うちの天使な妹が、実は……? 5
翌日。クラリスのおかげで捻挫もすっかり治り、私たちは予定通り申請を出しに、出入国管理所へと向かった。のだが。
「え? 入国できないって、どういうことですか?」
「成人の確認が取れているお姉さんは大丈夫ですが、そちらの妹さんは、ちょっと……」
受付の男性が困ったようにクラリスを見る。
よくよく話を聞くと、未成年の子どもを国外に連れ出す場合、保護者の同意が必要であり、血縁関係を認める、もしくは身元保証人である書類を持っていない私とでは、国境を越えることができないのだという。
これは、いわゆる人身売買を防ぐための措置なのだ。幼い子どもを奴隷として他国へ売ろうとする者を、取り締まるためのもの。たしかに真っ当な理由だ。
本当の姉妹でない私たちは、血縁関係を認める書類なんて持っていない。身元保証人の書類は、おそらくクラリスを引き取ったおじさん夫婦が持っているのだろう。
しまった、家を出るにしてもひとりで旅立つ予定だったから、そんな制度頭から抜けていた。
下手なことは言えないけれど、このまま通れないのはきつい。この際本当のことを話して、なにか方法がないか聞いた方がいいかもしれない。
「……あの、実は私たち、本当の姉妹じゃないんです。この子のご両親が亡くなって、それで行くところがないって彷徨っているところに出会って。私もひとりだから、放っておけなくて」
「なるほど……訳アリ、でしたか」
受付の男性は、同情したように眉を下げた。
嘘は言っていない。私の両親は死んでないけど、家出をしてひとりなのは本当だもの。
「ですがそれでは、方法がないわけではありませんけど、かなり時間がかかりますね。もしもあなたが貴族のご令嬢で身元がしっかりしているなら、ご実家の養子としてその子を入れる方法をとれば、多少かかる時間は短くなりますが。あとは、あちらの国の王侯貴族に伝手があるとか……。まあ、たとえ話ですけどね」
苦笑する受付の男性に、あははと引きつった笑みを返す。
もしもじゃなくても一応貴族のご令嬢なのだが、それは無理な話だ。シャルリエ家に助けを求めるなんてできるはずもないし、伝手なんてあるわけもない。
「おねぇちゃん……」
「大丈夫。なにか方法がないか、考えるからね」
繋いだ私の手をくいっと引っ張るクラリスの顔も、不安気だ。
安心させるように笑ってものの、内心どうしたものかと途方に暮れていると、うしろから名前を呼ばれた。
「ミレーヌ、クラリス」
聞き覚えのある声にぱっと振り向くと、そこには意外な人物がいた。
「シャル?」
「昨日ぶりだな」
そう、昨日別れたばかりのシャルだった。お連れの方もすぐうしろに立っている。
どうしたの?と声をかけようとして、はっとする。今日のシャルの格好、昨日とは違う。昨日は平民に近い服装だったけれど、今日はきっちりした服を着ている。
「! あ、あなたは!」
受付の男性も驚いたようで、勢いよく立ち上がった。そんな私たちに、シャルはふっと笑って人差し指を口元にあてて「しーっ」と言った。
「シャル! またあえたね!」
クラリスだけがシャルとの再会を素直に喜んでいる。そんなクラリスの頭を、シャルが撫でた。
「ああ。また会えて俺も嬉しいよ。それにしても、どうやら困っているみたいだな。俺が力になれそうだと判断したのだが、話を聞かせてくれるか?」
にっと笑うシャルの表情は、昨日とはどこか違う、どこか威厳すら感じるもので、私は戸惑いつつも事情を話すことにしたのだった。
「なるほど。では、俺の友人ということで入国すれば解決だな」
「……ちょっと待って。えーっと、今の話から、なんでそうなったのかな?」
にぱっと笑うシャルに、どういうことだと動揺する。動揺しつつも、先ほどの受付の男性の言葉が思い出される。
『あちらの国の王侯貴族に伝手があるとか……』
ひょっとしたら貴族かもなとは思っていたが、もしかして、隣国フォートリエ王国の貴族令息だったのかしら。
「殿下のご友人ということでしたら、話は早いと思います」
「え? ……でん、か?」
納得しかけたところに、受付の男性の〝殿下〟という敬称が出てきて、目を丸くする。殿下って普通、貴族の令息に使う敬称じゃないよね?
「おや、ご存知ではなかったのですか? この方はフォートリエ王国王太子、シャルル・フォートリエ殿下ですよ。国境沿いの様子を視察に、ちょうどこちらに滞在されているのです」
「お、王太子、殿下……?」
予想以上に高貴な称号が出てきて、呆気にとられる。ちょっと大人びているし、なんなら偉そうって少し思ったりもしたのだが、偉そうどころか本当に偉かったのね。
「ははは、バレてしまったな。では改めて、フォートリエ王国国王が第一子、シャルル・フォートリエと申します。どうぞお見知りおきを」
背筋を伸ばし、流麗な所作で礼をするシャル。それは、幼少期から礼儀作法をしっかり仕込まれてきたことがわかる、王太子の名に相応しい振る舞いだった。




