第3話 謎の答え
そして、その日の昼休み。
「坂東君、お昼はどうするの?」
いよいよ麻衣が俺に声を掛けてきた。
俺はドキッとして麻衣の方に顔を向ける。
「金堂さん、だよね? 何か用があるの?」
数学の小テストでのことが無ければ、俺はタイプの女の子から声を掛けられてハッピーにしか思わなかっただろう。
ただ、今の俺は警戒心マックスだった。
「弁当じゃなければついてきて。購買の場所を教えるわ」
「あ……、それは助かる。ありがとう」
俺はホッとした。
親切な人だ。
変な人じゃなくて良かった……。
麻衣に案内されるままに購買に辿り着くと、生徒達で賑わっていた。
俺達二人もその列に並んでいた。
「ここのお勧めって何なの?」
取り敢えず麻衣と会話を交わしたく、ありきたりな質問をしてみた。
「焼きそばパンよ。いつも競争なの」
そんなことを話していると、いよいよ麻衣が列の先頭に立った。
「こんにちは。焼きそばパンください」
「あらー、残念。今の子でちょうど売り切れちゃったのよ……」
購買のおばさんが、さも残念そうな顔で答える。
「あー……、残念だったね……」
俺が麻衣に声を掛けると、麻衣はキッと俺を睨んだ。
そして俺の腕をつかむ。
「坂東君、ちょっと来て!」
「お、おいちょっと……」
俺は強引に腕を掴まれて、廊下にまで引っ張り出された。
すると、麻衣はおもむろに廊下を走り出したのだ!
――ピカッ!
軽くクラクラする頭を振ると、俺は教室の席に着席していた。
――キンコーンカンコーン……
チャイムが鳴る。
どうなっているんだ?
「坂東君、購買行くわよね?」
金堂さんだ!
金堂さんが話しかけて来た!
しかも、さっきとはちょっと違うトーンで。
「う、うん……」
「じゃあ、一緒に行こう。ダッシュで行くわよ!」
そう言うと、再び腕を掴まれて、ダッシュを強要させられた――
今、俺達二人は、購買で買った焼きそばパンを片手に、屋上で一緒に昼食を採っていた。
そう、二度目の購買では、ダッシュが奏功して、焼きそばパンが残っていた。
隣では、麻衣が黙々と美味しそうに焼きそばパンを頬張っている。
俺、絶対タイムリープしてる……。
というか、俺、この娘にタイムリープさせられてる!
そうとしか考えられなかった。
どうやって確かめようか……?
が、意外にも答えはこの後、向こうからやってくることになる。
「フーッ、美味しかった!」
焼きそばパンを食べ終わった麻衣が、とても満足そうに一息吐いた。
そして麻衣は、先ず屋上の周辺をキョロキョロと見渡した。
屋上はどうも穴場のようで、今は俺達しかいない。
すると、今度は俺の顔をマジマジと見る。
「ど、どうしたの? 金堂さん?」
麻衣は一通り舐めるように俺を見渡すと、
「ふーん」
と言いながら、言葉を続けた。
「これからちょっと実験に付き合ってもらうわ」
「実験?」
「そう。ちょっとそこに立ってて」
そう言うと、麻衣は立っている俺から少し離れた。
その距離五メートルぐらいだろうか。
「何するの?」
「いいから黙ってて……」
すると、麻衣は走り出した!
――ピカッ!
眩暈がして目を開けると、麻衣が目の前に居る。
「よし! 戻る時間のコントロールは問題なしね……」
麻衣が小さな声で呟く。
「これは何の実験なの……?」
俺は察しがつき始めたが、麻衣の口から答えを聞きたかった。
麻衣は「フッ」と笑いながら、
「良いわ、教えてあげる」
と得意そうな顔をする。
「昨日、神社の近くで怪我をしている白い子犬を手当してあげたの。そして昨日の夜、夢を見たわ」
麻衣は天を仰ぎながら話を続ける。
「夢の中で白い犬が神様になって、『願い事を叶えてやろう』と言って来たの」
「そ、それで……?」
「私は願い事をしたわ。でもその願いは叶えてもらえなかった。その代わりに、『タイムリープの能力』を授かったの」
「た、タイムリープ……」
やっぱりか!
「ご丁寧に神様の解説付きだったわ。『明日、転校生が来る。その転校生の近くで、時を戻したいと願いながらダッシュすると、少しだけ時を戻せるだろう』って」
「う、うん……」
確かに、それならこれまでの麻衣の行動と辻褄が合う。
「私は信じられなかったわ。でも、確かに今日、あなたが転校生としてやってきた」
俺はゴクリと息を飲む。
「そして数学の小テストで試したわ。最後の一問を解く時間がどうしても足りなくてね。そしたら成功したの。あっさりと」
「そうだったのか……」
「まあ、詳しく説明しても、また時を戻すから、どうせあなたは忘れるんだけど」
「……い、いや俺は……」
覚えてるんだ!
と言いかけたところで、麻衣はダッシュして俺から十メートルぐらい離れた。
……この人、話を聞かない人だ!!
――ピカッ!
今度は気付くと、麻衣と並んで座っていた。
麻衣の手には、食べ終わったはずの焼きそばパンが握られている。
もちろん、俺の手にも。
「あの程度の距離なら有効ね。時間は最長で十分ぐらいか……」
麻衣はパンを頬張りモグモグさせながら、分かりやすく独り言ちた。
そのタイムリープ、俺にはバレてるよ…金堂さん!――
その言葉が喉から出かかったが、止めておくことにした。
もう少し、様子を見てみよう。
その方が面白そうだから――




