは、はい、その通りです」

「やはり、か」

「私たちは当初五名おりましたが、既に二名消失しております」

 このテーマパークが出来たのは、精々十数年前といったところだろうか。その間に二名も従者が消えていると。

「お前たちが再生している紛い物のように、再生することは不可能なのか?」

「ご覧になられたのですか?」

「まあな、この世界に浸透しているからな。

 俺は今まで教わった通りに鵜呑みにしていたが、お前たちのあれを見てから疑問に思う。

 取り込んだ従者たちは、俺が分析した上で創り上げているのではないだろうか?  彼らは果たして、本物なのだろうか?

 器を与え生活させた後、再び取り込む時は同期をとっているだけではないのか?  とな」

 これは単純な疑問でしかない。本来ならば、叡智のおっさんかアーリマンに訊ねるべき事柄だろう。

「私には分かりません。私たちはあくまでも人間ですから」

「お前らに訊くことが間違いなのは承知しているよ。だがお前たちが消えてしまえば、奴らも消えてしまい、この世界は終わるのではないのか?」

「それはそうですが」


「これはまあ、螭に関りを持ってしまった以上放って置く訳にもいかないのでな。

 だから、半年ほど俺の中で休ませてやろうかとな。どうする?」

「それは可能なのですか?」

「恐らく平気だろう。お前たちが根強く主を思っているなら、保たれるのではないか。それに俺は様々な欲望で形成されている、当然そこには歓喜も含まれている」

 維持に関しては問題ないはずだ。後は博打でしかない、欲望の神特有の博打で当たりを引くしかない。

「保証は頂けないのですか?」

「保証は出来んが希望は生まれるだろ」

 螭の従者たちは真剣に相談し始める。


「私が代表して実験体となりましょう」

「そんなに意気込まなくても大丈夫だと思うけどな。それとそれ一応、器だよな?」

「はい、これを脱いだ状態で取り込んでいただけますか? 人間型の器とは異なり維持は問題ありませんから、ここで保管してもらいます」

「仕事には支障ないのだな、それなら取り込むぞ」

 残り二名の従者が頷いたので、弁天役の従者を取り込んだ。拒絶反応等が起こることも無く、すんなりと俺の中へ入って行った。

「何も問題は無いな、既に休んでいるよ。お前たちも危なくなったらいつでも俺に伝えろ。分体を浸透させてある、連絡は分体を通して取れるからな」

「はい、ありがとうございます」

「俺の質問は以上だ、処置も済んだことだし帰るわ。またな」

 それだけ伝えると、俺は転移で城へと引き返した。


「もう用事はお済ですか?」

「ん? ああ、済んだ。っていうか、お前何やってんだ?」

「畑を作ろうかと思いまして、耕しているのですよ」

「裏庭だから別に構わないが、ここ薄暗いのに作物なんか採れるのか?」

「奥様のご提案なので、僕はなんとも」

「ソフィー……。わかった、作業を続けてくれ。それと土は林から持って来た方が良い」

 庭の地面はただ敷いただけなので、微生物はほぼ皆無。林なら木と一緒に持って来た土から広まっているはずで、少なからず腐葉土化もしていることだろう。

 問題は日照だ。ここは太陽から遠く、余り陽が差さない。気温に関しては俺が管理しているから平気だけど、四六時中薄暗い世界でしかない。木が育っているのが不思議なくらいなのに。

 ソフィーは何を考えて、……太陽を創れとか言い出さないよね? そんなもん置いたら、城が燃えるわ。


 ソフィーを探し出し、転移。

「ソフィー、畑を作っているみたいだが」

「はい、旦那様」

「何を育てるか知らないが、陽が大して差さないのにどうするんだ?」

「それでしたら問題ありません。私が対処します」

 俺は頭の上に疑問符を浮かべ、首を傾げることしか出来ない。でも、出来るという以上、変に口を挟まずにおいた方が無難だ。

「じゃあ、任せておくよ」

 きっと魔女っ娘ソフィーが出動して何かするのだろう。魔術という奴はよく分からないどころか、さっぱり分からないので触れられそうにない。

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