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決戦・下

球体がほどけるように裂けて、無数のワイヤーが生き物の触手のように四方へ伸びた。

 無数の蛇が絡み合うような感じだ。前の奴はコアのようなものがあったけど、こいつは無いのか


 ……こんなのでも実はどこか弱点があるのか。

 それも分からない。首とか頭部とか足とか、ここを狙えばいいというような部分がわからない。

 これも新宿系の面倒なところだ。


「檜村さん!」

「分かってる」

「みんな。檜村さんを守って、詠唱の時間を稼いで」

「了解だ」

「【書架は北・理性の弐列。九拾五頁七節。私は口述する】」


 さっきまでのをみる限り、風の斬撃も漆師葉さんの影もハンマーも大してダメージがない。

 実際に切っても全く手ごたえがない。効いてる気配がない。

 なら、檜村さんの魔法で倒すのが一番いい。

 

 鞭のようにワイヤーが振り回された。

 鎮定とハンマーがワイヤーの先端を弾き飛ばす。後ろから伸びる漆師葉さんの影が球を切り裂くけど、わずかに攻撃のペースが落ちるだけだ

 とはいえこのまま時間を稼ぎ続けられれば悪くはない。


 球が一度動きを止めて、全体に光が走った。

 ワイヤーが左右に大きく広がった。大きく手を広げるような動きだ。左右に大きく広がって、いろんな角度からワイヤーが伸びてくる。

 

「一刀、薪風!旋凪!」


 鎮定を横凪に振りぬく。鎮定の動きに連動するように強い風が横に凪いだ。

 ワイヤーが横風で煽られる。でも何本かが風の壁を向けてきた。

 

 まっすぐに伸びてきたワイヤーが鎮定に絡むように動いた。

 鎮定を払い落とす気か。


 でも、武器を打ち落とす攻撃と、その凌ぎ方は師匠に教わっている。

 戦場で武器を落とされたら死んだも同然、と何度も言われた。


 こういう時は力で落とされないように柄を強く握りすぎてはいけない。

 刀身に蛇のように絡んでくるワイヤーを払いのけた。


「武器を狙ってきてます」

「わかった!」


 国分さんが大きくハンマーを振り回してワイヤーを蹴散らす。

 ワイヤーが様子を伺う蛇のように後ろに下がった。


 今のもそうだけど、攻撃から殺意とかそういうのは感じない。

 そういえばさっきは捕獲します、と言ってたな。

 

 どういうつもりなのかわからないけれど、それならそれで好都合だ。

 そう思ったところで、国分さんの身体が空中に浮いた。



「なんだ?」


 何が起きたかと思ったけど、ワイヤーが一本国分さんの足に巻き付いていた。

 ガタイのいい国分さんの体が天井近くまで軽々と釣りあげられる。

 なんてパワーだ


 上をとっさに見上げたけど、視界の端にワイヤーが左右から回り込むように伸びてくるのが見えた。

 狙いは後ろ……檜村さんか?


「ブラックローズ!」

「一刀!破矢風!七葉!」


 風の斬撃が左右のワイヤーの行く手を阻む。

 同時に影の刃が天井にぶつかる寸前で国分さんの足に絡んだワイヤーを断ち切った。


 空中で国分さんの巨体がふわりと浮く。

 間に合うか。


「一刀!薪風、白繭!」

「ブラックローズ!ローズガーデン!」


 漆師葉さんがサーベルを振る。

 影から何枚もの刃が飛び出して球に次々と突き刺さった。

 

 風が国分さんを包んで、クッションのように床で跳ねる。

 国分さんが慌てて立ち上がった。国分さんが足を踏んで少し顔をしかめる。


「大丈夫ですか?」

「ああ、ちょっとな……あと少し遅かったらヤバかった。助かったぜ、片岡」


 国分さんが言う。

 足を怪我したんだろうか。とりあえず大きなダメージはなさそうでよかった。


「流石ね。片岡。正に阿吽の呼吸ってやつよね。やっぱりライバルは心の奥底で通じ合うのよ」

「そうかな?」

「漫画とかの定番でしょ」


 漆師葉さんが言う。さっきのもだけど、今のもうまくタイミングが合ったからよかった。

 後ろを攻撃されれば檜村さん、足をやられたら国分さんが戦線離脱だった。


 檜村さんの魔法無しでこいつを倒すのは厳しそうだし、国分さんが欠けたら恐らく押し切られる。

 危なかった。


 ていうか、今のは明らかに後ろの檜村さんを狙った攻撃だった。

 詠唱をしている時は僕でも魔素の動きを感じる。こいつらだってそのくらいはできるだろう。

 火力源を狙ってきたのか。


「【我が司るは尊きもの。汝の身を縛める枷あらば鍵を持ちてそれを外そう、囲む檻あらば閂を抜こう、道を塞ぐ柵あらば槌持ちてそれを除こう。見よ、今や四海に汝を遮るものは無し】」


 今のに気づいていたのか、それとも気づかなかったのかわからないけれど檜村さんの詠唱に乱れはない。

 ワイヤーが無数の蛇のように蠢く。目はないけれど、こっちの様子を観察しているのは分かった。


 どうするべきかと思ったけど、ここで受けていたら一方的に押し込まれる。

 宗片さんの言葉を思い出す。


 守勢の時こそ受けに徹さず前に出ろ。

 相手を下がらせれば、その分こっちのスペースが開く。


「前に出るぜ!」


 僕の考えたことを察してくれたように国分さんがハンマーを肩に担いで飛び出す。


「お願いします。気を付けて」

「行くぞオラァ!」


「一刀、破矢風!天槌!」

「ブラックローズ!」


 風の塊がうなりを上げて降り注ぐ。重たい音が立て続けに響いて床を揺らした。

 影の刃が四方八方から伸びて球を切り裂くけど……こっちはあまり効果が無さそうだ。


 やっぱり斬撃というか切る攻撃は効果が薄いか。

 ただ、ほどけたワイヤーの動きはあまり変わってない。効果は無さそうではあるけど、少しでも時間を稼げれば、今はそれでいい。

  

 国分さんが上手くよけて下がる

 圧力というかプレッシャーのかけ方を良く分かってる動きだ。

 ハンマーを構えて国分さんが球とにらみ合う。 

 

 ワイヤーがうねうねと絡み合うように動いて、そいつの表面に光がちらついた。

 まるで思考をめぐらせているようだ。

 このまま時間を稼げればいいけれど……次はどうくる。



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