うちの天使な妹が、実は……? 2
「いったぁ……。うう、ごめんなさい」
見た感じ、ふたりともケガはしていない様子だ。でも、足を捻ったりしているかも。
「クラリス、急に走っちゃだめよ。本当にごめんなさい、ケガはしていない?」
「……ああ、これくらい平気だ」
男の子に手を差し伸べ、立たせてあげる。よろけたり痛がったりする様子はないし、本人もそう言っているから大丈夫みたいだけど、本当に申し訳なかった。
男の子はパンパンとズボンを払うと、大丈夫だと笑顔を見せてくれた。
あらあら、なんて顔の整っている子だろう。綺麗な金髪に鮮やかな翠の瞳。十二、三歳くらいだと思うのだが、紳士的な振る舞いで、急にぶつかってきたクラリスや私に怒った様子もない。
「ぶつかっちゃって、ごめんなさい」
「大丈夫だって、気にするな」
クラリスはもう一度ちゃんと頭を下げて謝り、男の子もそう言って許してくれた。
……こんなことを言うのは不謹慎かもしれないが、なんてかわいらしいひとコマなのだろう。美少年と美少女、絵になるふたりだ。
「ごめんなさい、私がもっと気を付けなければいけなかったのに」
一緒に謝りながら、そんな邪なことを考えていると、男の子とぱちりと目が合った。まずい、顔に出ていたかしら。
「……それより、よかったら少し一緒に街を散策してくれないか? 実は連れとはぐれてしまってな。子どもひとりではなにかと危ないから、しばらく付き合ってくれると助かる」
なんと、迷子だったのか。……いや、迷子にしては落ち着いてるし、不安気な様子がまったくないわね。それに話し方がちょっとえらそう、というか、子どもらしくない。ひょっとして、貴族令息のお忍び、とか?
自分も一応貴族令嬢なのだが、市場に馴染んで買い物をしていた私とは全然違うなと思う。気品というかオーラというか、とにかく一般人とは違うなにかを感じる。
でも、貴族だろうが平民だろうが子どもらしくなかろうが、迷子の子どもであることは間違いない。そう見えなくても困っているのだろうし、たしかにひとりでは危ない。一応とはいえ成人した私と一緒にいた方が、多少は危険を回避できるだろう。
「もちろん、かまわないわ。ただ、私たちも旅をして今日ここにきたから、あまりお店には詳しくないの。ご飯の美味しいお店の紹介はできないから、許してね?」
少し茶化した調子でそう言うと、男の子は一瞬きょとんとした顔をして、ぷっと噴き出した。
「はは、それは残念だな。でもまあ、自分たちで良い店を探すのも、それはそれで悪くない」
「おっ、わかってるわね!」
いいことを言う男の子に、グーと指を突き出す。するとこれまた、ははは!と笑われた。
「君の姉君は、なかなか面白い人だな」
「うん! おねぇちゃん、やさしいし、たのしいこともうれしいことも、たくさんおしえてくれるのよ!」
クラリスに声をかけてくれる男の子の表情は、とても優しい。この子、とってもいい子だわ。
「あ、そうだ。名前、教えてくれる? 私はミレーヌ。こっちは妹のクラリスよ」
「クラリスです。四さいよ」
「俺はシャル……そう、シャルだ。よろしくな、ミレーヌ、クラリス」
うーん、偽名、かな?
「こちらこそよろしくね、シャル。お連れの方を見かけたら、教えてね」
名前、ちょっと間があったよねとおもいつつ、気付かないふりをしてそう応える。まあ貴族のお忍びなんてそんなものかもねと納得し、とりあえずお連れの人も探しているだろうから、早く見つけてあげようと気を引き締める。
そうして自己紹介を終えた私たちは、三人並んで歩き始めた。
あまりこの場から離れるのもどうかと思ったので、近くのお店を巡っていたのだが、お連れの人は見つからない。さすがにクラリスも疲れてきたようだ。
「ごめんなさい、ちょっと、あし、いたくなってきちゃった……」
申し訳なさそうに俯くクラリスに、シャルは眉を下げた。
「いや、俺に付き合わせて悪かった。むやみやたらに動いてもだめだしな、少し休憩しよう」
そう言うとシャルは、近くのカフェを指さした。素朴な雰囲気で、オープンテラスがある。たしかにあそこで休憩していれば、こちらからもお連れの人からも気付けるかもしれない。
「金は心配するな。無理に付き合わせたお詫びといってはなんだが、ご馳走させてくれ」
うわぁ、男前な台詞だわ。しかし、お言葉に甘えたい気持ちもあるが、たぶんそのお金って……。
「ありがとう。でも、いいのよ。元々迷惑をかけたのはこちらなのだし。それに、ほら、お金を持っているっていっても、それはあなたが働いてもらったものではないでしょう? それはあなたのご両親が、あなたのためにくれたお金よね。ぶつかってきた姉妹にご馳走するためのお金じゃないと思うの」
ここは元・社会人として断るべきだろう。まだ少年と言ってもいい年の子にご馳走すると言われて、わーいやったー!と無邪気に受け入れるのはちょっと。
「だから、ね? 疲れた妹を休ませてあげたいっていう、優しい気持ちだけいただくわ。あ、でもたしかにあのカフェは気になるし、シャルがよければ付き合ってくれる? もちろんお支払いはそれぞれで、ね?」
ご馳走してあげると言った方がいいのかもしれないが、それでは逆に気を遣わせてしまうもの。
「……なるほど。ミレーヌの言うことにも一理ある、かもな。はぁ、そう言われてしまっては仕方がない。自分の分は自分で、それでいこうか」
「ありがとう。さあクラリス、たくさん歩いて疲れたし、美味しいもの食べに行きましょう?」
「わぁーい!」
納得してくれたシャルとともに、カフェへと入る。思った通り、落ち着く雰囲気のお店だ。




