命の眠る、宝の山 7
作業場の視察はといえば、クラリスと一緒にとても楽しませてもらった。
この世界では、魔法を使って洗浄や研磨をするので、作業スピードがすごく早い。ただ、魔法操作がかなり上手くないと石を傷付けてしまうので、鍛錬を積んだ人だけが行える。
魔法を使うとはいえ、職人さんってことだよね。石によって硬度も違うし、たしかにこれは熟練の技だよねと惚れ惚れしてしまった。
「おもしろかったぁ。さいしょはただのゴツゴツしたいしだったのに、キラキラしたほうせきにかわっていくなんて、すごいね!」
そうして約三時間ほど作業場と村の見学をさせてもらい、夕方になったので今日の宿へと向かうことにした。ちなみにアドルフ様は、到着早々に宿でお仕事をしているはずだ。
見学中、クラリスは目を輝かせて作業する様子を見つめていた。
作業の邪魔にならないようにと静かにしていたのだが、時折「おおっ!」とか、「わああ~」とか感嘆の声が出てしまって、作業員さんたちにくすくす笑われていた。
でもそれがかわいいんだよね。そんな気持ちは村の大人の人たちも同じだったようで、クラリスにたくさん声をかけてくれた。お土産にって、好きな宝石までひとつプレゼントしてくれたし。抜け目のない商人さんが、『その宝石でまたお嬢様のアクセサリーを作ってみせましょう!』と張り切っているのに、苦笑いが零れたけれど。
「ほうせきって、いろんなしゅるいがあるのね!」
「そうね。同じ石でも違う色のものがあったりして、面白いよね」
この村の採掘場では、エメラルドとアクアマリン、モルガナイトが採れる。たしか……元のなんとかっていう鉱物に、違った不純物が含まれることで別の宝石になるんだよね。
前世で梨花と満花が石にハマったことがあって、夏休みの自由研究の時に一緒に色々調べたのだ。だからなんとなくの知識は覚えている。さすがに鉱物名とか不純物名までは覚えていないけれど。
でもけっこう楽しかったんだよなぁ。休み期間中に、一緒に石の博物館に行ったりして。発掘体験で欲しい石がひとつしか採れなかった時は、ふたりで大喧嘩してたっけ。
懐かしいなぁと思い出していると、クラリスがじっと見上げているのに気が付いた。
「どうかした?」
「……ううん。あのね、さっきもらったいしがね、おねぇちゃんのかみのいろに、にてるなぁっておもって」
そう言ってクラリスがポケットから取り出したのは、小さな手に収まる、小ぶりのアクアマリン。
「とってもきれいでしょ? これをみると、おねぇちゃんをおもいだせそうだから、おまもりにしようかなって」
「クラリス……!」
天使過ぎる発言に、思わずがばりとクラリスを抱き締める。
「しょうにんさん、ほんとにアクセサリーにしてくれる?」
私の腕の中から、クラリスが商人さんにそう聞いた。
「もちろんですとも! 宿に戻りましたら、公爵様にお願いしましょう。ええ、ええ、こんなにかわいらしいお嬢様の、かわいらしいお願いを聞けば、すぐに許可を出してくださるはずです!」
商人さんもクラリスの発言に胸を打たれたらしく、ほろりと涙を流していた。……これも商売人の演技?と思ったりもしたが、涙を拭いながらクラリスを愛おし気に撫でているので、おそらく本当に感動したのだろう。
そして宿に着いてその話をすると、アドルフ様も即座に許可を出してくれた。
恐るべし、クラリス。若干四歳にして大人たちを骨抜きにしている。
こりゃ末恐ろしいわねと、ひとりだけ冷静にその光景を見つめてしまう私なのだった――。
そうして私たちは、様々な鉱物の産地をまわっていった。セルヴェ公爵領は宝石が多く採掘される領地として有名だとは前々から知っていたのだけれど、実際にこうして見てまわって、本当に色んな種類の宝石がたくさん採れるのだなと感心してしまった。
見せてもらうだけでなく、私も前世で見たことのあるようなモチーフを提案したり、貴族だけでなく一般市民にも宝石に興味を持ってもらえそうな、例えば誕生石や石言葉なんかも伝えてみた。すると商人さんはどれもこれもに興味を持ち、その度に必死にメモをとっていた。
……この人に任せておけば、きっとどれもこれもが形になりそうだ、それくらい商人さんの目の輝きは眩かった。
そして夕方から夜にかけては、アドルフ様のお仕事の手伝いもやっている。
アドルフ様は時折一緒に見学に来てくださることもあるが、宿で籠って仕事をしている時もある。一緒に外に出ることができた日は、露店でかわいい雑貨を見てまわったり美味しい食べ物を買ってもらったりして旅行っぽいことも楽しませてくれている。
ちなみにクラリスがおねだりしたアクアマリンを使ったアクセサリーは、こちらもネックレスにしたようで、先日私が渡したクローバーのモチーフと重ね付けしても似合いそうなものを熟考している。小さい石だし、シンプルなデザインにすれば重ね付けもしやすいし、色んな服にも合いそうだなと思ってはいるが、そこはやっぱりクラリスの意見を大切にしたい。
そうやって旅の合間合間にクラリスと打ち合わせ、デザインを決め商人さんに託した。




