お礼のティータイム 6
顔見知りの侍女がお茶を持ってきてくれるのに、にこっと微笑んでお礼を言う。向こうも小さくウインクしてくれて、先ほどクラリスと一緒に作ったクッキーも運んできてくれた。
「こうしゃくさま、わたしたちがつくったクッキー、おいしいですか?」
「ああ、とてもよくできている。美味い」
運ばれてきた早々、クラリスが私たちが作ったんですアピールをした。それにアドルフ様もしっかり応え、クッキーに手を伸ばして美味しいと言ってくれた。
「えへへ。やったね、おねぇちゃん!」
「ええ、本当に美味しくできたわね。食べ過ぎないように注意しないとね?」
クラリスとふたり、くすくすと笑う。
そして、クッキーとともに用意してもらった軽くつまめるお菓子やサンドイッチなどを、お茶と一緒に美味しくいただく。クラリスにとっても楽しいティータイムとなったようで、上機嫌だ。
アドルフ様はというと、これまた意外にもクラリスの話に相槌を打ったり質問に答えたりしながら、リラックスした様子だった。時折クッキーをじっと見つめることがあったのだが、口に含んでは美味いなと何度も言ってくれた。
変に構えてしまったけれど、なんだか落ち着く。日頃の疲れもとれていく気がするのは、気のせいかしら?
そうして穏やかな時間はあっという間に過ぎ、夕方が近付き少し肌寒くなってきた。
「そろそろ部屋に戻ろう。風邪をひいてはいけないからな」
なんと、アドルフ様がそう言って気遣ってくださった。今日は最後までいつもと少し雰囲気が違うのね。
「きょうは、ありがとうございました。とーっても、たのしかったです!」
ご満悦なクラリスの笑顔を見ていると、こちらまでほっこりした気持ちになる。どうなることかと思ったけれど、こんなに和やかに楽しく過ごせたのはアドルフ様のおかげだわと感謝する。
「私からも、ありがとうございました。クラリスとふたりで過ごすのも楽しいけれど、今日はまた違った楽しさがいっぱいでした。アドルフ様に誘っていただいて、よかったです」
心からの感謝を込めて笑顔でお礼を言う。するとアドルフ様は、またふいっとそっぽを向いた。
「別に……なんとなく誘ってみただけだ。一緒に散歩して、一緒に茶を飲んだだけだから、礼を言われるようなことをしたわけでもない」
これは照れているのだなとすぐにわかった。だって、ほんのり耳と頰が赤くなっているもの。
「……むしろ、礼を言うのは私の方だ。美味いクッキーをご馳走になったし、姉妹水入らずの休暇の邪魔をしたのだからな。半日休んだだけだが、ずいぶん頭がすっきりして、体も軽くなった気がする」
「よかったです! いつもおしごとたいへんだってきいたので、げんきになりますようにってきもちをこめて、クッキーをつくったんです」
狙い通りだと言いたげに、クラリスが声を上げた。
うんうん、ほどよい休息は心にも体にもいい影響を与えるからね。クラリスの優しい気持ちが実になったということだろう。
「……そうか。ありがとう」
目を見開いた後、アドルフ様はなんとクラリスの頭を撫でた。それにクラリスも一瞬驚いた表情をしたものの、えへへと嬉しそうに微笑んだ。
「もし君たちがよければ、またこうして散歩やお茶につきあってくれないか?」
「はい! またていえんのおはな、みせてください!」
なんと、次の約束までしている。社交辞令で言っているわけでもなさそうだし、気まぐれの一回だろうなんて思っちゃいけなかったな。
「では、今日はこれで。この後はゆっくり休んでくれ。ミレーヌ、また明日」
「あ、ありがとうございました。はい、また明日、よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げると、ふわりとなにかを肩に掛けられた。顔を上げると、それはふわりとした肌触りの小さめのストールだった。
「肌寒くなってきたからな」
「あ、ありがとうございます。クラリスの分も、すみません」
そしてなんと、アドルフ様はクラリスにも同じくらいの大きさの、似たストールをかけてくれた。
クラリスもきちんとお礼をいうことができていたし、暖かくて嬉しそうだ。
「ではまたな。風邪をひくなよ」
アドルフ様はそう言うと、ひらりと手を振って本館の方へと去っていった。
いつもと違う別れの挨拶が、なんだかちょっと気恥ずかしい。そう思いながら、クラリスと一緒に帰る準備をする。
「おねぇちゃん、たのしかったね。こうしゃくさまも、とってもいいひとだったし、またいっしょにおさんぽしようっていってくれて、うれしかった!」
「そうね、私も楽しかったわ」
今日はたくさん反省したし、たくさんクラリスから学ばせてもらったな。アドルフ様の意外な一面……というか、知らなかった顔を見ることができたのも、よかったよね。
「アドルフ様は忙しい方だから、そうそうお休みは取れないかもしれないけれど……。アドルフ様からお誘いがあれば、一緒にお散歩しましょう? またなって言ってくれたし、ね?」
「うん! おねぇちゃん、こんどは、ちがうおかしをつくってみよう? またおいしいって、いってくれるかなぁ?」
期待に胸を膨らませたクラリスと手を繋ぎ、私たちは温かい気持ちで自室へと戻るのだった。




