新しい雇い主はイケメン公爵様⁉ 3
「ねぇ、ミレーヌもそう思わないかい?」
「えっ、私⁉」
ふたりのやり取りを他人事のように聞いていたら、突然話を振られた。シャルと公爵様、二対の目がこちらを見ている。
「え、ええと……」
「遠慮しないで、思った通りのことを素直に言えば良いさ」
シャルはそう言うが、そんなことできるわけがないじゃないか。「はい、まったくその通り」なんて、思っていても言えない。
どこか睨んでいるようにも見える公爵様の目が、そうなのか?と言っている気がする。それがまた答え辛い。
「……たしかに、事実だろうが、相手への配慮なしにそのまま口にするのは、時としてよろしくないこともありますね」
なるべく歪曲な言い方をする。雇用前から雇い主を否定して怒らせるわけにはいかない。
「それは、女性を相手にする時に限ったことではありませんが……。誰が相手であっても、敬意を払ったり、相手を思い遣ったりする気持ちは大切だと思います。ですが、たしかに女性はそういう感情の機微に敏感な方が多いので、殿下のおっしゃることも一理あるかとは思います」
嘘は言っていない。実際に私はそう思っている。公爵様の機嫌を損ねることは避けたいので、できるだけやんわりとした言い方をしたつもりだが……。
ちらりとその表情を窺う。なにか思うことがあったのか、公爵様は握り込んだ右手を口元にあてて、なにやら考えている。
「だ、そうだが? 公爵、どうだ?」
「……娘の言うことも、わからなくはありませんね」
にやにやと問いかけるシャルに、公爵様は少し不満そうにしながらもそう答えた。
よ、よかった、のかな? 怒ってはいなさそう。
「たしかに、この娘がどう思うかなどど考えずに発言したことは認めましょう。そして人と比べられることを嫌がる人間が、特定数いるということもわかっております」
自分の非を認めている、のかしら? えらい人なのに、素直にそれができるのは好感が持てる。
「ですが、私もそれくらい不安に思っているということもわかっていただきたい。長年仕えてくれていた侍女が高齢となり引退することになり、後任に悩んでいるのです。いくら殿下の紹介とはいえ、会ったばかりの、それも思っていた以上に若い女性に務まるのだろうかと疑ってしまうのは、ごく自然なことでしょう。比べたくなるのも、同様です」
なるほど、スーザンというのがその引退された侍女さんなのね。〝長年〟とおっしゃっていたし、幼い頃からお世話をしてくれていたのかもしれないわね。
となると、言葉に出さずとも伝わる以心伝心なところもあっただろうし、その方がいなくなって不安になるのも当然だろう。
その後釜がどこの馬の骨ともわからない、幼い妹を連れた成人したての小娘。……そりゃ疑いたくなるし、スーザンさんの話を出してしまうのも致し方ないことだろう。
「あの、私は気にしておりませんので、大丈夫ですよ。今のお話を聞いて、公爵様がご不安に思う気持ちはよくわかりましたから。それに、お仕事ですから! 前任の方と比べるのも、当然のことです」
恋愛ごとに関して「前の彼女は……」と比べる発言をするのはさすがにどうかと思うが、仕事なら話は別だ。よりよいものを求めて当たり前である。
「ベテランのスーザンさんに劣ることも多いとは思いますが、私は私にできることを精一杯させていただきます。その中で、少しでもご満足いただけることを増やしていけるよう、精進いたします。ですので、どうぞよろしくお願いいたします」
再び頭を下げる。うん、俄然やる気が出てきた。
そして顔を上げると、ぽかんと口を開けた公爵様と目を見開くシャルの姿があった。
あれ? 私、なにかおかしなこと言ったかしら?
どうしたのだろうと首を傾げていると、少し間をおいてシャルがくすくすと笑いだした。
「ははっ、ミレーヌは本当に予想の斜め上をいってくれるね。ちょっと公爵をからかうつもりだったのだけれど、なるほど、そういう意見もあるわけだ。これはやられたなぁ」
「殿下、人が悪いですよ」
はぁっとため息をつく公爵様の反応に、あはは!とシャルが笑い声を上げる。
「どうだい公爵。ミレーヌはその辺の若いご令嬢とは少し違うだろう? こういうところが気に入って君に勧めたいと思ったんだ」
「……殿下がこの娘を気に入ったという理由は、よくわかりました」
なぜ笑われたのだろうと思いながらふたりのやり取りを聞いていると、公爵様が私の方に向き直った。
「明日、王宮を出て私とともに公爵家に来てもらう。そこで君には、私付きの侍女として働いてもらうつもりだ」
「かしこまりました」
本来はいきなり公爵様付きなんてありえないことだろう。でも先ほどの話を聞く限り、そうなのかもしれないなとうすうす思っていたので、わからないなりにやっていくしかない。
「おねぇちゃん」
くいっと私の裾を引っ張るクラリスに、にこりと微笑みかける。
不安じゃないと言えば噓になる。けれど、私はクラリスを守って、生きていかなくてはならない。できないとか不安だとか言っている場合ではないのだ。
「公爵様、私たちを受け入れてくださること、感謝しております。殿下、信頼のおける方をご紹介くださいまして、ありがとうございました。殿下の名を汚さぬよう、公爵様の元でしっかり働かせていただきます」
胸を張り、まっすぐ前を見つめてふたりに告げる。
感謝の気持ちを込めて。まるで決意表明のようだと、内心で少し笑いながら。




