第37話 天使が駆け出したクリスマスイブ①
12月中旬。クリスマス一週間前。何だかソワソワする時期だ。
クリスマスが近づくからだとか、もう年末だからだとか、そういうわけではない。
もうすぐ終業式で二学期が終わり冬休みになる。でも休みがワクワクするわけでもない。
学校に来なければ、麻衣と会う理由がなくなること。
この事実が妙に俺の気持ちをソワソワさせていた。
結局、俺は麻衣さんにとって一人のクラスメイトに過ぎないんだよな……。
そんなことを教室の休憩時間に考えていると、
「よう、洋祐。何をボーっとしてるんだよ?」
永田昇が俺に話し掛けてきた。
昇は転校してきた俺にとって、数少ない友人である。
おせっかい好きなところがあって、コミュ力も高く、校内の情報通でもある。
故に、あまり目立たない俺とも友達になったような感じだ。
「いや、もうすぐ二学期も終わるなと思ってね」
俺は昇に目を向けるでもなく、黒板の方に向かって遠い目をする。
「そうだな。もうすぐクリスマスに、お正月に。で……」
昇はここで語気を強めた。
「お前は麻衣に告白はしたのか?」
俺は驚いて急ぎ黒板から目を離し、昇の方に向き直した。
「な、何のことだよ」
「そりゃあ、いつもあんだけくっついてりゃあ、そう思うよな。」
俺は焦った。
やっぱりそういう風に見られているのか!
文化祭でほっぺにチュー、修学旅行では二人で自由行動していた俺達は、目立つところには目立っていた。そうでなくても、昼食で一緒に購買に行くことは、日課のようになっている。
「ま、何でもないならいいんだけどさ。何かあるんだったら、それは問題だぜ?」
「……問題って何だよ?」
「もう知ってると思うけど、麻衣はあれで隠れファン多いからさ。もうすぐクリスマスやらイベントの季節だから、そろそろデートに誘ったり告白したりする奴が出てくるぜ」
「な……」
とか言いつつ、思い当たるところは既にあった。
知らない奴から声を掛けられ、麻衣との関係を問われたことが既に二度有ったのだ。
「まあ、俺の情報網によれば、三人ぐらいは告白すると思うな」
「昇……。お前、やけに詳しいな」
「俺の情報網を甘く見るなよ。て言っても、お前と話したことが無い奴も多いから、俺にもお前と麻衣の関係を聞いてくる奴が何人かいるのさ」
そんなこと本当にあるのか?! その時はそう思っていた……――
「金堂さん、ちょっと良いかな?」
翌日お昼休みに、麻衣と一緒に購買へ向かい、廊下を歩いている時だ。
俺も知った顔が麻衣に声を掛けた。確か、隣のクラスの西本だ。キリッとした顔立ちの男前で、クラスの女子も噂しているのを聞いたことがある、
「何?」
麻衣が返事をすると、西本はチラッとこっちを気にした。
「ちょっと二人で話したくてね。」
「……分かった、俺は外すよ。」
そう言うと、俺は先に購買に向かった。
何の話かはその時は気にも留めなかった。
「今日の昼は何にするかな」
いつものごとく購買の行列に並びながら、そんなことを考えていたその時、
――ダッダッダ!
――ピカッ!
駆け寄ってくる足音と、黄金色の光が煌めいた。
麻衣が急いでこちらにやってきて、タイムリープしたのだ!
気付くと俺は麻衣と廊下を歩いている。
購買に向かうところまで時間を巻き戻したのだろう。
一体どうしたってんだ…麻衣さん!
「今から購買に行くまで、絶対に私から離れないでね」
頭の中がハテナに包まれていると、更なる謎を麻衣から告げられた。
「う、うん。」
どういうことなんだ??
そしてそのまま廊下を歩いていると、やはり西本と出会う。
「金堂さん、ちょっと良いかな?」
「何?」
西本はやはりチラッとこっちを気にする。
「ちょっと二人で話したくてね。」
すると、麻衣は俺の制服をグッと引っ張る。ここに留まれってことね。
俺は理解した。でも一体なんだって……。
「今から購買に行くところなの。二人で話す内容なら後にしてもらえる?」
麻衣の言葉には冷たさを感じた。それでも西本は話を続けた。
「じゃあ、今ここで良いよ。クリスマスイブに俺とデートしてくれないか?」
えー?!
俺は驚いた。デートに誘ったこと自体もそうだが、何より俺が隣に居るにも関わらず、堂々とデートを誘うとは!
これには麻衣もびっくりしたようだ。少し首を傾げながら、思案をしたようにすると、
「クリスマスイブは予定があるの。ごめんなさい」
そう言い放った!
え? マジで?!
俺も思わず少なからずの貰いダメージを受けた。
麻衣さん、誰と何の予定があるんだよ……。
「やっぱり、坂東と付き合っているのか?」
西本は俺と麻衣を交互に見渡しながら問い詰めてくる。
「い、いや違うよ」
俺が気まず過ぎて否定するのを、麻衣は聞いていたのか、いないのか、
「クリスマスイブは坂東君と約束をしているわ」
麻衣は平然とした顔で言い放った!
え?! 聞き間違いじゃないよな??
俺は麻衣の言葉が信じられなかった。
「そっか……。じゃあな」
西本はその場を立ち去った。
「あ、あの……麻衣さん?」
「あの人、ああ見えて意外にしつこいのよ。はっきりと断った方が彼のためなの。」
ああ、なるほど。一回目で嫌な思いをしたんだな、きっと。
「でも嘘は良くないと思うよ……」
「……じゃあ、本当にする?」
そう言うと、麻衣はペロっと舌を出した。
ど、どういうこと??――




