第39話 天使が駆け出したクリスマスイブ③
陽が完全に落ちてから暫く時間が経った。
俺と麻衣は「ケーキ完売御礼」という張り出しを店頭に飾っていた。
見事ケーキを売り切ったのだ!
身体は疲れたが、心地よい疲労感と達成感が気持ちを満たしていく。
「やったね! 全部売り切ったね!」
麻衣も顔に疲れを滲ませながら、顔は喜びを隠せない。
でもケーキが売切れれば、それで俺のお役も御免。それが何とも言えない名残惜しさを感じさせていた。
「じゃあ、俺もこれで上がりかな。」
後ろ髪を引かれつつも、俺にはこのセリフしか吐けなかった。すると、
「ねえ、この後時間ある?」
麻衣が少し改まった面持ちで俺に声を掛けた。
「うん、大丈夫だけど。」
俺の胸が高鳴る。
「じゃあ、ちょっと私の部屋で休憩しない?」
なんと! 俺が? 麻衣さんの部屋に??
「う、うん。じゃあ、お邪魔します……」
俺の顔はきっと真っ赤だった。陽が落ちていたことに感謝した――
麻衣の部屋は見事に女の子の部屋という感じだった。
白を基調に整えられた家具、淡いピンク色のカーテン、そして棚には大小のぬいぐるみが置いてある。ベッドには白いフリルの布団と丸いクッションが置かれていて、そこに一体のぬいぐるみがあった。
これはクレーンゲームで獲った、ミミーのぬいぐるみだ!
一緒に寝て大切にしてくれているんだ……。
そう思うと、何だか自分が恥ずかしくなった。
「ちょっと、恥ずかしいからあんまりジロジロ部屋の中をみないでよね!」
麻衣は、折り畳みのローテーブルと座布団代わりの小さなクッションを用意しながら、少し顔を赤らめて俺を注意する。
女の子の部屋なんて、いつぶりだろう。莉子の家に遊びに行って以来だなあ……。
「今、お茶を持ってくるから。そこに座っててね」
麻衣はそう言うと部屋を出て行った。
部屋に一人で座っていても、何だか気が落ち着かない。
これはチャンスなんじゃないか?
俺は、ふとした衝動に駆られていた。
麻衣さんに気持ちを伝えたい!
今しかないんじゃないか?!
「お待たせ。紅茶で良いかな? 温かいのを持ってきたよ。今日は寒かったからね」
麻衣がトレーに乗せてお茶を持ってきてくれた。
そしてそのトレーの上にはケーキも乗せていた。
「そのケーキって?」
「じゃーん! これは私のお手製ケーキだよ!」
「え? 麻衣さん、ケーキ作れるの?」
「パパに教えてもらって、今朝早起きして作ってみたんだ。まだ上手に作れないけど」
そんなことを言いながらも、見た目は完璧だ。
サンタクロースのチョコレートも、チョコンとケーキの上に乗っかっている。
「いや、凄いよ。このサンタも麻衣さんが作ったの?」
「ありがと! うん、そうだよ。ちょっと難しかったけど」
俺はマジマジとケーキを見つめた。
俺と一緒に食べるために作ってくれたのか……。
そう思うと、既に感無量だった。
麻衣はお茶とケーキを配膳すると、
「じゃあ、一緒に食べようか! いただきまーす!」
そう言って、着席してケーキを頬張り始めた。
俺もそれにつられるようにケーキを一口する。
美味しい!
ただ、その美味しさと共に、さっきまで俺の中に有った衝動も蘇ってきた。
今しかない!
「麻衣さん、このケーキ、凄く美味しいよ」
「やったー! お替りも有るから言ってね。」
その言葉を聞きながら、俺は身を乗り出す。
「麻衣さん、大事な話があるんだ。聞いてくれるかな?」
「何、大事な話って?」
俺は天を仰いだ。
神様、キリスト様、今日だけでいいです。俺に勇気をください!
「あの……」
「うん……」
「麻衣さん、好きです。付き合ってください!」
言った! 勇気を出して、言えた!
結果は分からないが、もうこれだけで自分で自分を褒めてあげたい!
「……」
麻衣は黙っていた。意外な程に冷静な表情をしていた。
俺の想像とは違う反応だ。もしかしてダメなのか?
俺は黙ったままの麻衣をひたすらに直視し続ける。
「……あの……」
麻衣がようやく、恐る恐る口を開く。
「気持ちを伝えてくれてありがとう」
「……うん」
どっちだ? 答えはどっちなんだ??
「……でも、今日の雰囲気に流されているってことはない?」
「ううん、そんなことない。俺は麻衣さんと一緒に居て、毎日が楽しかったんだ!」
「うん、私も洋祐君と一緒に居る毎日がとても楽しかった」
「それじゃあ……」
俺の鼓動が高鳴っていく。
「洋祐君、武佐高校の伝説って知ってる?」
「え? 知らないけれど……」
「知らないなら、それでいいわ」
麻衣は一呼吸置くと、そのまま続けた。
「今ではないの……。私に一晩、時間が欲しい」
え? どういうことだ?
そう言うと麻衣は立ち上がった。
――ダッ!
――ピカッ!
麻衣はタイムリープをした。時は巻き戻った。
俺はまだ手の付いていないケーキを前に、着席して麻衣と向かい合っている。
「洋祐君……」
麻衣が口を開いた。
「明日、終業式の後、屋上に来てくれない? その時に、洋祐君から大事な話を聞きたいの」
俺は黙って頷いた。
分かったよ、告白は明日にするよ…麻衣さん!――




