新しい雇い主はイケメン公爵様⁉ 7
「そういえば、スーザンさんだっけ、前の専属侍女さんに対しても、公爵様はそっけなかったの?」
「うーん、スーザンさんにはちょっと違ったかも? でも、特別親しげってわけでもなかったかな。公爵様が赤ちゃんの頃からお世話していたから、スーザンさんの方がグイグイいってた感じだったよ」
ああ、オムツも替えてたしミルクもあげてたし、なんなら好き嫌いしないでちゃんと食べなさい!な感じで幼少期の公爵様のお世話をしてたとかかも。
話を聞く感じ、スーザンさんはお母さんキャラっぽいし、公爵様からすれば頭が上がらない存在だったのかもね。となると、反抗期の男の子みたいに「うるさいな、ほっとけよ!」みたいな対応もしくは、下手にしゃべると公爵としての威厳が……とかなんとか思って、そっけない態度を取ってた可能性も……。
「……なに笑ってるの? ミレーヌ」
「おねぇちゃん、だいじょうぶ?」
「え? あ、ご、ごめん。ちょっと想像が膨らんじゃって」
頑張って堪えていたつもりだったのだが、隠しきれていなかったらしい。ノノカだけでなく、クラリスにまで怪訝な顔をされてしまった。でもだめだ、抑えようとすればするほど面白くて、笑いがこみ上げてくる。
「こほん、ごめんなさい。ええと、なんの話だっけ?」
「公爵様がそっけないって話よ」
なんとか笑いを収めて仕切り直す。そうそう、塩対応だってやつよね。
でもそういうのは、性格とか今までの経験とか、育ってきた環境にもよるからなぁ。子どもならともかく、いい大人、それも身分の高い人相手に私たちがどうこう言うのもなかなか難しい話よね。
「うーん、でもまずは、自分の仕事を全うすることからかな。いつ誰に見られても恥ずかしくない仕事をしていないと、認めてもらうなんてまず無理だもの。それから、自分になにができるのかを考えるわ。相手に変わってもらうのではなく、自分が変わることが大切だって思うから」
あれだけ細やかな気遣いができる人だもの、全使用人とはいかずとも、オリバーさんみたいな身近な人や長年勤めてくれている人の仕事ぶりは、目に入っているし評価している気がする。それを表情とか言動に出していないだけかなって思うのよね。
「ふふ、今はそんな感じかもしれないけれど、一年後、五年後、十年後にはわからないじゃない? 年を重ねることで、若い時にはわからなかったことがわかったり、考え方が変わったりするものだから。私だったら、その時に認めてもらえるように、まずは自分を磨くことを考えるわ」
『相手に変わってもらおうと思うんじゃなくて、まずは自分が変われるように努力しなさい』
これは、前世の両親がよく言っていたこと。
学校でも職場でも、それなりに人間関係は色々あるものだ。けれど、相手がどうこうじゃなくて、まずは自分だよって言われて、それから見える世界が変わった。
それに、中高生時代はバリバリの反抗期だった男子も、数年後にはすっかり丸くなっちゃって……なんて話も、前世ではよく聞いたよね。前世の私とそう変わらない歳の公爵様と重ねるのは、ちょっと不敬かもしれないけど。でも、年をとっていくうちに、価値観や考えって変わるものだから。
そういえば、すぐ下の弟、波琉はあんまり反抗期らしい反抗期はなかったわね。梨花と満花もかわいいものだったかな。隼人と大翔は、どうなったのかな……。
「ミレーヌ? どうしたの?」
「おねぇちゃん?」
ノノカとクラリスの声に、はっとする。いけないいけない、前世のことを思い出して、つい考え込んでしまった。
「なんかすっごく深い話をするなぁって思ったら、急に黙っちゃって。大丈夫?」
「ごめんなさい。ちょっと昔のことを思い出しちゃって」
あははと笑って誤魔化す。噓は言ってないもんね。
「でも、すっごくいいことばね。ちょっとむずかしくて、よくわからないこともおおかったけど、〝じぶんをみがく〟って、すてきだなっておもった!」
クラリスの言葉に、胸がきゅっと掴まれたような感覚がした。前世の両親の教えを認めてもらえた気がして嬉しかったのと、切ない気持ちになったのと、両方だ。
「そうね、クラリスに同感だわ。ミレーヌの言う通り、褒めてほしいなんてうじうじ言ってないで、もっとがんばらなきゃね。よし、仕事に戻りますかぁ!」
よいしょとノノカが立ち上がる。結構長い時間話し込んでしまったし、料理もすっかり食べ終わったものね。
クラリスと一緒に食べ終えた食器をワゴンに乗せ、ノノカに託す。
「じゃあまた明日ね。ミレーヌは公爵様付きだから、同じ仕事をする機会は少ないだろうけど、休憩が重なったら一緒にランチ食べましょうね。クラリスも、またここで一緒におしゃべりしようね」
「ええ。色々教えてくれてありがとう。食器の片付けも、お願いします」
「うん! またね、ノノカおねぇちゃん!」
ワゴンを片付けてくれるノノカを、手を振って見送る。素直で明るくて、いい子だったな。
「ノノカおねぇちゃん、すっごくいいひとだったね。わたし、もっとなかよくなりたいな。それに、おともだちもできそうで、たのしみ!」
これからの生活に期待で胸を躍らせるクラリスに、ほんわかした気持ちになる。なでなでと頭を撫でると、クラリスはくすぐったそうに笑った。
うん、私もがんばれそう。
「おねぇちゃん、なんでわらってるの?」
「うん? 明日からが楽しみだから、かな?」
わたしといっしょだ!と笑うクラリスがかわいくて、私は思わずクラリスをぎゅうっと強く抱き締めたのだった。
まさか翌日、とんでもない事実を知ることになるなんて、つゆほども知らず。




