うちの天使な妹が、実は……? 3
それぞれに焼き菓子やお茶を注文し、なんでもない話をしながらまったり過ごす。ああ、こんな風に穏やかな気持ちでお茶をするのなんて、前世以来かも。
仕事や家事、弟妹のことでてんてこ舞いだった私にも、一応ひとり時間を楽しむことは時々あった。それが月に一、二回のカフェタイムだ。コーヒーショップやドーナツ屋でのんびりするのが好きだった。
まぁお迎えの隙間時間とかに行っていたから、三十分程度だけどね。それでも美味しいお茶やコーヒー、お菓子は私の心を癒やしてくれた。
もちろん弟妹たちとみんなで食べに行くこともあったけどね。今日みたいに。
「ふふ、クラリス、ほっぺたについてるわよ?」
「あれ、ほんとだ。ありがとう、おねぇちゃん」
クラリスのほっぺについていたお菓子のクズを、ひょいとつまんで口に入れる。死ぬ前日、隼人にも同じことをしたっけ。
「あれ? どうしたの?」
不思議そうにシャルが私たちのやり取りを見ていたのに気付き、首を傾げる。
「いや……そういうことをするの、初めて見たからちょっと驚いた」
あーお貴族様からしたら、お行儀悪い行為だものね。そうだね、びっくりしたかもね。
でも、悪いことじゃないと思うんだよなぁ。
「そっか。あ、じゃあシャルにもやってあげようか? 初体験!」
「は!? いや、俺は……」
ちょっとからかいたくなってそう言ってみると、シャルは目に見えて動揺した。
真っ赤になっちゃって、かわいい! 隼人とそう変わらない歳だと思うのだが、こちらはちょっと精神年齢が高いみたいね。
「ごめん、ごめん、冗談よ。ふふふ、シャルはとてもお行儀よく食べているから、ほっぺたに食べカスなんてつけないしね?」
クラリスもがんばれーと頭を撫でると、その意味がわかったのか、クラリスはぷうっとほっぺたを膨らませた。
「わたしだって、いまのはたまたまだもん」
「そうね、いつもはちゃんと零さずに食べているものね」
ちょっぴり拗ねたクラリスがかわいくて、なでなでの手が止まらない。うちの妹、本当にかわいい!
「シャルもえらいわ。こういうお菓子って、形が崩れやすくて食べにくいのに。とっても食べ方が綺麗なのね」
少し軽めのスコーン、ぽろぽろと零しがちなのに、素晴らしい。
さすがだわと感動し、思わず本人の頭をなでなでしてしまった。
「~~っっ、あのな、俺のこと、あんまり子ども扱いしないでくれるか?」
「ええ? でも、まだ十二歳くらいでしょう? シャルはとってもしっかりしていると思うけれど、世間一般的にはまだ子どもの年よ? ちょっとくらいいいじゃない。それとも、嫌だった?」
大人しく撫でられながらも不本意そうな表情がかわいくて、ついついそんなことを言ってしまう。でもちょっとからかいすぎちゃったかも?とも思い直した。
「嫌、ではないが。……こういうのはあまり慣れていないから、どうしていいのかわからなくなる」
ははぁ。さてはしっかり者すぎて、小さい頃から甘えられずにきたタイプかしら。もしくはお貴族様っぽいし、幼い頃から跡継ぎとして厳しく育てられたとか、そんな感じかもしれない。
「そっか。嫌じゃないのなら、素直に撫でられておいてくれると嬉しいな。知ってる? こうやって撫でたり褒めたりする方も、してもらう側と同じくらい幸せな気持ちになるんだよ」
前世でも、弟妹たちに褒めたり頭を撫でてあげたりして、嬉しいって笑顔になってもらえると、こちらも元気になれた。まるで、魔法みたいに。
「同じくらい幸せな気持ちに、か」
ぽつりと呟くシャルの表情には、少しだけ影があった。私にはわからない、なにか思うことがあるのだろう。
「あ、それ、わたしにもわかる!」
その時、クラリスがびしっと勢いよく手を上げた。
「あのね、おとうさんとおかあさんもね、おなじこといってた。『クラリスがうれしいと、じぶんたちもうれしい』って。だから、わたしにはたくさんわらっててほしいって!」
そうか、亡くなったご両親がそんなことを。クラリスは本当に愛されていたんだなって、胸がきゅっとなる。
「そっか。じゃあ、これからもたくさん笑顔でいようね。きっとお父さんとお母さんも、そんなクラリスを見守っていてくれているからね」
「うん」
ほんのちょっぴり寂しい表情なのは、もう会えない両親を思い出したからだろう。おふたりの分まで、クラリスのことを守ってあげないとなと改めて思う。
「……ふたりのご両親は、とても温かい人だったのだな。とても、よい言葉だと思う」
とても柔らかい微笑みで、シャルがそう言った。元々大人びた子だけれど、今の顔は憂いを帯びていて、特に大人っぽく感じる笑みだ。
私とクラリスは本当の姉妹ではないので、正確に言えば〝ふたりのご両親〟ではないのだけれど。でもまあ、そこまで言う必要はないよね。
「ありがとう。そう言ってもらえて、とっても嬉しいわ」
「クラリスも! えへへ、こころがぽっかぽかになったよ」
私たちの返事に、シャルは頬を染めた。こういうことを言われ慣れていないのかしら?
「……なんだ、ミレーヌ。言いたいことがあるなら言ってくれ。顔がにやけているぞ」
「なんでもないわよ? かわいいなぁって、思っただけで」
こういうところは年相応だなと思いながらそう返すと、顔を真っ赤にしたシャルは「もう勘弁してくれ……」と頭を抱えたのだった。




