職場改革いたします! 2
中高生時代の波琉に似てるなぁって思ったんだよね。あの子も、あんまりそういうことを口にする子じゃなかった。
そんな波琉の表情とか、体調とか、前日の様子とかを総合的に判断してご飯を作っていた私は、アドルフ様の食べたいものの傾向も、なんとなく予測できる。
最初は料理人たちに伝えてよいものかと悩んだ。そりゃぽっと出の新人が口を出したところで、はいそうですかと言うことを聞いてくれるわけがないもの。
でも、ここの料理人たちは違った。
きっかけは、些細なひと言だった。『寝起きの公爵様、どうだった? 今日はさっぱり系がいいのか、それともがっつり食べたい気持ちなのか、せめてそれくらいわかったらなー』みたいなことを聞かれたのだ。
せっかく聞かれたのだからと、素直に答えてみた。『今日はたぶん、お腹空かれていると思います。起きてすぐ、お腹鳴ってましたから。あと、昨夜はお魚料理でしたから、お肉系がちょっとあってもいいかもしれません』
私の返事に、料理人たちは目を丸くした。おそらく、返事を期待していたわけではなかったのに、思わぬ答えが返ってきたからだろう。
気のいい料理人たちは、それなら試しに私の言う通りに作ってみるかと言ってくれた。
少し厚めに切ったベーコンと卵を焼き、添える野菜はわりと食べられるトマトやキュウリのみで控えめに。スープは具だくさんにして、パンは三種類を用意。フルーツとヨーグルトも添えて、朝食にしてはなかなかお腹の膨れそうな量だった。
それらが並べられた机を見て、アドルフ様は目を見開いた。そしてぺろっとすべてを完食。それどころか、パンとスープはおかわりもした。
どうやらお好みのものだったみたいねと喜んでいると、料理人たちは、私が大袈裟に思うくらい喜びむせび泣いた。こんなに綺麗な皿が戻ってきたことはない!と号泣されてしまったのには、かなり戸惑った。
そんな馬鹿なと思ったのだが、本当のことだと後からオリバーさんが教えてくれた。今までどれだけ外してきたのだろうと少し気になったが、さすがにそれは黙っておいた。
まあとにかく、そんなことがあったがために、食事のメニューは私の意見を取り入れられることになったのだ。もちろんちょっと違ったかぁーなんてこともあるが、そこは軌道修正して、それなりに毎食食べてもらえている。
「もういい。食後に茶を淹れてくれるか?」
「かしこまりました。まあ、思っていたよりしっかり食べてくださいましたね。料理人たちも喜びます!」
フルーツこそ少しだけ残っているが、ほぼ完食だ。
くすくすと笑って皿を下げると、アドルフ様はバツの悪そうな、なんとなく悔しいような顔をした。そんな表情もちょっと波琉に似てるなぁなんて思ったりしながら、私はお茶の用意をする。
ポットのお湯を茶葉に最適な温度に魔法で保ち、時間通りに蒸らした後、これまた魔法で温めておいたカップに注いでいく。
「どうぞ。ブレンドしたハーブティーですが、頭がすっきりしますよ」
カップを机に置くと、アドルフ様はそっとカップを持ち上げ、お茶を口にした。
「……うまい」
「それはよかったです。昨日私がブレンドしてみたものなんですよ」
気に入ってもらえてよかった。ここに来て、茶葉をブレンドする楽しさを知ったのよね。
シャルリエ家では、美味しいも不味いもなにも言われたことがない。むしろ、あの人たちにお茶の味なんてわかるのだろうか?と思ったりもする。
比べてこちらでは、ぶっきらぼうながらもこうして反応をくださる。ノノカたち、他の侍女や使用人に教えてもらってやってみると、なかなか面白くてすっかりハマってしまった。
元々前世でお茶するのは好きだったものね。今までなんの興味ももたなかったのは、今世の両親のために覚えようって気持ちがなかったからかもしれない。
でも、自分で色々試しながらブレンドするのも面白いし、アドルフ様やノノカたちに振る舞って喜んでもらえるのがすごく嬉しくて、クラリスまで巻き込んで楽しんでしまっている。
「おまえ、本当に器用だな。殿下に、王宮の侍女がこのまま雇いたいくらいだと言っていると聞いた時は、誇張しすぎだろうと思ったのだが。たしかになかなか優秀で、いい意味で期待を裏切られた」
言葉とは裏腹に眉根を寄せているアドルフ様は、どこか悔しそうに見える。ひょっとして、使い物にならなかったら奥に引っ込めておこうと思ってた感じ? シャルに言われたから、簡単に解雇はできないもんね。
「ふふ、お褒めいただき、光栄です」
わざと嬉しそうにそう応えれば、また苦虫を嚙み潰したような顔をされた。
そんなアドルフ様がなんだかかわいらしくて、笑いを堪えるのが大変だった。




