第29話 思い出溢れる修学旅行①
「はい、皆静かに!」
武佐高校の二年生は羽田空港に集まっていた。
ワイワイと騒ぐ生徒を前に、担任が戒める。
「これから飛行機で徳島に向かいます。周りに迷惑を掛けないように」
そう、俺達は修学旅行で徳島に向かうところだった。
何で徳島なんだ?
徳島に見どころが無いから言っているのではない。
むしろ、俺は徳島の見どころを知っている。いや、知り尽くしている。
そう、徳島は俺の転校元―俺の地元だからだ。
「どうしたの、洋祐君?」
俺が遠い目をしている様子を見て、麻衣が声を掛けて来た。
「いや、何で修学旅行が徳島なんだろうなって……」
「例年お世話になっている京都の旅館が改修中なんだって。それで今年は徳島って話になったらしいよ」
「それで徳島って言ってもなあ……」
「でも徳島楽しそうじゃない!」
「ああ、徳島は良いところだよ。でも俺の地元だからなあ。」
「あ、そっか! じゃあ三日目の自由行動の日は案内してよ!」
「え? あ、うん。もちろん良いよ!」
マジかー!
そうか、最初から麻衣さん誘えば良かったんだな!
不思議なことに、今まで色褪せて見えていた羽田空港の景色が、一気に色彩鮮やかになった――
初日。飛行機を降りると、鳴門に向かった。鳴門の渦潮を見て、国際美術館で芸術鑑賞。
二日目は、祖谷渓谷に向かい、かずら橋(サルナシ等のカズラ類で編まれた吊り橋)を渡り、吉野川でラフティングをした。
「徳島って意外に楽しいところなんだね」
「自然がダイナミックだよな」
市内の旅館に戻るバスの中で、皆が徳島を評価する声が聞こえてくる。
来る前は「何で徳島に?」という声があることは俺の耳にも入っていた。
まあ、「何で徳島に?」とは俺が一番そう思っていたわけだが、徳島をバカにされるのは俺も気分が良くない。
どうだ、皆!
徳島の良さを思い知ったか!
しかし俺自身と言えば、旅程全てが既に体験したことがあるもので、楽しいには楽しいが新鮮味は全くなかった。
しかし、俺の勝負は明日の自由行動日!
三日目に期待を全集中させながら、ここまで二日間の日程をこなしていた――
そしていよいよ三日目。午前九時に十分前。俺達は徳島市中心の旅館のロビーに集められていた。
「今日最終日は自由行動の日です。皆さん、街の人に迷惑を掛けないように気を付けて行動してください。午後三時までには遅れずに戻ってくること」
担任が注意事項を述べると、生徒一同は沸き立った。
「よっしゃー、自由行動だ!」
「どこ行こうかな?」
ほんと、皆どこ行くんだろう? 俺は地元だから当たりはあるけれど……。
「洋祐君!」
そんなことを考えていると早速麻衣が現れた。
「今日は徳島を案内してよね!」
「うん。いくつか考えてはいるけど、どういうところ周りたい?」
「なるべく地元の人しか行かないところがいいな」
……そりゃ意外だったな。でもそっちの方が目立たないしいいか。
俺も麻衣とデートみたいな感じで目立ちたくはなかった。ただでさえ、文化祭でほっぺにチューを披露したのだから。
「じゃあ先ずは徳島市内を一望できるところに行こう」――




