職場改革いたします! 3
翌日は、休息日をいただけた。丸一日お休みということで、休みが重なったノノカとクラリスと、使用人棟でランチを一緒にすることにした。
すると席について開口一番、ジト目のノノカが私に尋ねてきた。
「ミレーヌって何者? 本当に成人したての十六歳? どっかで気難しい貴婦人とかご老人に仕えてた、なーんてことないの?」
疑いの目で質問攻めをするノノカに、私は苦笑いで答える。
「年齢を偽ったりはしていないわよ? でも、そうねぇ……。たしかに気難しいご婦人や理不尽の塊のような男性の相手は、毎日していたかもね」
やっぱり!と納得するノノカに、実の両親だけどねとは言えなかった。
「ミレーヌってば、この十日間で屋敷内の有名人だよ! どんな仕事でもテキパキこなすし、公爵様とけっこう親し気に話してるじゃない? いったいどんな魔法を使ったんだって噂になってるよ! それに、ミレーヌのアドバイスを聞けば、今日の公爵様のお気持ちがわかる!っても話題だし」
なんだか今日の占いみたいねと、くだらないことを考える。
あと、親し気に話しているように見えるのは、たぶんアドルフ様のだらしない姿を知ってしまったからだろう。本人からも、そこまで堅苦しい言葉遣いをしなくていいと許可をいただけているので、時々弟に接する時みたいな口調になってしまうこともあったかも。
もう少し気を付けた方がいいかしらと思っていると、隣に座っていたクラリスがきらきらした目をしていることに気が付いた。
「おねぇちゃん、すごーい! みんなからたよりにされてる、ってことでしょ?」
「うーん、まあ、そう、かな?」
すごーい! すごーい!と興奮しているクラリスには悪いが、特別なことをしているわけではないんだよなぁ。
ただ、この屋敷……というか、この世界の風潮なのだろうが、トップダウン方式で組織が成り立っている。
トップダウンとは、いわゆるワンマンというやつだ。上層部がすべての意思決定をし、現場がそれに基づいて行動する。
組織の方向性や統一性を保ちやすいという利点がある反面、柔軟な対応ができず組織が硬直化する可能性があるという欠点もある。
つまり、新しいものが生み出されにくく、変化が起こった時に対応ができなくなることがあるということだ。
しかし、時代も人も移り変わっていく。いつまでも「ルールだから」「いつもこうだから」は通用しない。
現代日本もそうだったよね。急激に時代が変わり、常識も変わっていく。その変化についていくのは、年を取った者であればあるほど、なかなかに難しいことだって両親も言っていた。
少し話は変わってしまったが、まあとにかく、現公爵・アドルフ様に代替わりしたことで、〝今まで通り〟がまかり通らなくて、使用人たちが戸惑っているというのが現状だ。
料理人たちがいい例ね。指示をもらえれば優秀な働きをするが、自分たちで情報を集めたり考えたりして動くことがなかなか難しい。たぶん、前公爵様はある程度好みがわかりやすく、どんなものを食べたいか言ってくれたのだろう。その日の気分に合わせてどうこう、というのがあまりなかったのかもしれない。
でも、前世で難しい時代を生きていた私は、そういう働き方をしてこなかった。勤めていた会社は、社員の自主性を重んじる傾向にあり、トップダウンなんてとんでもない、今の時代は若者たちこそ自分で考え、自分で学び、自分でつかみ取っていくものだ!と社長が理念を掲げる組織だった。
だから私は、ここでもそうして働いている。もちろん、ある程度のルールは守らないといけないから、他の使用人たちにたくさん教えてもらうことも多い。けれど、ルールを破ってないかを考えつつ、自分でこうした方がよいのではと思うことを実行している。別に特別なことではない、前世では当たり前にやってきたことだもの。
だからといって、クラリスのすごーい!という称賛に否定するのも違うような気がして、曖昧に微笑んでいると、ノノカが料理を頬張りながら口を開いた。
「謙遜しないの! 正直、二か月先に働き始めた私なんかの比にならないくらい、仕事こなしてるよ? 魔法の使い方もすっごく上手だし、手際もいいし、掛け持ちの仕事まで難なくこなすって、いったい何者よ!」
まあ前世の家電を参考に魔法を使っているから、そこは間違いなくこの世界の人よりも有効活用できてるよね。
それに兄弟が多かったから、自ずと手際はよくなるものだし、ふたつみっつの仕事を同時進行!ってのも、家事ではよくあることだもの。単なる慣れである。
「ただいくつもの仕事を任されることに慣れているだけよ。それに、みんなの教え方が上手だから、すぐに覚えられたっていうのもあるかな?」
これは本当のこと。ノノカをはじめ、みんなとても丁寧に仕事を教えてくれた。見て真似て勝手に覚えろ! みたいな昭和な指導じゃないのは、とてもありがたい。
「そっかぁ。ノノカおねぇちゃんも、すごいんだね!」
「そうそう、ノノカのおかげだね」
クラリスとふたり、すごいすごいと言い浴びせていると、ノノカが机に両肘をおいて頬杖をつき、ため息をついた。
「これだからミレーヌは……。はぁ、毒気を抜かれる笑顔で、力抜けるわぁ」
どういう意味だろうと首を傾げる。ミレーヌはそのままでいいわと言われたので、とりあえず頷いておいた。
「公爵様のことも、名前で呼んでるし……。しかも口調もちょっとフランクだよね? よく公爵様とあんな感じで会話できるね?」
「かしこまられると変な感じがするからって言われたんだもの。スーザンさんとも、そんな感じだったから気にするなって」
「ふーん……。なるほどね」
感心したというより、拗ねたような顔のノノカ。あ、そうか。
「きっと、恥ずかしくて使用人たちみんなには見せたくない姿なのかも? ふふ、私に慣れてきたら、きっと少しずつ、ノノカたちの前でもそんなところを見せてくれるよ」
「な、なに言ってんの! べ、別に私は……!」
顔を真っ赤にして慌てている様子から察するに、やはり予想は当たっていたらしい。たぶん、使用人の自分たちのことを信用してほしいって思ってるんだよね。
「ノノカが言っていた通り、アドルフ様はいい人だと思う。ちょっと困る時もあるけどね。だから、私が困った時とか、助けてほしい時はこうやって話を聞いてくれる?」
「ま、まぁいいけど」
ありがとうと伝えると、図星を指されたと思ったのか、ノノカはなんとなく悔しそうな表情をした。
「ふふ、ノノカのその顔、昨日のアドルフ様にそっくり」
「え⁉ どういうこと⁉ なにそれ詳しくー!」
「くわしくー!」
前のめりなノノカと、真似っこをするクラリスがおかしくて、その後も三人で楽しいランチの時間を過ごした。
ただ気になるのは、使用人たちの働く姿勢。屋敷の主がアドルフ様である以上、今のままの状態がいいとは言えない気がする。
「どうしたものかなぁ」
ノノカとクラリスがふたり仲良くおしゃべりする中、私はこっそりため息をつくのだった。




