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転生した大家族長女の私、今世は天使なちびっこと幸せになります!  作者: 沙夜


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*幕間*公爵様の事情②

本日もアドルフ視点です。

いつもより長めです(^^)

 それから両親が事故で亡くなるまでの四年間、私は王宮に頻繁に滞在することになり、殿下の側で多くの時間を過ごした。


 話し相手に選ばれたことを両親はとても驚いていたが、『おまえがいいなら、構わない』というひと言だけで、特に意見はないようだった。


 話し相手という名前通り、私は殿下と様々な話をした。私も大概、同年代の令息令嬢たちとは話が合わなかったのだが、この妙に大人びた年下の殿下とは、意外と話をしていて楽しかった。


 それは殿下も同じだったようで、私と話をするのは楽しいとよく笑顔を見せてくれた。一緒に本を読んだり、王宮の騎士に剣術を習ったり、まるで年の離れた兄弟のように過ごした。十八歳を過ぎてからは、殿下の教育係の補助をするという仕事も請け負うようになった。


 そうした日々は悪くないものだったが、ひとつだけ、億劫なこともあった。


 殿下に気に入られた公爵家の嫡男である私を、有望な結婚相手だと目を付ける者が多かったのだ。ぜひ我が家に婿入りにと言ってくる者もいれば、娘と一度会ってみないかと様子を窺う者もいた。


 中には令嬢が直接接触してくることもあり、けばけばしい化粧と香りの強い香水、馴れ馴れしい態度で接してくる令嬢たちに、私は嫌悪感すら覚えていた。


 元々そうした興味は薄かったのだが、女性が苦手になったのは、この時からだと思う。話をするのはまだ大丈夫だが、そういう目で見られるともう無理だ。


 決定打となったのは、かなり年上の未亡人に襲われかけたことだった。すぐに振りほどき逃げたため、どうこうなったわけではないが、押し倒された時のあの不快感は言いようがなかった。


 まあそんなわけで、元々表情が乏しいことに加え女性に対する冷たい対応、仕事に対する厳格な姿勢から、他人に厳しいだの、女嫌いだのと言われるようになった。


『おまえ、そんな調子で公爵家を継げるのか? 仕事に関しては心配ないとして、女性への対応はよくないぞ。化粧が濃くて香水臭い女が苦手という気持ちは、まあわからなくもないが』


 なにも知らない殿下は、呆れたように私に言った。十歳にも満たない殿下に、未亡人に襲われたなどという話をすることは流石にできなかったため、こうした反応は仕方のないことだろう。


 それに、女性が苦手でも公爵家のために結婚しなくてはいけないことはわかっている。きっと両親のような関係になるのだろうなと、こっそりとため息をつく。


 親愛を知っていても、恋愛は知らない。


 友愛を知っていても、家族愛は知らない。


 せめて穏やかな関係でいられたらなとは思うが、こんな私を受け入れてくれる女性はいないだろうとも思う。それでも、もしかしたらという思いもある。


 どこか欠けた、この気持ちを満たすなにか。それがなにかはわからないけれど、それでも、いつか。


『ははっ、いつか会ってみたいものだな。冷静沈着なおまえの、その鉄仮面を剥がしてしまうような女性に』


『……そんなご令嬢と出会えたら、すぐに教えて差し上げますよ』


 そうかと笑う殿下、そのご両親である国王陛下夫妻は、おしどり夫婦として有名な方々だ。おそらく、自分や私にもそういう相手が現れるはずだと、疑うことなく考えているのだろう。


 けれど、世の中にはそういう夫婦ばかりではないのだということを、私は知っている。


『もし出会えたら、の話ですが』


 ぼそりと呟いた言葉は、殿下の耳には届いていないようだった。そんな可能性は低いだろうなと自嘲し、その会話を終えたのだった。


 その後両親が亡くなり、私はわずか二十一歳で公爵の位を継ぐことになった。涙は、出なかった。


 当然のようになかなか王宮に滞在することはできなくなったが、その頃には頭角を現してきた王太子殿下も少しずつ仕事を任されるようになり、互いに忙しくなって丁度よいかもなと殿下に言われ、それもそうかと納得して領地に戻った。


 とはいえ、王宮で過ごすことが減った分、領地で周辺諸国の情勢を探るようにと殿下から申し付かった。離れてからも国のために色々と動き、情報を掴めばすぐに殿下に伝え、できる範囲で国を支えてきたつもりだ。


 公爵としての仕事もこなしながらの生活はなかなかに厳しかったが、やることがたくさんあった方がいい。余計なことを考える暇がなくて、忙しいことを言い訳にできるから。


 時折殿下に呼び出されて数日王宮に滞在することもあったが、その度に『公爵! どうだ、よさそうな女性とは出会えたか?』と聞かれるのがお決まりになった。毎回ため息をつきながら首を振るのに、殿下は気にすることなくそうかと笑う。


 そのうち伴侶を得なくてはいけないとわかっていながらも、見つける気にもならなかった。急な代替わりで公爵家が落ち着いていないからと、もっともらしいことを言って。


 本当は、怖かったのだと思う。政略結婚などそういうものだとはいえ、ひとりの女性を幸せにする自信なんてなかった。子どもをつくれば、その子どもの人生にも責任を負わなくてはいけない。自分にそれができるとは、到底思えなかった。


 ますます表情は乏しく、他人への対応はそっけないものになっていき、ついに〝冷徹公爵〟などと呼ばれるようになってしまった。自分でもあながち間違ってはいないなと思うので、特に気にしてはいないが。


 そうして公爵位を継いで、あっという間に一年が経ったある日。私は殿下に呼び出された。今度は何事だろうか、また無理難題を押し付けられるのではと、少々億劫な気持ちになりながら王宮へと出向くと、殿下から予想だにしなかった話を持ちかけられた。


『侍女をひとり、ですか?』


『ああ。幼い妹も一緒だから、正確にはふたりだが』


 聞けば、殿下は国境を越えた先の街でお忍びで視察をした際に、世話になった姉妹を保護したのだという。十六の少女と四歳の幼女。なぜ私が?と戸惑わずにはいられなかった。


『幼い頃から身の回りの世話をしてくれていた侍女が最近辞めて、困っていると言っていただろう?』


『たしかに言いましたが……』


 長年側にいてくれたスーザンだが、年には勝てず、先日腰をやってしまって引退することになった。息子夫婦が一緒に暮らしてくれることになったというのに、止める理由などなかったため、色を付けた退職金を渡し、別れを惜しみつつも見送った。


 心にぽっかり穴が空いたというのはこういうことかと実感し、そして今まですべての身の回りの世話を任せてきた存在がいなくなり、正直とても困っていた。それは間違いない。しかし。


『十六の成人したての少女に、務まりますか? 自分で言うのもなんですが、私の相手はかなり厄介ですよ? それに、殿下の恩人とはいえ、自分の身を自分で守れないような者や、無作法者を雇い入れるようなことはしたくありませんね』


 きっぱりと断る。お忍び中に出会ったということは、おそらく平民。妹とふたりということは、両親がいない、いわゆる孤児である可能性も高い。――それに、狙われることの多い公爵家だ、使用人は戦闘能力が高い者を集めている。


 気立てがよく殿下のお気に入りだとしても、公爵家で働けるだけの知識も技量もマナーも、そして戦闘能力も持ち合わせていない者を、そう簡単に雇うことは――。


『いや、彼女は大丈夫だ。公爵が危惧していることに想像はつくが、まったく心配いらないと返事をしようじゃないか。まだ調査中ではあるが、彼女はおそらく貴族だ。マナーやふるまいについては問題ないと思うよ』


 人間の立ち居振る舞いというものは、そう簡単に変えることはできない。それはもう、体に染みついてしまっているものだからだ。


『まあ、戦闘能力は皆無だろうから、これには対策が必要だけどね。ああ、これは予想以上だったんだけどね。きっと非常に面倒くさい君の相手も、なんでもないことのように対応してくれると思うよ。断言しよう、君もきっと、彼女を、いや、彼女たちを気に入るはずだ。戦闘能力が乏しいことを差し引いても、お釣りがくるだろう』


 悪戯な顔をする殿下に、これ以上異議を唱えるのも無駄だなと観念し、私はふたりの少女を受け入れることにした。


 最初は、すぐに音を上げるだろうと思っていた。多少働いて小金を稼いだら、それなりの働き口と住む場所を紹介してやればいいかと考えていた。


 スーザンを相手にしていた時のように、気楽に接することはできないだろう。せいぜい二、三ヶ月ほどの我慢だ。そんな風に、思っていた。


 まさか、殿下の予言通りになるなんて、この時は思いもしなかったから。


『ああ、ミレーヌ、クラリス。さあ、座ってくれ』


 殿下に二人の少女を紹介された時は、正直、かなり驚いた。まるで妖精のような姉妹だと、柄にもなくそんなことを思った。


 姉のミレーヌは、深い蒼の瞳に淡い水色の髪。繊細で透明感のある顔立ちに、思わず魅入ってしまった。


 妹のクラリスは、空色の瞳に柔らかそうな淡い桃色の髪。まだ幼いが、可憐な雰囲気とふわりとした笑顔がかわいらしいと思った。


 隣国からこの国まで旅をしていて、殿下とはその途中に出会ったのだと聞いていたが、こんな目立つふたりが一緒にいて、よく何事もなくここまでこれたものだと呆れた。それくらいに、とても整った容姿の姉妹だった。


 話をしてみると、ふたりは、特に姉の方はとても教養があることがわかった。挨拶も所作も、殿下がおそらく貴族だろうと言っていたのは、当たりだろう。妹の方も、挨拶など必要以上のことは口を挟まず、大人しく姉の隣に座っていた。


 特別扱いはしないということだけはきっちり伝えさせてもらったが、まあ、しばらくは保つかもしれないなと思った。十六という年の割には落ち着いているし、芯のある眼差しをしていたから。


 仕方がないなと諦めて受け答えをしていたところ、なんと殿下に『そんなことだから公爵には浮いた話のひとつもないんだよ』と呆れられてしまった。


 なぜそんな話に。そうは思ったが、あながち的を外しているわけでもなかったため、否定はできなかった。


 そこへ殿下がミレーヌという娘に話を振った。そんなことを言われても、たかだか十六の少女に答えられるわけがない。しかも相手は、自分で言うのもなんだが、不愛想な年上の公爵。どうでしょうかと返答に困るくらいがせいぜいだろうと思っていた。


 しかし、ミレーヌの返答は予想外のものだった。


『……たしかに、事実だろうが、相手への配慮なしにそのまま口にするのは、時としてよろしくないこともありますね』


 適当な言葉で誤魔化さず、自分の考えをしっかりと口にしたのだ。


『誰が相手であっても、敬意を払ったり、相手を思い遣ったりする気持ちは大切だと思います』


 その通りだと思った。公爵という身分の自分には擦り寄るけれど、平民や身分の低い者にいは横柄な態度をとる貴族たちを、たくさん見てきたから。


 女性に対してどうこうは正直どうでもいいと思ったが、この娘の言葉には妙に説得力がある。


 言葉がしっかり通じる人物だとわかり、それならばと私も自分の思いを口にしてみた。自分の不安を、言葉にしたのだ。


 するとミレーヌは、不安な気持ちはよくわかったと、私の気持ちに寄り添う様子を見せた。そして、仕事なのだから、比べて当然だと自分から言ったのだ。


『ベテランのスーザンさんに劣ることも多いとは思いますが、私は私にできることを精一杯させていただきます。その中で、少しでもご満足いただけることを増やしていけるよう、精進いたします』


 自分はできると誇張するのでもなく、だからといって卑下するのでもない。ただ、自分ができる精一杯のことをやると口にした。


 謙虚でありながら、向上心のある前向きな姿勢に、好感を持った。


 まるで妖精のようだと思ったが、儚い見た目通りではないのだなと認識を改めた。彼女は聡く、強い。今まで出会ってきた女性とは違う。


『……殿下がこの娘を気に入ったという理由は、よくわかりました』


 素直に、そう認めたのだった。


 ――この時はまだ、夢にも思っていなかった。この出会いが、自分を変えることになるとは。





 その後、領地に戻った私は、再びミレーヌの認識を改めることとなる。


 なにが妖精だ。下町の酒場を切り盛りする、やり手女将の間違いじゃないか。人を見た目で判断してはいけないとは、よく言ったものだ。


 その可憐な容姿が詐欺じゃないかと言いたくなるような、強く、それでいて優しいミレーヌの本質に触れることで、心を動かされ、愛しい気持ちとはなにかを知っていくことになるのだが……。


 まさか、あんなことが起こるなんて。


 ぬるま湯の中に浸るような、穏やかで平凡な日々がこのまま続くと良いのにという願いとは裏腹に、その幸せは、ある日突然終わりを迎えたのだったーー。

明日からは本編に戻ります。

ラストまであと少し!

最後までどうぞよろしくお願いします(*^^*)

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