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転生した大家族長女の私、今世は天使なちびっこと幸せになります!  作者: 沙夜


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うちの天使な妹が、実は……? 7

***


「どういうことだ⁉」


「そ、そうおっしゃられましても……」


 同時刻。ミレーヌが消えたシャルリエ子爵家では、子爵が真っ赤な顔をして執事を叱責していた。


「おまえにまかせていた仕事だろう⁉ なぜ全く進んでいない!」


 執務机に積み上がる書類の山。本来であれば自身が行うべきものではあるが、ここ数年、子爵はほとんど目を通したことがない。


「……恐れながら、領地の収支につきましては、ミレーヌお嬢様がご担当されておりましたので、わたくしでは……」


「なんだと⁉」


 縮こまる執事に、子爵は苛立ち抑えることなくダン!と机を打った。


「ではこちらはできるだろう⁉ ここ数日続いた大雨により、作物への影響が出ているらしい。こんなことは以前にも何度かあったはずだ。すぐに対応しろ!」


 握る力を込めすぎて皺のできた書類を執事に突き出し、子爵は命令する。しかし、これにも執事はぶるぶる震えながら首を振った。


「も、申し訳ございません。わたくしには、わかりかねます……」


 再び子爵がガン!と机を叩いた。先ほどよりも大きな音に、執事は「ひいっ!」と叫び声を上げる。


「ならば、いったいおまえにはなにができるというんだ! たしかにあの娘には、出て行くまでおまえの仕事を手伝わせていたが、あんな世間知らずの教養もろくにない小娘ひとりいなくなったからといって、大して労力は変わらんだろう⁉」


 ミレーヌの働きぶりを実際に見たことのない、見ようとしたことも知ろうとしたこともない子爵は、そう言い放った。


 このまま誤魔化すことはできない。自分の功績にしていたが、もう無理だ。そう悟った執事は、覚悟を決めて口を開いた。


「……わたくしではありません」


「なんだ? 今、なんと言った?」


 蚊の鳴くような声に、子爵が眉を顰めて聞き返す。それに対し、執事はぐっと拳を握り締めて顔を上げた。


「ですから、今までわたくしが処理してきたとお伝えしてきたものは、すべてミレーヌお嬢様が行っていたのです! 領地の収支決済、使用人たちの給与計算、帳簿付け。どこでそれらを学んだのかはわかりません。ですが、わたくしなどが知らないような計算方法やぐらふ?とやらの記入方法を使い、お嬢様はそれらを執り行っておりました。その上、自然災害への対応にも明るく、被害が広がるのを防いでくださったことも数知れず。それらを、お嬢様はほとんどひとりで行っていたのです!」


 捲し立てるように暴露する執事の言葉を、子爵は信じられないという表情で聞いていた。


「……お嬢様は、『もし次なにかあっても、これを見てくれたらわかるから』とおっしゃって、様々なまにゅある?を用意してくれましたが、わたくしなどでは到底理解できるものではありませんでした。ですので、どうにかしろとおっしゃられましても、わたくしでは、なにも……」


 わからないし、できない。そう告げ項垂れる執事を、子爵は見下ろした。


(どういうことだ⁉ あの娘には、たいした教育など施していない。たしかにある時からよく本を読むようになったと聞いていたが……。いやしかし、独学でどうにかなるほど、領主の仕事は容易くはない)


 幼い頃からみっちりと領主としての教育を叩き込まれながらも、逃げてばかりいて真摯に向き合ってこなかった子爵にも、それはわかっていた。領主の仕事は、一朝一夕でこなせるものではない。


 だから子爵は面倒なことから逃げて、人に押し付けて、今に至っていた。ある頃から領地経営が上手く回り出したとの報告を受け、なんだ人に任せてこう上手くいくのならば、幼い頃に勉強などしなくてもよかったじゃないかと思うくらいには、順調だったのに。


「……旦那様、お嬢様に、帰ってきていただくことは叶わないのでしょうか? 正直にお話しさせていただきますが、市井にいらっしゃるご子息をお招きして跡継ぎに据えたところで、その……」


 言い淀む執事を否定することは、子爵にはできなかった。その後に続く言葉に予想がつくし、その通りだと思ったから。


「ちょっとあなた!」


 認めたくはないが、認めなくてはいけない。子爵がそう受容したところに、けたたましい声が響いた。


「……なんだ、騒々しい」


 ミレーヌの母、子爵夫人だった。普段から鋭い眼差しの彼女だが、見るからに機嫌が悪い。それくらいに厳しい表情をしている。


「もう我慢できません! 最近の料理、あの手抜きはなんなの⁉ 料理人たちに問い詰めても、我々ではこれが精一杯としか言わないし! あなた、優秀な者を勝手に辞めさせたりでもしたわけ⁉」


 こんな時にこの女の相手をしなくてはいけないのかと、子爵はため息をついた。


(……いや待て。俺は料理人など辞めさせていない。たしかにここ数年の食事は、普段と違うと思っていたが。……まさか)


 はっとして子爵は執事の方を見る。すると執事はまたもや目を伏せ、静かに頷いた。


「もしや……ミレーヌ、か?」


「おっしゃる通りでございます……」


 よく仕入れに町まで降りていることを、子爵も知っていた。だが、それだけだ。


「なぁに⁉ 辞めさせた料理人がいるなら、さっさと連れ戻してちょうだい! 食べものが変わったからか、ここ最近の体調にまで影響があるんだから!」


 事の重大さに気付いていない子爵夫人の勝手な主張に、子爵はぐっと息を吞む。


「あの娘を……ミレーヌを、探せ!」


 それも十分勝手な主張であると気付いていない子爵は、出て行けばよいと言い放った我が娘を探すために、真っ青な顔の執事に命令するのであった――。

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