新しい雇い主はイケメン公爵様⁉ 6
「さて、まず荷解きをしちゃいましょうか」
「はぁい!」
疲れを感じさせない元気な返事をしてくれたクラリスと、持参した荷物を片付けていく。荷物といってもそれほど多くないので、すぐに終わってしまったけれど。
それからクローゼットを開いてみると、侍女服の他に、本当にシンプルで使いやすそうな服が何着か入っていた。サイズもちょうどよさそうだわ。公爵様とオリバーさん、恐るべし……。
「おようふく、かわいい!」
「そうね。明日お会いしたら、公爵様にお礼を言っておくわ。クラリスもお会いする機会があったら、きちんとお礼をしましょうね」
ちょっと申し訳ない気持ちもあるが、正直助かるし、クラリスも喜んでいるもの。こちらもありがたくいただいておこう。
荷解きを終えてふぅっとソファでひと息つくと、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「お食事をお持ちしました」
返事をすると、扉が開き、ひとりの若い侍女がワゴンに食事を乗せて持ってきてくれた。
「はじめまして。私はノノカ、十六歳よ。まだ働き始めて二か月だけど、同い年って聞いたし、わからないことがあったら、なんでも聞いてね」
ノノカと名乗った侍女は、茶髪に翠の瞳の人懐っこそうな少女だ。明るく自己紹介しながらテーブルに料理を並べてくれた。
「あ、ありがとうございます」
「やだなぁ、同い年なんだし、敬語じゃなくてもいいよ!」
笑顔でそう言ってくれたので、それならばと普通に話すことにする。
「じゃあ、これからよろしくね、ノノカ。私はミレーヌ、十六歳になったばかりよ」
「わたしはクラリスよ。よろしくね、ノノカおねぇちゃん!」
「〝おねぇちゃん〟なんて、照れるなぁ。こちらこそよろしくね、ミレーヌ、クラリス! あ、料理が冷めちゃうから、食べて食べて!」
ノノカに促され、料理をいただくことにした。オリバーさんに頼まれたからと、私たちが食事の間、ノノカが色々と公爵家のことを教えてくれた。
侍女にはどんな役割があるのか、公爵様付きということでどんな仕事を任されることになるのか、仕事時間や休憩の取り方、食事のことなど、ノノカが丁寧に話してくれたので、とても参考になった。
ちなみにクラリスくらいの子どもも、この使用人棟に何人かいるんだって。先々代の公爵様が、使用人たちが家族で暮らせるようにと整えてくださったらしい。
だから、私が本館で仕事をしている間、クラリスは他の子どもたちとここで遊んで待っていられるようだ。休みで残っている使用人もいるし、使用人棟の掃除係の人もいるしで、大人の目がちゃんとあるのもとてもありがたい。
「使用人たちのこともちゃんと考えられてるよね。公爵様はそれほど私たちに干渉してこないし、少しの失敗にも寛容だから、私たちみたいな成人したての侍女も働きやすい職場だと思うよ。公爵様って、いい意味でも悪い意味でも、あんまり私たちに関心ないのかもって思うけど」
「悪い意味でも……?」
ノノカの言葉が気になって、そう聞き返す。
「うーん、それほど干渉してこないのは、私たちからすれば正直楽じゃない? それなりに仕事をこなしていれば、文句もなにも言われないしさ。でもねぇ、仕事さえやっていれば、別にどんな方法でどんな人間がやっていても構わない、って感じがちょっと寂しいなぁって思ったりもするのよね」
眉を下げて答えるノノカは、たしかにちょっと寂しそうな表情をしている。
なるほどね、言いたいことはなんとなくわかる。
「あ、でも無関心ってわけじゃないのよ。ちゃんとした部屋も与えてくださるし、雇用条件も給与も文句ナシ。ほら、この部屋だってちゃんと整ってるでしょう? こうやって食事のことも気にかけてくださっているし、悪い人じゃないっていうのはわかってるんだけど……」
うん、つまり。
「公爵様に、もっと自分たちの働きぶりを見てもらって、それを評価してほしいってこと? あとは、私たち使用人のことも、ひとりの人として見てほしいって感じかな?」
「そう! それ!」
なんとなくだけど、そう思って口にしてみただけだったのだが、意外と的を得ていたらしい。ノノカは、なんでわかるの⁉といった様子で驚いている。
「公爵様相手に、図々しいなぁとは思うんだけどさ。あの方、〝冷静沈着な冷徹公爵〟って社交界でも有名なんだけど、実はいい人だって、ここで働いてる人はみんなわかってるの。だからさ、そんなご主人様に認められたいって思うのは、自然なことじゃない? 公爵様、私みたいな新人はともかく、何年も働いている人にもそっけないんだよね」
公爵様ってば、そんな風に思われているのね。
出会って数日の私にも、公爵様がいい人だということはわかった。でも、普段の言動は本当にそっけない。
ここに来るまでの馬車の中もそうだった。一緒に乗せてくださったところまではいいんだけど、終始無言。
クラリスや私が話しかけても、「ああ」とか、「そうか」とか、相槌だけの時もあった。疲れているのかなと思って、あまり騒がないようにクラリスと小さな声で話して過ごしていたのだが、実はちょっと居心地悪いなぁと思っていた。
どうやらそれは、公爵家の中でも同じらしい。
仕えて二か月のノノカがこう言うくらいだもの、長年仕えているオリバーさんなんかは、もっと寂しいと思うかもなぁ。
こんなに好待遇でいいのかしらと心配になるくらいの気遣いがありながら、実際に面と向かうと塩対応。
その優しさを知らない人からしたら、ノノカが先ほど言っていたように〝冷静沈着な冷徹公爵〟に見えるのだろうし、知っている人からすると、もっと親しみを持ってほしいと思ってしまうのかもしれない。




