うちの天使な妹が、実は……? 1
「おねえちゃん、見えてきたよ!」
「本当だ。わあ、賑わっているわね」
国境沿いの街が見えてきて、クラリスがはしゃぐ。乗り合い馬車の中だから、控えめにねと窘めつつも、内心はかわいくてたまらない。
できるだけ節約しようと徒歩で移動してきた私たちだが、まだ四歳のクラリスに無理をさせるわけにはいかない。こうして時々乗り合い馬車も利用して、のんびりここまでやってきた。
お金は子爵家にいた時にこっそり内職をして小金を稼いでいたので、多少は持ってきた。
ここに来るまでの間、泊まった宿屋でお手伝いを申し出ると、少しだけ安くしてくれたし。このままここで働かない?とのありがたい申し出もあったが、丁重にお断りさせていただいた。
まあ、こんな小さい妹を連れて旅をしてるって、訳アリだと思われただろうしね。あんまり小綺麗にしているとひったくりに狙われやすいから、わざとヨレヨレの服を着ているのも同情を引いたのかもしれない。
「おねぇちゃん? ねぇ、やどのおばさんがくれたパン、ちょっとたべない?」
キュン。
「うん、いただこうかな。ありがとう、クラリス」
えへへとパンを差し出してくれたクラリスに、にっこりと微笑みを返す。
うん、同情もあると思うけど、クラリスのこのかわいさにやられた人も多いと思うんだよね。
意外と人懐っこかったクラリスは、行く先々で出会う大人たちをメロメロにしていた。容姿がかわいいのはもちろん、きちんとお礼が言えるし、愛想もよく、私が宿の掃除のお手伝いをしていると、私も!と言って一緒にやってくれた。
そんな私たちを見て、しっかり者の姉と姉思いの妹という印象を受けた大人たちは、なにかとよくしてくれたのだ。
クラリスは今は汚れた格好をしているけれど、きれいにしたら見た目も今以上にかわいくなるはず。
こりゃ年頃になったら、悪い虫がつかないかしっかり見張っていないといけないかもねと、少し先の未来を憂う。
「おねぇちゃん、たべないの? パン、おいしいよ?」
「え? あ、ごめんごめん。クラリスがあんまりかわいいから、ついパンを食べるの忘れちゃっていたわ」
なにそれー!と笑うクラリスをにこにこと見つめながら、半分こにしたパンを頬張る。こんな小さいパンでも、こうやって楽しく食べられるのっていいなと幸せを噛み締めた。
そうしてパンを食べ終わると、ちょうど国境沿いの街に到着した。御者の方にお礼を言って降りると、街の賑わいがよくわかる。
「いろんなおみせがあるんだね! それに、いろんなひとがいる」
国境付近ということもあり、この国では珍しい服装や風貌の人がちらほら見られる。
「そうね。世界には、色んな人がいて、色んな文化があるから。私たちとちょっと違うこともあって、びっくりするかもしれないけれど、素敵だねって思えるといいわね」
「うん! わかった!」
なんて素直なのだろう。本当にクラリスはいい子だ。
異文化理解、これ大事よね。互いのよいところを認め合えば、争いって生まれにくいものだもの。
そういう意味では、私たちが今まで暮らしていたラングレー王国は、ちょっと差別的な風潮がある。それゆえ大小あれど、他国との争いが絶えない。
隣国へ行きたいと思ったのは、それが原因でもあるのよね。やっぱり健やかな子育てには、よりよい環境が必要というか……。
「申請にも時間がかかるし、とりあえず国境を越えるのは明日にしましょう。もうすぐ夕方だから、少しお店を見回って早めに宿で休みましょうか」
「はぁい!」
元気な返事に、にっこりと笑顔を返す。こんなに幼くて純粋なのだ。できることなら、争いとは無縁の世界ですくすく育ってほしい。
それは、綺麗事なのかもしれない。私に平和な現代日本で暮らしていた記憶があるから、こんなことを考えるのかも。
それでも、この子には幸せになってほしい。両親を亡くして、辛い思いをした分、これからは。
「おねぇちゃん、ぼーっとして、どうしたの?」
「ううん? なにか美味しいもの売ってないかなーって思っただけ。あ、あっちのお店、見に行ってみましょう」
ぎゅっと小さな手を握り、お店が並ぶ通りへと進んで行く。そこには食べ物や洋服、アクセサリーなど色々な種類のお店があって、見ているだけでもわくわくした。
クラリスも目を輝かせて、あれはなに? これは?と興味深々だった。色んなことに興味を持つのもいいことだよね。
そうやってウィンドゥショッピングを楽しんでいると、普段はわりと大人しいクラリスも、だんだん興奮気味になってきたようで、あちこちきょろきょろしたり、動き回ったりするようになってきた。
これは迷子にならないように気を付けないと……!と思っていた時、クラリスは気になるものを見つけたのか、急にぱっと駆け出した。
あ、危ない。
「きゃぁっ!」
私が声に出す前に、クラリスは近くを歩いていた男の子とぶつかってしまった。
しまった、急に走ったりうろちょろするのは危ないし、周りの人の迷惑にもなるとちゃんと言っておかなくてはいけなかったのに。
「いてて……」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫? クラリスも、ケガはない?」
ぶつかった拍子に尻もちをついてしまった男の子とクラリスに、慌てて駆け寄った。




