毒親との決別、そして新たにはじめる2
シャルリエ子爵領のことは、少しだけ聞いている。
なんでも災害への対応を全くと言っていいほど行っておらず、税徴収もありえない額を提示してきたり、今までされてきた不足している食料の配給などがされていなかったりと、領民からの不平不満がものすごいことになっているらしい。
……おかしいな、引継書は完璧だったはずなのに。そう思ったけれど、それを理解できる頭がないのだから、最初から無理な話だったのだろう。
「ごめんごめん、ちょっといじめすぎちゃったね」
「いじめ? シャル、おねぇちゃんをいじめちゃだめよ!」
勇敢にも声を上げるクラリスの頭を、シャルが撫でる。
「うん、ごめんね。……さて、この後のことだけれど。今陛下と謁見している公爵とともに、少し打ち合わせをして、夕方にいよいよ対面だ。心の準備はできているかい?」
「……ええ。顔を合わせる覚悟も、彼らと決別する意志も、ちゃんとあるわ」
そう言い切る私に、シャルがにっこりと笑った。
「そう。安心したよ、あんな両親には、君はもったいないからね。俺も君の味方だからね、遠慮なく言ってやるといいよ」
なかなか好戦的な発言に、ラングレー国王とどちらが上かしらと、そんなことを考える。
するとその時、扉がノックされると、アドルフ様が中に入ってきた。
「おや、お疲れ様。まぁ座りなよ。それで、どうだい? 陛下はなんておっしゃっていた?」
シャルがそう声をかけると、アドルフ様はため息をつきながらソファに座った。侍女は先ほどお茶を出してくれた後に出て行ってしまったので、代わりに私がアドルフ様のお茶を淹れる。
「ミレーヌ、ありがとう。……陛下は、殿下にも考えがあるようだし、君たちのやりたいようにやればいいとおっしゃっていました。本当に殿下は信頼されておりますね。……若干、向こうの子爵夫妻を憐れんでおりましたが。トラウマになるだろうなぁとおっしゃっていましたよ」
「ははっ、人聞きが悪いなぁ。公爵も、そんなことありませんって弁解してくれていいんだよ?」
……トラウマ? 国王陛下がうちの両親を憐れむ……って。どういうこと?
それに、本当にこのふたり、仲がいいのね。十歳ほど離れているはずだけど……。たしか、シャルがもう少し小さかった時に、アドルフ様が数年間、話し相手として王宮に滞在されてたんだよね。
馬車の中で教えてもらったことを思い出し、まるで年の離れた兄弟みたいねと微笑ましく見ていると、アドルフ様と目が合った。
「君のご両親だが、まあその、痛い目を見てもらうことになると思う。殿下が教えてくださらないので詳細はわからないが、なにやら色々根回ししたようだ」
「え……シャルが?」
なんと、今回の両親との面会は、シャルが段取りを組んでいたようだ。
「ふふ、色々と予想通りに事が進んで、喜ばしいことだよ。さて、一応確認しておくね。ミレーヌは、子爵夫妻とは縁を切る覚悟でここに来たんだよね?」
どこまで先を読んでいるのか。天才だと言われているのは知っていたが、こうして賢さを目の当たりにすると、怖いくらいだ。でも。
「……ええ。親とも娘とも思ってもらわなくて構わない。私の家族は、あの人たちじゃないわ」
しっかりとシャルの目を見つめる。本心からの言葉だと、伝えるために。
「了解。これで思いっきりやれるよ。ちょっと冷や冷やさせてしまうことは出てくるかもしれないけど、最終的にはこちらの思惑通りになるはずだから、安心して?」
うわぁ……。なんか、謎の納得感が。陛下がうちの両親を憐れんでいた意味が、ちょっとわかる気がしてきた。
「ええと……。お手柔らかに?」
「うーん。善処するよ」
〝善処する〟という言い方をするがまた怖い。
「ねぇおねぇちゃん、オモワク? ゼンショ? って、なに?」
きょとんとしたクラリスの純粋さに、なんだかとっても癒やされる。
「難しいことは、大人に任せておけばいいのよ?」
眉間に皺を寄せて微妙な顔をするアドルフ様とともに、両親との面会に違う意味でものすごく不安を感じるのであった。
そして、いよいよ対面の時。
会議室のような、少し広めのホールに案内された私とクラリス、そしてアドルフ様。シャルと国王陛下の姿もあり、少し離れたところに座っている。
そしてしばらく待っていると、ノック音がして、侍女が扉を開くと両親――シャルリエ子爵夫妻の姿が見えた。
「ああっ、ミレーヌ!」
「やはりミレーヌだったか! 会いたかった、探したぞ!」
入室したかと思うと、ふたりは私を抱き締めに来た。なるほど、そういう感じなわけね。
「……放してください。国王陛下、並びに王太子殿下の御前ですので、礼節に則った振る舞いをいたしましょう?」
思ったよりも冷たい声が出た。もっと動揺するかと思っていたけれど、意外と冷静だ、私。
「あ、ああ、そうだな」
「あら、私としたことが……。申し訳ございません、陛下」
子爵家にいた頃と雰囲気の違う私に戸惑っているのだろう、両親は陛下とシャルに挨拶をしたが、動きが硬い。
そんなふたりの様子を見ていたアドルフ様の表情は、厳しい。シャルは微笑んでいるけれど、あれはあれでなにを考えているのかわからなくて怖いわね。
そして形式的な言葉を交わすと、いよいよ本題に移った。
「――で? うちの大切なミレーヌを連れ去ったのは、そちらの方ですかな⁉」
なんと、父はいきなりアドルフ様に指を指してそんなことを言い放った。




