新しい雇い主はイケメン公爵様⁉ 2
それから三日、先方に了承をもらえたとシャルから知らせがあり、応接室へと招かれた。
「ああ、ミレーヌ、クラリス。さあ、座ってくれ」
私とクラリスが応接室の扉を開くと、そこにはもうすでにシャルと、新しい雇用主であろう、立っていなくてもわかる、長身の男性がソファに座っていた。
「失礼いたします」
「しつれいします」
とりあえず失礼のないように!と、クラリスにも事前にある程度言い聞かせてきた。賢いクラリスは、「おぎょうぎよくする!」と息巻いており、ちゃんと私に倣ってひと声かけてから座ることができた。
そっと腰を下ろし、少し俯きつつもちらりと正面の男性を見る。男性は、二十代前半くらいだろうか、それはもうものすごいイケメンだった。
「公爵、このふたりがそちらの新しい侍女にと推薦する者だ。姉のミレーヌと妹のクラリス。もちろんクラリスはまだ十分に働けないと思うが、まあおいおい成長に合わせて仕事を与えてやってくれ。ミレーヌ、クラリス。こちらが君たちの雇用主となる、アドルフ・セルヴェ公爵だ」
シャルが簡単に双方の紹介をしてくれた。それに合わせて深く頭を下げたのだが……。ちょっと待って、公爵? 新しい雇用主様って、公爵様なの⁉
予想以上に高い身分の方が出てきたことに、お礼をしながら内心冷や汗をかく。ちょっと待ったー!と言いたいところをぐっとこらえ、とりあえず公爵様から声がかかるのを待つ。
「……なるほど、最低限の礼儀は持ち合わせているようで、安心した」
うわ、声もすごくいい。低音でちょっと色っぽい……ってこら私! なに考えてんの!
少し俯いているから、私のそんな心の声が表情に出ていても気付かれてはいないだろう。危ない危ない。
「さて、殿下より推薦を頂き、これより君たちの雇用主となったアドルフ・セルヴェだ。顔を上げてくれ」
許しが出たため、そっと顔を上げ公爵様の顔をまじまじと見る。公爵様は腰のあたりまである黒髪をひとつに束ねており、精悍な顔立ちに意志の強そうな紅い瞳がとても綺麗な、改めて見ても超絶イケメンである。
「ミレーヌと申します。これからどうぞよろしくお願いいたします。こちらは妹のクラリスです」
「クラリスです。よろしくおねがいします」
努めて冷静な声で挨拶をし、公爵様としっかりと目を合わせる。第一印象、大事。よい印象を持ってもらえるように、落ち着いて受け答えをしないと。
就活時の面接を思い出し、ピンと背筋を伸ばして公爵様の言葉を待つ。イケメンに驚いて黄色い声を出したり浮かれたりなんて、するつもりはないけれど。この方は上司、雇い主よ。
気を引き締めたついでに、表情も引き締める。するとそんな私の心に気付いたのか、シャルがくすりと笑った。
「そんな怖い顔をしなくても大丈夫だよ、ミレーヌ。この男、厳しそうな顔をしているし、実際仕事にはとても厳しいけれど。でも、意外と身内には甘いところもあるからさ」
「殿下……そのあたりで」
おちゃらけた口調のシャルに、公爵様がはぁと深いため息をついた。
「他ならぬ殿下のご推薦であるがゆえ、君たちを引き受けることにしたが、特別扱いをするつもりはない。もちろん、幼い子どもに無理をさせることはしないが。姉のあなたがきっちり働いてくれれば、女子どもふたりくらいは、しっかり衣食住を保証すると約束しよう」
やや事務的でそっけない感じはするが、言っていることは正論、まともだ。いかにも仕事ができる上司!って感じで、私は好感を持った。
変に親切だったり同情的だったりする方が怪しいし、シャルが信頼を置いている方だもの。少し冷たい印象はあるけれど、きっといい人なのだろう。
「慣れないうちは少しまごつくかもしれませんが、誠実な仕事をお約束します。クラリスとふたりで暮らすためなら、誠心誠意仕えさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」
「あ、お、おねがいします!」
腰を上げて深々と頭を下げれば、隣に座っていたクラリスも慌てて立ち上がり、お礼をした。
「……承知した」
そう返ってきたことにほっとして、頭を上げる。隣のクラリスも、よかったねと微笑んでくれた。
「うん、互いによい印象を持てたみたいでよかったよ。公爵、安心して。ミレーヌはまだ若いけれど、なかなかに働き者だ。この三日間、王宮の侍女仕事を手伝ってくれたんだけどね、このまま雇い入れたいくらいだと侍女長が言っていたよ。それくらい優秀な彼女だ、きっと君の力になってくれるよ」
この三日間の働きぶりを、侍女長さんやシャルにそんな風に言ってもらえるなんて。
色々と教えて下さった侍女さんたちから聞いたのかしら、なんか嬉しいな。
思いがけず褒めてもらえたことにほんわかした気持ちになっていると、公爵様にじっと見つめられていることに気付いた。
あ、しまった。気の抜けた顔をしてしまっていたかしら。
「まあ、年の割には落ち着いている娘だということは認めます。ですが、スーザンの代わりになれるかと言われると……」
スーザン? 誰? 代わり??
「公爵、女性に向かって〝代わり〟はないだろう? はぁ、そんなことだから公爵には浮いた話のひとつもないんだよ。いつになったら伴侶を見つけられることやら」
ひと回りほど上の大人に向かってなかなかのことを言うシャルに、私は内心冷や冷やしていた。しかし図星だったのか、公爵様はぐっと仰け反った。
「そ、それは今関係のないことでしょう!」
「いや、普段からそういう感じでいるのがよくないんだよ。もっと女性の気持ちに寄り添わないと。知っているかい? そういうデリカシーのない発言は、気付かないうちに女性からの反感を買ってしまうんだよ?」
……シャルってば、本当に十二歳? そう疑いたくなるような、それでいて無神経な発言をする男性たちに聞かせてやりたいことをさらりと言ってのけた。




