毒親の陰謀3
「……ミレーヌって、なんでもできる完璧人間だと思っていたのに、そっち方面はからきしだったのね」
「そっち方面ってなに⁉ こうやって話をしているだけでも胸がドキドキして、落ち着いて両親と対面できるか不安なんだけど!」
「そっちほーめん? たいめん?」
その夜。明日からの支度を終えた私は、ノノカに誘われてクラリスと三人で夕食をとっている。
日中のアドルフ様とのやり取りをノノカに話していると、ものすごく胡乱な顔をされてしまった。
「まさか、その胸の痛み、原因は逃げてきた両親と会うからだって思ってるの……?」
「そうよ! だってすごく怖いんだもの。また、あの生活に戻るかもしれないって思ったら、私……」
想像しただけで、身体が自然と震える。
「おねぇちゃん……」
クラリスが心配そうに覗き込んでくるが、すぐに立ち直せずにいる。心配かけちゃうから、なんでもないよって言わなきゃいけないのに……。
クラリスに対して苦笑いしか返せない私を見て、ノノカが口を開いた。
「……ごめん。そうだよね、実の両親から逃げてきたってことは、それなりの理由があるんだもんね。ミレーヌが貴族のお嬢様だって聞いて、半分は納得したけど、半分は不思議だったんだ。お嬢様なのに、どうして侍女仕事が得意なんだろうって」
目を伏せるノノカに、私のことを思って普段通りに接してくれていたのだと、胸が痛む。
召喚状が届いた日、私は屋敷のみんなにすべてを話した。
ラングレー王国の子爵令嬢だったこと。
でも、家族とは折り合いが悪くて、許可を得て家出したこと。
クラリスとは、下町で出会って、両親を亡くして親戚の家で辛い思いをしていると聞き、他人事に思えなくて、一緒に行くことにしたこと。
国境の街でシャルに出会い、王太子とは知らずに仲良くなり、越境する際に助けてもらったこと。
王宮での暮らしは贅沢すぎて、働きたくてアドルフ様を紹介してもらったこと。
クラリスが実の妹ではないことも含めて、全部、詳らかに。
実家でどんな扱いをされてきたかまでは話さなかったが、察している人は察しているのだろう。ノノカのように。
「ご両親に会うのは、すごく勇気がいることだと思う。でも、きっと大丈夫。だってうちの公爵様がついているんだからさ。それに、王太子殿下とも友だちなんでしょう? これ以上、実の娘だからって好き勝手されないようにするために、行っておいで。次はここに、笑顔で帰ってこれるように」
「……うん!」
顔を上げたノノカの励ましに一瞬驚いたが、すぐに元気よく返事をする。
そうだ。私は、あの家族と訣別するために行くんだから、そんな弱音を吐いてちゃいけない。
「ありがとう、ノノカ。次に会う時は、もう隣国の子爵令嬢じゃなくて、セルヴェ公爵家の、ただの見習い侍女のミレーヌだから」
「なにそれ、あんたみたいな見習いなんて、普通いないから。でも、クラリスと一緒に待ってるからね。気を付けて、いってらっしゃい!」
背中を押してくれる存在がありがたい。ああ、ここに来て、ここで働けてよかった。
「クラリスも、ほら。しばらくミレーヌに会えないのは寂しいだろうけど、私が代わりに一緒に寝てあげるから、お利口にしていようね」
ノノカがクラリスにそう声をかけてくれたのだが、クラリスは俯いてなにかを考えているようだった。
「? クラリス?」
「あ、ううん、なんでもないよ?」
……なんでもないっていう顔をしていないのだが。クラリスに限ってとは思うのだが、なんとなく、なんとなくだけど、いけないことを考えている時の双子とか隼斗に似てる気がする……!
「おねぇちゃん、そんなへんなかお、しないでよ! ノノカおねぇちゃんと、おりこうにまってるから! だいじょうぶ!」
ふんすと一見やる気にあふれた様子だが、なにかがおかしい。
「クラリス……?」
ジト目でじーっと見つめる。クラリスは目を泳がせるが、正直に話そうという顔はしていない。
「だ、だいじょうぶだから!」
「本当に?」
「ほ、ほんとだもん!」
「本当は?」
「ほんとだってばー! もう、しつこいっ!」
「し、しつこい……!?」
クラリスにしつこいと言われ、ちょっぴりショックを受ける。
しかし、ここまで問い詰めてみても言わないということは、かなり強い気持ちみたいね。
「あはは! クラリス、なかなか言うわね。ふふ、大丈夫よミレーヌ。クラリスは、おねえちゃんが困るようなことはしないって」
ノノカの助け舟に、クラリスがうんうんと頷く。
「……わかったわ。クラリス、いい子にしててね?」
「うん!」
とってもいい返事だったし、ノノカに免じて深くは聞かないでおくか。
「あ、ちょっとお水、取りに行ってくるね」
クラリスのコップが空になっているのに気付いた私は、カウンターのところにおかわりをもらいに行く。
自分のことも不安だけど、残していくクラリスのことも心配だなぁなんて、そんなことを思いながら。
「ねぇ、ノノカおねぇちゃん……」
「うん? どうしたの、さっきミレーヌに言えなかったこと?」
少しの間だけとはいえ、席を離れていた私は、ふたりが内緒話をしていたことにまったく気が付かなかった。




