命の眠る、宝の山 6
「そういえばミレーヌ、アクセサリー作りの手伝いをするらしいな。今度あの商人とともに、材料となる鉱物が採れる村に行きたいと言っていると聞いたが」
「あ、そうなんです。領地内の村をまわって仕入れていると聞きまして、同行してみたいなと思っています」
後から事情を話して許可をいただこうと思っていたのに、先に話が通っていたようだ。オリバーさんかしら? 仕事が早くて驚きだわ。
「おねぇちゃん、どこかいっちゃうの……?」
すると、クラリスが不安そうに見上げてきた。
しまった、こちらも後からゆっくり話をしようと思っていたのに。
「ええと、あのね、クラリス」
「クラリス、姉と離れるのは嫌か?」
なんと話をしたものかと思っていると、アドルフ様が口を開いた。
「……おしごと、なら、しかたないし……がまん、しなきゃ、だけど……」
クラリスの歯切れの悪い返事に、ふぅっとアドルフ様が息をついた。
「ならば、一緒に来るか?」
「え、いいの⁉ あ、えっと、いいんですか⁉」
予想外の言葉に、クラリスはぱっ!と顔を上げて期待の眼差しでアドルフ様を見た。
「ずっと屋敷の敷地内にいるからな、たまには外に出たくもなるだろう。領内だから、それほど距離もないし、危険な場所でもない。クラリスひとり増えたところで、大した問題ではないからな。それに、ここでは見られない動植物も見られるだろうし、その土地の特産物も食べられるだろう。どうだ? クラリス、行ってみるか?」
アドルフ様は食後のお茶を口にしながら、そう言ってくれた。私と一緒にいけるのだと理解したクラリスは、表情を明るくさせた。
「はいっ! わたし、いっしょにいきたいです!」
とても良い返事に、アドルフ様も満足げに頷く。
留守番させて寂しい思いをさせてしまうのではと悩んでいたが、一緒に行けるのであれば、とてもありがたい。
「あれ? でも、一緒に〝来るか〟って……」
「ああ、私も行く」
「ええっ⁉」
これまた予想外のことに、思わず大きな声を出してしまった。
「視察も兼ねてだ。それに、従業員とその幼い妹を、はいそうですかと差し出すわけにはいかない。あの商人のことを信用はしているが、信頼しているわけではないからな」
アドルフ様は、当たり前のことだと優雅にお茶を飲み干す。
まあたしかに、間違ったことは言っていないと思うけれど……。でも、公爵様が自ら?
「でも、お忙しいのに、よろしいのですか?」
「ほんの二、三日、どうとでもなる。それに、書類仕事は向こうでもできる。君もいることだしな」
もちろん手が空いている時は手伝ってくれるだろう?とでも言いたげだ。
いや、手伝いますよ? 移動中も書類の確認はできるし、誤字脱字のチェックも可能だ。それに見学は日中がメインだろうから、夜は時間もあるだろうし。
「……では、お言葉に甘えて、クラリスとふたりで同行させていただいてもよろしいですか?」
「ああ、許可しよう。クラリス、姉との旅行を楽しむといい」
アドルフ様は、期待通りの返事がもらえたとご満悦の様子だ。
申し訳ない気持ちもあるけれど、クラリスを置いて行かなくて済むし、アドルフ様も一緒ならすごく心強い。それに、旅行だなんて言い方をしてくれるのが巧いというか……。
ふうっとひとつ息をつき、アドルフ様にお礼をする。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ありがとうございますっ! おねぇちゃん、たのしみだね!」
半分は仕事だけれど、こうして私とクラリスの、初めての旅行が決まったのだった。
「わぁっ! おやまだぁ!」
「本当ね。宝石、きれいな石はあそこで採れるのよ」
数日後、私たちは馬車に乗って公爵領内の鉱物が採れる村を訪ねていた。
はじめは留守番するクラリスのことを考えて、一番近い村をひとつだけ見てみるつもりだったのだが、アドルフ様がせっかくだからと言ってくれて、一週間かけていくつかまわることになった。
商人さんもアドルフ様の提案を断るわけにはいかないので、すんなり了承。いくつもまわるのが普通だと言っていたので、迷惑ではないのだろうが、アドルフ様が一緒だというのはなかなか気疲れするだろうなとも思う。
「ほうせき、みたことないから、たのしみだなぁ」
女の子らしく綺麗なものが好きなクラリスは、いろんな宝石が見られるだろうということで、とても楽しみにしている。採掘場はさすがにちょっと危険なので行けないが、洗浄や研磨する作業場を見せてもらうことになっている。
「ようこそいらっしゃいました。どうぞ、こちらへ」
公爵様が来訪するということで、かなりの人が出迎えに来てくれた。私やクラリスは驚いて戸惑ってしまったのだけれど、アドルフ様はそれになんでもないことのように対応していた。そういう姿を見ると、この人は本来私たちとは全然違う世界に住んでいる人なんだなぁと思ったりする。
……ピーマン嫌いなのは、そのへんの五歳児とかわらないのに。
そんなことを思いつつ、ちょっとだけ寂しさを感じていた。




