毒親から逃れて、新しく家族作ります! 1
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私の名前は、遠藤美怜。二十五歳、どこにでもいる普通のOL。
人と少し変わっているところは、弟が三人に妹がふたりと、兄弟が少しばかり多いところだろうか。
こんな私だが、数少ない友人に言わせると、〝損をしている〟のだそうだ。
『なんでもできるのに、我慢しなきゃいけないなんてかわいそう』『弟妹が多いから、お金のことを考えて諦めたんでしょ?』『下の子のお世話ばっかりで、人生損してるよね〜』
そんな言葉をかけられたことは何度もあるけれど、私はそれらにすべて首を振ってきた。家族で食卓を囲むあの時間が、何ものにも代えられない、私の癒やしのひとときなのだ。
ちょっぴりのほほんとしているけれど、必死に働いて私たちをかわいがって育ててくれている、仲の良い両親。
この春大学生になってちょっぴり色気づいてきたすぐ下の弟、波琉。
花の女子高校生双子、おしゃれしたいお年頃の十七歳、梨花と満花。
まだまだやんちゃでかわいい、小学五年生の隼斗。
最近お口が達者になってきた、末っ子五歳の大翔。
たしかに私は、今まで同年代の他の子たちが当たり前のように経験してきたこと、まあいわゆる青春っぽいことをあまり経験できていない。
お金がかからないことが一番だと思ってきたから、必死に勉強して高校・大学は特待生、学費は免除してもらえた。だから部活や習い事はひとつもしたことがない。
友だちと遊びに行ったこともほとんどないし、彼氏がいたこともなければ男の子とデートしたこともない。
でも、それでよかった。私は、家族と過ごす時間がとても好きだったから。
帰りの遅い両親の代わりに毎日料理を作るのも、全然苦じゃない。料理は嫌いじゃないし、いかにお金をかけずに美味しく作るかを考えるのはとても楽しかったから。なにより、美味しいって言ってもらえることが、すごく嬉しいもの。
早起きしてお弁当を作るのも、妹のためにかわいい髪型の研究をするのも、カッコつけたいお年頃の弟に服を買ってあげるのも、どれも私がやりたいからやっていること。
その分、弟妹たちも色んなことを私に返してくれる。特別だよってコンビニのスイーツを私だけに買ってきてくれたり、洗濯物を一緒に畳んでくれたり、たまには私たちがやる!ってカレーを作ってくれたり。
両親だって、たまにはひとりで出かけてきなさいってお小遣いをくれたこともあった。ひとりで映画を見て、それからどうしようかと考えたけれど、なんだか落ち着かなくて、すぐに帰ってしまったのは笑い話だ。
そうやって私たち家族は、お互いに思い遣って暮らしている。
でも、損をしているとか、もったいないって言ってくる人の気持ちも、わからなくはない。心配してくれているんだろうなって思うし、客観的に、私が我慢ばかりしているように見えるのかもなって思ったりもするから。
でも、これは我慢じゃない。私が決めたことで、私の幸せの形だ。
だから胸を張ってこう答える。〝私、幸せだよ?〟って。
なにを言われても、揺るがない。これは、私が選んだことだから。
「ごはん、できたよー」
「「「「はーい!」」」」
私の声に、梨花と満花、隼斗と大翔がテーブルに集まる。
「波琉にぃは、今日バイト?」
「うん。今日給料日だから、明日はいい肉買って食べようって言ってたよ」
やったー!とみんなが盛り上がる。今年からバイトを始めた波琉が、お給料の半分を家計に入れてくれるため、かなり生活が潤った気がする。
ちなみに私も半分を家計に入れている。もう半分は必要経費を除いて貯金。弟妹たちの学費とか、自分や家族になにかあった時のために取っておいてある。
両親の稼ぎだけでも、まあなんとか生活できるレベルにはある。でも、みんなにはできるだけやりたいことを選べるようにしてあげたいから。これも私が勝手にやっていることだ。
そして波琉も無理のない程度に、自分の分と家計に入れる分を考えてくれている。
「美怜ちゃんのオムライスとスープ、大好きー! 美味しいー!」
「私、これを越えるオムライスにまだ出会ったことないわ」
「わかる。美怜ねぇ、三ッ星採れるよね」
みんなの笑顔につられて、私もくすくすと笑う。
「ありがと。あっ、ほら隼斗、ほっぺたついてるよ!」
オムライスをかき込む隼斗のほっぺたから、ご飯粒を取ってやる。あ、子ども扱いが過ぎたかしら。
「さんきゅー美怜ちゃん!」
……隼斗はまだ気にする歳ではなかったか。
「みれぃちゃん、おかわり、ある?」
「もちろんあるよ。大翔、たくさん食べて大っきくなるんだよー」
みんなに負けじともぐもぐする末っ子、かわいすぎる。あー癒やされるわぁ。
これこれ。この時間がプライスレスなのよ。
そんな四人を見守りながらオムライスをひと口。うん、今日もよくできている。
両親の分と夜食で食べるであろう波琉の分は、ラップをして冷蔵庫へ。
「ごちそうさましたら、順番にお風呂ね。今日は誰が一番?」
「オレオレ! 大翔と一緒に入ってくる!」
「わーい、はやとにーちゃんとおふろ!」
元気な弟ふたりに、にやにやが止まらない。
「片付けはあたしと満花でやるから、美怜ねぇはゆっくり食べて座ってて」
「任せて、美怜ねぇ」
「ありがとう、お言葉に甘えるね」
こんなとき、ああ幸せだなぁーって思う。心から思う、かわいい弟妹最高。
「みれぃちゃん、うれしい?」
にこにこ顔の私に、大翔がふにゃっと笑った。
「ぴんぽーん! みんなが元気で優しくて、嬉しいよ」
こんな何気ない幸せがずっと続くんだって、この時の私は信じて疑わなかった。
翌朝。
「……あれ、ねーちゃん今日早くね?」
「あ、おはよう波琉。うん、ちょっと朝終わらせておきたい仕事があって。朝ごはん、テーブルに用意してあるから、あとよろしく!」
バタバタしながら準備をしていると、遅くまでバイトをしていた波琉が起きてきた。
「了解。あ、昨日のオムライス、まじ美味かった。さんきゅー」
「ふふ、よかった。今日はいいお肉の日でしょ? なるべく早く帰ってくるね。じゃあいってきまーす!」
ひらひらと手を振ってくれる波琉に見送られながら、私は元気よく職場へと向かった。
「あっ。まずい、伝線してる」
職場の席に着いて早々、ストッキングが伝線していることに気付いた。
かなり早く来たから、下のコンビニで買ってからでも間に合いそう。
でもタイムロスなのは間違いないし、なによりコンビニは割高だから普段はあまり買わないようにしているのに。
「仕方ないか。まだ早い時間で人も少ないから、エレベーターもすぐ来るだろうし」
やれやれと立ち上がる。財布とスマホを持って、エレベーターに乗り込み1Fのボタンを押す。
ガタン!とエレベーターが揺れた。あれ、いつもこんなに大きな音立ててたっけ?
そう思った時だった。
ゴトン!とまた大きな音がなると、急に身体が浮くような感覚になった。
違う、浮いてるんじゃない、落ちてるんだ。
「きっ、きゃあああああ!」
ドン!と大きな音と強い衝撃。私が覚えている最後は、それだけ。
家族の顔が思い浮かんで、それから意識を失った。




