877話 幸せな記憶。
「やっと来たんだ?
へー………やっぱり青児。
君は一番信用出来るよ
……………………………君は人間のクズだからさ」
優佳里は振り返りニッコリ笑ってそう告げた。
「…………………」
青児は黙ったまま床にカタラを放り投げる
四肢を失ったカタラは意識が朦朧としているが
優佳里の声にハッと目を見開いた。
「…………随分と可愛いサイズになったね
カタラ?
……………………………どうしてあそこに?」
優佳里はしゃがみ込んで
目を合わせて言う
「…………………殺すなら殺せ
俺は何も話さない」
カタラはそう言う
(………………もう無理だ。
…………こうなったら
………もう、どうにもならない…じゃんね。
………………………………結局俺はこうなる
でも、ミライの事を話したりするくらいなら
…………死んだ方がマシだ。
…………ミライ
…………………………ミライ)
思い浮かべるのは
あの甘く蕩けた瞳でカタラを見ていた姿。
恥ずかしそうに笑ってくれる姿。
優しい目で見つめて頭を撫でてくれる姿。
(………………………死にたくない)
本心は死にたくない
ずっと側に居たかった。
何故こいつらがエンペラードと繋がっているのかはわからないが
どうせ禄な理由では無い。
ミライの事を知っているのかどうなのかはわからないが
カタラが側にいたら確実に今後危険に巻き込む。
(そんなのは…………嫌だ
…………なら
………俺は…………
一時の夢だとしても………幸せを貰った
…………甘い記憶も思い出も……
…………………………だから
ミライを守るためなら死んだって…………構わない……)
強がりだ
それでも
何も無かったカタラに今は幸せな思い出が有る
それを胸に死ねるのなら、悪くは無い。
キスも沢山した。
でも
本当はミライを抱きたかった。
家族になりたかった。
(くっそぉ……………死にたくない死にたくない!!!!
ミライミライミライ!!!!)
「…………カタラ?
……………殺せって
…ふふ。そんなにバレたくないの?」
優佳里の言葉にカタラはピクリと動く
「…………園田ミライ。
………ふふ、今ピクって反応した……
わかりやすいなぁ……
カタラ。
君ってそんな奴だったっけ?
…………………………本当面白いなぁ」
「………………」
カタラは内心で焦っていた。
優佳里はミライを知っている
青児が言った通り
やっぱり全部バレていたのだ。
(はっ…………はっ…………)
ドクドクと心臓が音を立てて
胸が不安で押し潰されそうになる
「………………殺せって言ってるだろっ!!!!
そんな女は関係ないっ!!!!」
思わず声を荒げてしまう
矛先がミライに向いたら
ミライがひどい目に合う
「……………庇うような事言っちゃってさぁ
……必死な顔で
それで関係ないって
それは無いんじゃないか?
………カタラ?
………………そんなに大事なんだ?
………思ったよりずっと面白い事になってるね」
優佳里はキョトンとしている。
(あ………しまった……)
もしかしたら半分はカマをかけられたのかもしれない
なのにカタラが反応してしまったから
サアッと血の気が引く
(…………やばいやばいやばいやばい)
「カタラ?
………そんなに焦らなくて大丈夫だよ?
………………君の件が無くても
園田ミライはずうっと前から
僕の獲物だし
…………………だから安心しなよ」
クスクスと言う優佳里に
カタラは目を見開く。
「は………?
は?獲物…………?
…………っ!!!ふざけるなっ!!!
ミライに手を出すな!!!殺すぞ!!!!」
四肢の無い体では殆ど動く事は出来ないが
首を必死に優佳里に向けて
カタラは唾を飛ばして叫ぶ
「…………うわぁ
君ってそんな顔できるんだ?
………青児
記憶覗いてよ。
…………………全部知りたいな
何があったのか
………………任務を放り出して
こんな所に来るような事が
何だったのか気になるなぁ。
……………………園田ミライは
お前にナニをしたの?」
優佳里はそう言う
「は……?記憶……っ!!!!
嫌だ!!!!やめろっ!!!!
それは俺の!!!!俺だけの物だっ!!!
青児っ!!!やめてくれっ!!!
見るなっ!!!!!」
カタラは真っ青で震えながら
なんとか手足を生やそうとするが
優佳里に顔を踏みつけられる
「青児早く。
……………………早くしろよ
クズ」
〜〜〜〜
優佳里の言葉に青児は
ゆっくりとカタラに手を伸ばす
(…………………もう、何も考えるな
人の心なんて俺には無い)
青児は必死に自分に言い聞かせて
罪悪感を押し殺す。
「嫌だぁ!!!!やだぁせいじっ!!!
うぁぁ!!!!やめてくれっ!!!!みないでっ!!!
それはおれのなんだっ!!!やだやだぁ!!!」
涙でぐしょぐしょの顔でカタラは
懇願する
まるで子供の癇癪だ
(やめてほしいのはこっちだ
……………いつも無表情な癖に
やめてくれ
そんな風に泣くな……………
やめてくれよ)
青児はぐっと一度唇を噛んで
カタラの頭に触れる
カタラはビクンと大きく痙攣した。
〜〜〜〜
流れ込んで来た記憶に
青児は
胸が苦しくなる
頬を勝手に涙が伝う
甘くて幸せで
カタラの想いの強さに
青児は記憶に飲み込まれそうになる
しかし
強く腹を蹴られて
ハッと我に帰る。
嫌そうな顔の優佳里がそこに居た。
「おい、何泣いてんだ?
…………気持ち悪いなぁ
……それで何を見たのか
さっさと話せよ」
青児はちらりとカタラを見る
カタラはヒックヒックと
静かに泣いていた。
(……………………久々に
混ざりかけた……………
カタラ
本気で園田ミライを愛してるんだな
………………。
気持ちわかるよ……
……………本当に…
ごめん)
青児は頬を流れる涙を拭い
そして口を開いた。
「……………カタラと園田ミライは」
〜〜〜〜
青児からの報告に
優佳里は大爆笑している
「あははははは!!!!
何それっ!!!あははははは!!
カタラぁお前ちょろ過ぎだろっ!!!!
あっははははは
優しくされて好きになっちゃいましたって?
っぶ、あははははは!!」
笑いすぎて涙を流す
優佳里を青児は静かに眺める
しかし強く握った手は
震える
カタラは地面で静かだ
もうピクリとも反応しない
目から完全に光は消えて居た
心が折れたんだろう。
(…………………………殺してやるのが
慈悲か)
「はー面白いなぁ
……でもそうか
カタラは園田ミライを愛してる(笑)
そう言う事か………
ふーん。
…………………そっか
………………」
呟いて
優佳里は
とても優しい顔で笑った。
しゃがみ込んで
虚ろな目をするカタラに
声をかける
「カタラ?
カタラ…………ごめんね
酷いことをしてしまったね?
……………カタラには
結構世話になったよね?
………………だからお礼をしないといけないな
……………………カタラ
園田ミライと家族になりたいんだろ?
抱きたいんだろ?
ならさぁ
………………………園田ミライと子供を作らせてやる
………………………嬉しいだろ?」
とても優しい顔で優佳里は
カタラの頬をそっと撫でる
「は…………?」
それにカタラはピクリと反応する
光を無くした瞳を
大きく見開いて優佳里を見つめた。




