お礼のティータイム 1
公爵家に来てもうすぐ三か月、季節が移り変わろうとしている。
今日も私はクラリスと一緒に、夜の日課である一日の報告会をしていた。
「おねぇちゃん、みてみて、おへや、ぴかぴかになってるでしょう?」
「本当ね! クラリスってば、いつの間にお掃除が得意になったの? すごいわ!」
仕事を終えてクラリスとともに自室の扉を開けると、なんと部屋の床がピカピカになっていた。どうやら、クラリスが掃除をしてくれたらしい。
すごいすごいと褒めながらクラリスをぎゅうっと抱き締める。腕の中のクラリスが、えへへと嬉しそうに声を上げた。
そして腕を解いて、いいこいいこと頭を撫でる。少し前にアドルフ様に言われてから、私はこうしてクラリスの頭をたくさん撫でるように意識している。
できることが増えた時、苦手なことでも得意なことでもがんばった時、素直に聞き入れられた時、私は特にクラリスを褒めるようにしている。
自己肯定感が高まるのもそうだけれど、やっぱりクラリスのことが大好きだよって伝えたいってのが一番の理由かな。
あえてみんなには本当の姉妹でないことを伝えていないのだが、誰もそうだとは思わないだろう。それくらい、私たちは仲良くしていると自分でも思う。
「この前だって、厨房のおかみさんがクラリスのことを褒めていたわよ。まだ小さいのに物覚えがよくて、一回教えたことはちゃんと覚えて、言われなくても自分で働いてくれるって。警備の人たちも、クラリスがテーブルまで料理を運んでくれて、飲み物を注いで『おつかれさまでした!』って言ってくれるのが、一日で一番癒やされる時間だって言ってたわ」
「ほんとう? みんなによろこんでもらえるの、うれしいな!」
あぁ、かわいい。癒やされるっていう、警備の人たちの気持ちがよくわかる。
この三カ月で、クラリスの評判は爆上がりした。まぁね、うちの天使の魅力は隠せないよね、仕方ないわ。
それもそのはず、姉である私を助けたいからという理由で、自ら仕事の手伝いを買って出たというだけでなく、なんとクラリスは、この年ですでに〝礼儀〟〝謙遜〟〝素直〟というスキルを持っているのだ。
『わたしなんて、まだまだです。はやくおねぇちゃんみたいになれるよう、がんばります』
『たくさんおしえてくれて、ありがとうございます! またおねがいします』
『しっぱいして、ごめんなさい。つぎはまちがえないよう、きをつけます』
そんなことが言える四歳児、どこにでもいるものだろうか。いや、いない。
その上、クラリスはかわいい。もちろん性格も優しくてかわいいのだが、見た目がもう、ものすごくかわいい。
かわいい上に上記のようなスキルを持っているなんて、そりゃもう、ねぇ?
そんなかわいい美少女に『おつかれさまです!』なんて言われて食事の用意をしてもらえたら、一日の疲れも吹っ飛ぶってものよね。
「おねぇちゃん? ぽわぽわしたかおして、どうしたの?」
「はっ! いや、ちょっと想像が膨らんじゃっただけ。ごめんね」
現実に戻ってきた私は、そろそろ寝ましょうかとクラリスに声をかける。
「そういえば、こうしゃくさま、いまおでかけしているんでしょう?」
ベッドの上に登りながら、クラリスがそんなことを聞いてきた。
「ええ。お仕事で今日からしばらく王宮に滞在することになっているはずよ。シャルは元気かしらね?」
「シャル、がんばってるかな? ひさしぶりにあいたいなぁ」
手紙でやり取りはしているものの、やっぱり面と向かって会いたいなと私も思う。アドルフ様にお土産の手作りドーナツを託したのだけれど、シャルに渡してくれただろうか?
「そうね、もうちょっとしてまとまったお休みがもらえるようになったら、会いに行こうか」
シャルにそんな時間があるかは微妙なところだけれど。少しだけでもいい、ちょっとお茶をする時間くらいもらえるなら、いつかシャルとまたカフェに行きたいな。
「うん! シャルにあったとき、おおきくなったなっていってもらえるよう、わたしもまいにちがんばるね!」
「まあ、それはいいわね。じゃあ私も、クラリスに負けないくらいお仕事がんばらなくちゃ」
「じゃあ、いっしょにがんばろうね、おねぇちゃん。がんばるぞー! えいえいおー!」
クラリスの掛け声に合わせて、拳を上に突き上げる。
クラリスはこんなにいい子なんだよって自慢なら、今でも胸を張って言えるんだけどね。
「さあ、じゃあそろそろ本当におやすみなさい。クラリス、いい夢を」
クラリスにしっかりと布団をかけてやる。すると、クラリスがふぁっと欠伸をした。
「おやすみ、おねぇちゃん……」
もう眠そうな様子のクラリスに、くすりと笑みを零しランプの灯を消す。
アドルフ様やシャルは、今ごろなにをしているかしら?
そんなことを考えながら、私もクラリスの隣で静かに眠りについたのだった。




