職場改革いたします! 5
夕食後。約束通り、私はクラリスと共にオリバーさんの部屋を訪ねていた。
「え? クラリスがですか?」
「ええ。ここでの暮らしにもずいぶん慣れたようですし、使用人棟でのお仕事を少しずつやってみませんか?」
なんと、オリバーさんはクラリスにそんな提案した。
「やってみたい! わたしもおしごと、おねぇちゃんみたいにできるようになりたいもの!」
やる気満々のクラリスに、オリバーさんはほっほっと満足げに笑っている。
すごく意欲的だけれど、まだ四歳でやらせてもらえる仕事なんてあるのだろうか?
「大丈夫ですよ、お仕事といっても、簡単な子どものお手伝いのようなものですから」
心配そうに見つめる私に、オリバーさんがそっと耳打ちしてくれた。
「実はね、クラリスさんが他の使用人に零したそうですよ。『おねぇちゃんはおしごとしてるのに、わたしだけあそんでるだけでいいのかな?』と。『わたしもなにか、おしごとできたらいいのに』とも言っていたそうです」
オリバーさんによると、他の使用人たちから職場改革の話を聞き、「お姉さんのおかげだよ!」「まだ働き始めたばかりなのに、すごいねぇ」などと私のことを褒められ、嬉しいような寂しいような、そんな気持ちになったのだそうだ。
「クラリスが、そんなことを……」
他の子どもたちと仲良くしていると聞いていたのだが、日中私とずっと離れているから、やっぱり寂しい思いをさせているのかしらと申し訳ない気持ちになる。
そんな私の内心に気付いたのか、オリバーさんは再びほっほっと笑った。
「そういえば、早く大きくなりたいとも言っていたそうですよ。そうすれば、あなたの助けになれるからと。姉思いの、とてもいい子ですね」
その言葉に、胸がじんとする。前世でも聞いたその台詞、そして温かい思い出。
『みれぃちゃん、わたしたちがおおきくなったら、みれぃちゃんにゴハンつくってあげるね! あーあ、はやくおおきくなって、ひとりでひがつかえるようになりたいなぁ』
『ねーちゃん、俺、大学生になったらバイトするから。小遣いいらねーし、多少家計にも入れられと思うから、ちょっとはねーちゃんも助かるだろ』
弟妹たちからそう言われて、嬉しかった。まさか、今世でもそんな言葉が聞けるなんて。
「……はい。自慢の、妹です」
血が繋がっていなくても、まだ小さくても、知り合ってそう長くなくても。互いに思い遣り合える、大切な存在。
「おやおや、泣かせてしまいましたね」
「おねぇちゃん? どうしたの? なにかかなしかったの?」
心配そうに私のところに駆け寄ってきてくれたクラリスを、ぽろりと流れた涙を拭って両手を広げ、ぎゅっと抱き締める。
「違うの。悲しいんじゃなくて、嬉しいの。クラリス、おっきくなったなーって。ここで他の使用人のみんなのお話を聞いて、お仕事がんばれる?」
「うん! おおきくなったら、おねぇちゃんといっしょにおしごとできるように、がんばる!」
かわいすぎる発言に、私はまた涙が溢れてしまった。
そんな私たちのやり取りを聞いていたオリバーさんが、目を細めて私たちを見つめていたことには気付かず、私は柔らかくて温かいクラリスをしばらく抱き締め続けていた。
「それで、妹は馴染んでいるのか?」
「はい、おかげさまで。オリバーさんからクラリスについての報告を受けて、アドルフ様が許可してくださったんですよね? ありがとうございます」
クラリスが使用人棟で働くようになってしばらく、書類仕事のお手伝いをしている最中に、アドルフ様がクラリスの近況を尋ねてくれた。
使用人棟の食堂で皿拭きをしたり、食器を片付けたり、窓拭きやモップがけなどの掃除を手伝ったり。オリバーさんの言っていた通り、そんな子どものお手伝いレベルの無理のない仕事を与えられ、クラリスは日々がんばって働いている。
ちっちゃい子ががんばってお手伝いしてるのって、本当にかわいいよね。癒やされる~なんて思っているのは私だけではなかったようで、使用人たちも温かい目でクラリスを見守ってくれている。
ちなみにアドルフ様の身支度や部屋の掃除などを主に担当していた私だが、ある日他にできることはないのかと聞かれ、実家ではこんな仕事やあんな仕事もやっていましたと伝えると、ならばと色々ふられるようになった。
実家がラングレー王国のシャルリエ子爵家であることは、一応伏せている。しかし、『立ち居振る舞いや言動から、それなりに教養があることはわかるし、地位のある家の出身だろう。余計な詮索はしないから、正直に話せ』と言われて、下手な嘘をつく気にもなれず、ある程度本当のことを話している。
でも、実家でやっていた仕事を報告した時に、なぜかものすごく変な顔をされたのよね。どういう表情なのだろうと思ったのだが、なにも言ってはもらえなかったので、謎のままだ。
「クラリスのことだけじゃなく、使用人たちの意見を多く取り入れようっていう改革にも快く許可をくださいましたし、色々と配慮してくださり、ありがとうございます」
よく考えたらアドルフ様が寛容なのをいいことに、あれこれお願いしてばかりな気がする。
「……別に、私はなにもしていない。オリバーの思うようにすればいいと言っただけだ。それに、上手く回しているのはおまえだと聞いている。私はただ、許可しただけだ」
アドルフ様は、ふいっと視線を書類に戻して、なんでもない顔をした。表情は変わらないし、態度もそっけないけれど、それが彼なりの優しさなのだろうと思うと、胸が温かくなる。
普段は子どもっぽいところばかりなのにね。〝冷徹公爵〟なんて言われているらしいけれど、こういう言動で誤解されがちなのだろうな。
ノノカももっと自分たちのことを見てほしいと言っていたけれど、こうして話を聞いていると、けっこうアドルフ様ってひとりひとりのことを見て考えてくださっているなと思うんだよね。それが表面化していないだけで。
きっと、オリバーさんや前の専属侍女だったスーザンさんはそういうことがわかっているんだろうな。主人のことを理解した上でそっと寄り添ってる、みたいな。それどころか、もっと深い考えも持っていそうな気がする。
うーん、使用人の鑑だね。私なんかには、そのレベルはまだまだ先だ。年の功、経験の差ってやつ? もっと精進しないとだわ。
「……難しい顔をしているが、そんなに容易ではない案件でも来ていたか?」
「あっ、いえ。すみません、ちょっと考えごとをしていただけです。書類の整理は終わりましたので、こっちの計算の方、やっておきますね」
じろりと睨まれ、思わずぴよっと跳ねてしまった。だめだだめだ、今は仕事中! クラリスを見習わないと。




