第32話 思い出溢れる修学旅行④
「はあ、久しぶりに踊ったなー!」
二階のホールを出ると、莉子は伸びをしながら呟いた。
「次は眉山ロープウェイで上まで登るといいよ」
「ああ、じゃあさっさと行こうか。俺達時間もあまりなくなってきたし」
「うん、急いで五階の乗り場に行ってきなよ!」
「あれ? 莉子は行かないのか?」
「私は、ここまでにしとく」
俺と麻衣はキョトンとする。
すると、麻衣は俺に顔を近づけた。
「ロマンティックなロープウェイと山からの全景は、二人きりの方がいいわよ!」
「な……」
俺は莉子に囁かれて、ドキッとした。
はあ……。莉子には見抜かれているんだな。怖い奴だ……。
「それじゃあね!」
そう一言だけ残すと、莉子は颯爽と階段を降りて行った――
――ガタン…… ガタン……
眉山山頂に向かうロープウェイのカゴが揺れる。
俺と麻衣の二人はその中でゆっくりと揺られていた。
この時間はちょうど空いていて、俺達二人しか乗っていなかった。
「ねえ……」
景色を見ていた麻衣が、俺の方を振り向いておもむろに声を掛けた。
「洋祐君、莉子さんのこと、好きだったんでしょう?」
え?!
心拍数がみるみる上がっていくのが自分でも分かる。
凄い不意打ちが来た!
「う、うん」
「やっぱりそうだったんだ……」
その通りだった。時速160kmの速球がズバンとストライクを取るように図星だった。
「でも想いを伝える前に、莉子に彼氏ができちゃったんだよな。それが俺の淡い初恋」
「うん……。実はそんな感じがしてた」
タイムリープがバレていることには気づかないのに……。
何でそこは鋭いの…麻衣さん!
そう、実は俺は転校する最近まで、この初恋を引きずっていた。
何で告白しなかったんだろう? そう後悔していた。
結果として付き合えなくても構わない。それでも告白していたら初恋にケリが付けられたはずなのに。ケリが付けられなかった気持ちが行き場を失っていた。
麻衣を見つめる。麻衣はそれ以上何も言わずに再び景色に顔を向け始めた。
不思議だ。今日、莉子に会った時、自分は動揺をするのかと思っていた。でも、自分の気持ちは何も動かなかった。
麻衣の後ろ姿を見つめる。
ケリの付け方は一つではないんだな。
俺は、新しい恋で初恋を卒業することが出来たんだ。
でも今のこの恋は、決して後悔にしたくはない。
麻衣の後ろ姿を見つめながら、改めて強く思った――
「ここからの眺めもきれーい!」
山頂に着くと、早速徳島市の全景を見渡した。
「ほんと。風も気持ちいいな。時間が無いから十分ぐらいしか居られないけど」
俺達には残された自由行動時間は短かった。ただ、時間も無い代わりに、ここでは風景を見ることぐらいしかすることもない。
麻衣はそこからは黙って風景を見続けていた。
何でそんなに魅入っているのか分からないが、まるで心に刻むようにじっくりと風景を見つめる。
俺もそんな麻衣を黙って見つめていた。
「あっという間だけど、そろそろ行かなきゃいけない時間だよ。」
「そうね……」
そう言うと、麻衣は俺を正面に見つめた。
「ねえ洋祐君、聞いて」
「何?」
「私、洋祐君と居るととても楽しいよ。笑ったり、ワクワクしたり、嬉しかったり、びっくりしたり、怒ったり……。これからも色んな思い出を共有したいな」
「そ、それで?」
麻衣は俺に精一杯の微笑みを掛けた。
「うん、それだけ! あと、一緒に居てくれてありがとう!」
そして麻衣は、後ろを振り返り全力ダッシュをした。
――ダッ!
――ピカッ!
……
その後、麻衣は黙って風景を見続けては、タイムリープを繰り返した。
その数は十回を超えた。
俺には麻衣が何でそんなにタイムリープを繰り返すのか、意味が分からなかった。
ただ、繰り返す時の中で、徳島市の風景に溶け込んだ麻衣の後ろ姿が、目と心に焼き付いた。
この光景を、俺はもう忘れることは無いだろう。
そのタイムリープの意味を教えてよ…麻衣さん!




