毒親との決別、そして新たにはじめる1
「な・ん・で! ついてきちゃったの!?」
「えへへ。おねぇちゃんがしんぱいで」
王宮に到着予定の日の朝、なんと荷物の中からクラリスが現れた。
それはもう、それはもうすっっっっごく! 驚いた。
どうりで別れの時にあんなに普通だったわけよ! いったいどうやって荷物に紛れ込んだのか。いや、ひょっとして、半日なにも食べずに潜んでたの!?
「えっとね、けーたいしょく? しょくどうで、つくってもらったの!」
なんて用意周到な……。うん? ちょっと待って。賢いとはいえ、クラリスはまだ四歳。シャルじゃあるまいし、そんなことまで考えられるものかしら?
「……もしかして、ノノカ?」
「ち、ちがうよ!? ノノカおねぇちゃんは、おばさんにおねがいしてくれただけだも……あ」
ぱっ!とクラリスが両手で口を塞いだが、もう遅い。
「はぁ……いったいなにを考えているのか……」
「ノ、ノノカおねぇちゃんをおこらないで! わたしがおねがいしたの!」
慌ててノノカを庇う姿はとても愛らしいが、ここで許すわけには……。
「そのあたりで止めておけ。ついてきてしまったものは、仕方がない。ここから引き返すのも難しいし、クラリスも連れていこう」
それまで黙って見ていたアドルフ様が、ため息をつきながらそう判断した。
「やったぁ! こうしゃくさま、ありがとうございます!」
「やったぁ!じゃないのよ、クラリス……。はぁ」
がっくりと肩を落とす。なんのために屋敷で留守番してもらったと思うのか。
アドルフ様は知らないから仕方がないが、クラリスは光魔法を使える。信頼できる人たちにも、もう少し大きくなるまで秘密にしておきたかったし、もしも両親に知られたら大変なことになる。
魔法さえ使わなければバレることはないと思うが、少しでも危険なことに巻き込みたくなかったのに……。
「クラリス、約束して。危ないことは絶対にしないって」
クラリスの両肩に手を置き、しっかり目を合わせて小声でそう伝える。
「……魔法も、もちろん使っちゃだめだからね?」
そして囁く。アドルフ様に聞こえないような、小さな声で。
「わかった。やくそくする」
真剣な目のクラリスに、仕方がないかと諦めることにした。
「ではクラリス、ミレーヌとは離れないように。そしてなるべく、私の近くにいてくれ」
「はいっ! わかりました!」
とてもよい返事すぎて、逆に心配になる。隼斗もよく、わかった!と言った数十秒後に、なにかしらやらかしてくれたものだ。
「申し訳ありません、アドルフ様」
「いや、大丈夫だ。クラリスは賢いからな。幼いながらに、きっと君の支えになりたかったんだろう」
アドルフ様の優しい声に、ぎゅっと胸が縮むような感覚がした。
「みんな、君のことを大切に思っているんだ。それは忘れないでおいてくれ」
「……はい」
どうしてこの人は、私が嬉しくなる言葉ばかりくれるのか。そんなことを言われたら、不安で震えることもできなくなってしまうじゃないか。
「おはなし、おわった? わたし、おなかすいちゃった……」
ぐうっとクラリスのお腹が鳴る。
「ぷっ、あはは! そ、そうよね、半日荷車の中で、携帯食しか食べてなかったんだもの。お腹、空いたよね?」
「こほん、では、食事処に行こうか。好きなものを頼むといい」
「……こうしゃくさま、わらったでしょ? おねぇちゃんも、わらいすぎー!」
こんな時でも空気を和らげてくれる、クラリスの存在がありがたくて。
いよいよ明日は、両親との再会の日。それでいて、彼らと決別する予定の日。
「みんないっしょなら、きっとだいじょうぶだよ。ね? おねぇちゃん!」
前向きで明るいクラリスの声に、私は心からの笑みを返した。
「やあ、よく来てくれたね。ミレーヌ、クラリス、元気だったかい?」
昼前。王宮に到着した私たちは、まず貴賓室でシャルと会うことができた。アドルフ様は国王陛下と謁見中なので、残念ながらここにはいない。
「シャル! またあえて、うれしい!」
「おかげさまで、ふたりとも元気よ。私も、また会えて嬉しいわ。……こんな状況じゃなかったら、もっとよかったんだけれど。うちの両親がご迷惑をおかけして、本当に申し訳ないわ」
出されたお茶を飲んで、はあっと息をつく。
「まあまあ、君のせいではないだろう。それにしても、君が逃げてきた訳がよく理解できたよ。彼らも昨日到着されたのだが、それはもう理解不能なことだらけでね」
苦笑いするシャルに、頭をぐりぐり打ちつけて土下座したくなった。……この世界に土下座という文化はないので、そんなことをしたら頭がおかしくなったと思われるから、やらないけど。
「君、本当にあのふたりの娘? たしかに骨格は母君に似てるけど、中身はさっぱり、だね? 謙虚さの欠片もなかったよ」
「………………たいへんご不快な思いをさせてしまいまして、申し訳ございませんでした」
思わず口調まで変わってしまった。いや、王太子様相手なのだから、これが正しい言葉遣いなのだろうけど。
「ははっ! 気にしないでくれ。あんな人種もいるのだなと、ひとつ勉強になったからね。子どもだと侮られることは多々あるけれど、こんな子どもに政策の一部を任せるなんて、人材不足なんだなと笑われたよ。フォートリエ王国の未来は真っ暗とまでおっしゃっていたね」
「〜〜〜っっ、重ね重ね、謝罪いたします……!」
私の土下座などでは足りないくらいの不敬である。隣国との関係悪化とか、そんなことも考えられないのか。……できないから、今困ってるんだろうけどさ。




