命の眠る、宝の山 11
「お嬢様! お約束のものができあがりましたよ!」
あれから約一カ月。いつものようにアドルフ様の仕事の手伝いをしていると、商人さんが屋敷を訪れた。約束のものとは、きっとクラリスのネックレスだろう。
「わあ、ありがとうございます! 本当は見たいけど……。でもこれはクラリスのだから、夜に渡す時に一緒に見ますね」
そう言って渡された小箱をポケットにしまう。ふふ、クラリスの喜ぶ顔が目に浮かぶなぁ。
「そうですか、では小さいお嬢様にもよろしくお伝えください。それとこれは、あなた様に」
商人さんから、また別の小箱を渡される。なんだろうとそっと小箱を開けると、そこにあったのは。
「琥珀の……イヤリング?」
にっこりと商人さんが笑う。そして商人さんは、ちらりと私の後方へと視線をやった。……まさか。
「公爵様よりの、贈り物でございます。こたびのコーパル村の件で、お嬢様にお礼の品をと」
振り向いてアドルフ様を見ると、少し照れたような表情で頬杖をついていた。視線を逸らして、ため息をついている。
「ご自分でお渡しになってはとお伝えしたのですがねぇ……。おまえから渡せと言われましたので、ご本人がいらっしゃる前でがよいかと思いまして」
「余計なことを……」
ぶつくさと呟くアドルフ様に、くすっと笑みを零す。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます。今、つけてみても?」
「……好きにしろ。もう君のものだ」
好きにしろと言われたので、早速つけてみることにする。準備のいい商人さんがさっと手鏡を出してくれたので、それを見ながら両耳につけていく。
「できた。……アドルフ様、いかがでしょうか?」
「……わ、悪くは、ない、んじゃないか?」
ちらりと見て、すぐに目を逸らされてしまった。けれど、その気持ちは十分に伝わってきた。
「ありがとうございました。とっても気に入りました! ふふ、アクセサリーを誰かにもらうのなんて、初めてです。部下への功労品にしてはやりすぎな気もしますが、この一カ月あまりで琥珀ブームが爆発しちゃいましたもんね!」
「はあっ!? き、君は……っ」
あれ? 寝起きはともかく、日中はわりと冷静なアドルフ様にしては、なんか反応が過剰なような?
顔を真っ赤にして立ち上がるアドルフ様に、首を傾げる。
「おやおや、お嬢様もなかなか鈍くていらっしゃる」
ほっほっと笑う商人さん、ますます意味がわからない。
「~っっ、もういい、仕事に戻るぞ。商人、引き続きコハクに関しては、逐一報告を頼む。間違っても悪徳業者などとは取引きするなよ。正規の手順を踏んだものと、信頼できる研究員が中心だ」
「かしこまりました」
話は終わりだと切られてしまい、わけがわからないままになってしまった。
でも、今の会話からも、アドルフ様が琥珀を大切に流通させていこうとしているのがわかって、嬉しくなる。
「コーパル村、活気を取り戻しているようですね」
「ああ、先日の男、村長の息子から、お礼状が届いている」
なんと、彼は村長さんの息子さんだったのね。それはそれは、村をなんとかしたい気持ちもひとしおだったことだろう。
「ほっほっ、すでにコハクに興味を持つ貴族や研究者が多く出ております。このワタクシめにお任せください、必ずやこの公爵領の特産物として、名を広めてみせます!」
高らかに宣言する商人さんに、苦笑いを零す。
「ええっと、そうだ、手紙にはどんなことが書いてあるのですか?」
「採掘作業は順調に進んでいるということと、村の状況の報告が主だな。後は……君に最上級のコハクを献上したいとのことだ。これは断っておく」
「え? ああ、そうですね。一介の侍女などにそんな高価なものを送られても仕方ありませんし、周囲の目もありますからね」
そりゃそうだと笑うと、なぜだろう、アドルフ様が頭を抱えた。
「……公爵様、差し出がましいことを申しますが、お嬢様にはもう少し直接的な言い方をした方が……」
同情的な声の商人さんの言葉に、案内役で同行してきたオリバーさんも、扉の近くで頷いている。
「……いや、かまうな。放っておいてくれ」
眉間の皺を深くさせて書類を手に取るアドルフ様に、商人さんもオリバーさんも、それ以上なにも言わなかった。
なんだか、わたしひとりだけが理解していない気がするんだけど……。
「ミレーヌ、この計算を頼む」
「あ、はいっ! わかりました」
仕事を振られ、なにも聞くことができなかった私は、そのままいつものようにアドルフ様と一緒に仕事を再開させたのだった――。
* * *
それからのち、琥珀はその美しさと歴史資料としての価値の高さを認められ、少しずつ国内、そして国外へと広まっていった。
悠久の時を超える生命の神秘を感じることができる琥珀は、この後、魔法付与という技術が発見されると、光魔法を宿すのに適した宝石としても高い価値のあるものとして有名になる。
琥珀が採れることで再び息を吹き返したコーパル村は、この一件により公爵家に琥珀の一切の権利を任せ、とてもよい関係を築いていくことになる。
そしてまた、村の恩人としてひとりの女性に毎年琥珀の献上品を送るのだが――。
公爵がなぜかいい顔をしないと、領民たちの間で公爵領の七不思議として広まっていくのは、また別の話。




