第35話 偶然の再会と強引なタイムリープ②
「まだまだ時間は有るわね。次はカラオケに行きましょう!」
一ゲーム終えてボーリング場に出ると、香奈が再び仕切り始めた。
そして俺達は、ボーリング場に併設されている「チョイサウンド」に俺達は入店した。
部屋に通されると、香奈は間髪入れずに、
「さ、洋祐君、得意な曲を披露してよ!」
と、俺を促して来た。
俺は嫌な予感がした。
「う、うん。でも先ずは飲み物を注文しようよ。俺、注文入れるよ」
「あ、ありがとー! 私は烏龍茶」
「私も烏龍茶にするわ」
二人の注文を聞くと、俺はタブレットで烏龍茶を三つ注文する。そして、楽曲を慎重に選び始めた。
ここは、じっくりと時間を掛けて選ぼう……。
「早く選んでよー!」
香奈はニヤニヤしながら俺を急かしてくる。
「うーん、どれにしようかな……。香奈さん、先に歌ってもいいんだよ?」
「ううん、洋祐君の曲を先に聞きたいな!」
ますます嫌な予感がする。この予感、絶対当たるぞ!
「お待たせしましたー!」
烏龍茶が届く。よし! これで武器は整った。
「じゃあ、入れるね」
――ピッ!
タブレットで送信ボタンを送ると、「次の曲:めだかの学校」と大画面に表示された。
「えー、何それ?! 超ウケるんだけど!!」
「いやー、俺この曲大好きなんだ」
もちろん、俺はカラオケで童謡を歌うタイプなどではない。でも、ここは俺の本能に従った。音程がシンプルで楽曲全体が短いもの、これが選定理由だった。
「ふーん。じゃあね、えい!」
そういうと、香奈は採点モードにしてきた。音符が出てきて音程が可視化されるやつだ。
やっぱり!
……とすると、この後の展開も俺には見えてくる。
――♪♪♪
いよいよ前奏が始まる。
――めーだーかーのがっこうはー かーわーのなかー♪
――そーっとのぞいて みてごらん♪
しまった! 「そーっと」の部分がかすれてしまった!
――ダッ!
――ピカッ!
間違いない! ここでも高得点を取らなければ麻衣は許してくれないのだ。
俺は楽曲選定のファインプレーと、先に烏龍茶を手配していたことに、心から安堵した。
そして、ここからの麻衣もまた容赦がなかった。
何度かタイムリープを繰り返しての一回目の採点結果は「91点」。
そして俺もその採点結果の、特に講評の部分をよく読む。
くそー、もっとビブラートとこぶしが必要なのか!
採点モードの講評を確りと読むなんて初めての経験だぜ!
でも「91点」、これは許してくれるのか?
――ダッ!
――ピカッ!
ああ……。「91点」じゃダメなのね……。
そしてその後も鬼のタイムリープが続く。二回目は「93点」、三回目も「93点」……。
もういい加減許してよ! 俺は手元の烏龍茶に口を付けながら、心底嘆いた。
そして繰り返す事、七回目!
童謡を真面目に歌っている自分自身が恥ずかしい!
最初はそんな気持ちだったが、今やもうそれを通り越して、俺は必死だった。
――ドゥルルルルルー…… バーン!
――「96点」!
「え?! すご!!」
香奈が唸った。その唸りを麻衣も聞き。満面の笑みを浮かべた。
やった! これで満足だろう?!
「洋祐君、歌もうまいんだ! もっと聞きたーい!」
香奈が鬼のリクエストをしてきた。もう勘弁してよー!
そして、俺はその後も、「いぬのおまわりさん」、「かえるのうた」、「チューリップ」を、タイムリープ付きで歌ったのだった……。
「はー、面白かった! 洋祐君の、童謡リサイタル、サイコーだったよ!」
カラオケ店を出て少し歩いても、香奈はまだ腹を抱えて笑っている。
「しかも全部高得点とか、歌うますぎるし!」
これは褒められているのだろうか?! でも、俺はその香奈の反応を気にする余裕がないほど疲れていた。ボーリングにしろ、カラオケにしろ、もう体感的には何時間遊んだんだろう。実時間としては二時間ちょいだろうが、俺には一日中遊び倒した感覚だ。
麻衣も同じ感覚なんだろう。愛想笑いはしているが、俺は麻衣の目の奥に疲れを読み取った。そりゃまあ、麻衣さんもつかれるだろうな……。
「あー! しまった!」
その時、香奈が大げさな声を上げた。
「どうしたの?」
「さっきのチョイサウンドでハンカチを忘れてきちゃった……」
「え? ああ、じゃあ俺取りに行ってくるよ!」
「え? あ、ありがとう!」
そう言うと、俺はチョイサウンドに戻るべく駆け出した――
チョイサウンドに戻り、受付の店員に話をすると、ハンカチは無事忘れ物として回収されていて、手渡された。俺は、受付そばの椅子に座って少し休憩をする。
はあ……。ハードな一日だった……。今日はチョコレートパフェを堪能する優雅な土曜の午後になるはずだったのに、何でこうなったんだろうな。
それにしても、何で麻衣さんは俺の高得点に拘ったんだろう。ここは未だに謎だ。
俺はうなだれながら、今日を振り返る。カフェ・コンチェルトで香奈さんが麻衣さんに囁いた時、あの時に何かあったのかな?
まあ、考えても仕方が無い。俺は頭を切り替えると、チョイサウンドを後にした――
俺がチョイサウンドの入口を出ると、二人は入口前に戻ってきて立っていた。二人は何やら会話をしていたが、俺の姿を見るや否や、切り上げた。
「洋祐君、ありがとう! ハンカチあった?」
「うん、忘れ物で受付に届いてたよ。はい、これ!」
俺は手にしていたハンカチを香奈に手渡す。
「洋祐君、合格よ……」
「え?」
香奈がおもむろに何か呟いたが、俺には上手く聞き取れなかった。
「じゃあ、私、今日はここでさよならするね。また遊ぼうねー!」
そう言うと、俺達の反応も見ずにさっさと駆け出して帰っていった。
「なんか、香奈さんって慌ただしい人だったな」
俺は麻衣の方に顔を向けた。
俺が言葉を向けても、麻衣はただ黙って顔を赤くしていた――




