第38話 天使が駆け出したクリスマスイブ②
「いらっしゃいませー! クリスマスケーキはいかがですかー!」
クリスマスイブの夕方、俺はケーキ屋の店の前に立ち、ケーキの店頭販売をしていた。
赤と白の服、サンタクロースの衣装を身に纏っている。
そして俺の横にもサンタクロースがもう一人。
麻衣さんだ!
麻衣がサンタクロースの衣装を着て、同じく声を張り上げながら客の呼び込みと販売をしている。
客引きやレジ打ちをしながら、俺は一週間前を思い出す――
「……じゃあ、本当にする?」
「え?!どういうこと?」
「私の家、洋菓子屋さんなんだけど、クリスマスイブにヘルプしてるんだ」
「う、うん……」
「毎年の話だけど、私がヘルプに入ったところで人が回らなくてさ。洋祐君もヘルプで一日バイトしてくれない?」
そういうことか!
デートを断るダシに、ちゃっかりバイト確保というミッションも遂行してたんだな!
とはいえ、クリスマスイブを麻衣と一緒に過ごせるチャンス。俺には抗う理由が見つからなかった――
陽も沈むと、いよいよ客の入りが激しくなった。仕事終わりにケーキを買いにくるサラリーマン層が増えてきたようだ。
俺は呼び込みの声を止めて、列が出来始めた店頭でレジ打ちに専念する。
「ケーキ一つくださーい!」
幼稚園の年長さんぐらいだろうか。可愛らしい女の子がお父さんと一緒にケーキを注文した。
「どのケーキにしますか?」
「イチゴが乗ってるケーキ!」
「ショートケーキのホールですね?」
「はい、それでお願いします。」
お父さんの方がホールケーキを指さす。
「やったー!」
小さい子が喜ぶのを見て、俺の心も温まった。
麻衣もショートケーキを紙袋に入れながら、微笑ましく見つめている。
「はい、こちらがケーキになります。」
「ありがとうございます。ほら、友里、しっかり持つんだよ。」
「はーい!」
友里と呼ばれた子は、小さい手でショートケーキの袋を持って、父親と一緒に去ってった。
「ふふふ、可愛い子だったね。」
麻衣が満面の笑みで俺に話しかける。
うわー! 顔が近い!
可愛いのは麻衣さんだよ……。
そんなことを思っている矢先に、
「うわぁぁぁあん!」
通りに子供の泣き声が響いた。行列に並ぶ客も一斉に注目する。
道路の先、ぎりぎり視界に入るところで、さっきの子が泣いていたのだ。
目を凝らすと、ケーキの入った紙袋が地面に落ちてしまっている!
ルンルンで歩いていたので、きっと手から放して落としてしまったんだ。
その時、
――ダッ!
――ピカッ!
麻衣は駆け出すと、その身体が黄金色に光った。
天使だ!
俺は麻衣が黄金色に輝くその様子に、クリスマスイブに降臨した天使を見た!
そして軽い眩暈と共に気付くと、あの親子が目の前に居る。
「はい、こちらがケーキになります。」
麻衣は何事も無かったかのように冷静にケーキを渡す。
「ありがとうございます。ほら、友里、しっかり持つんだよ。」
「あ、お父さん、ちょっと待っててください。」
麻衣はそう言うと、サンタの衣装のポケットをまさぐった。
「はい、これ飴玉。ケーキはお父さんに持ってもらって、これを握ってるといいよ」
「うん! ありがとう、お姉ちゃん」
その様子を見て、俺の心はじんわりと温まった。
やっぱり麻衣さんは俺の天使なんだ!
そのタイムリープ、俺には分かっているよ…麻衣さん!――




