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決戦・上

 球の表面の絡まりあうワイヤーに光が走った。

 まるで何か考えているようだ。


『……では、この提案は如何でしょうか。あなたたちと引き換えにこの場にいる有機体を解放します。また、上層階にいるものの無事な開放を約束しましょう』


 また無機質なスピーカーの音声のような声が響く。

  

『4体と36体ならそちらにとって利益がある。合理的な選択を期待します』

  

 国分さんと漆師葉さんと目が合う……口で確認をすることはできないけど、その目から、何をするのかは察しがついた。

 

「答えはこれだ、玉っころ!」

 

 声と同時に国分さんが手にしたハンマーを投げつけた。



「ブラックローズ!」


 空中を飛んだハンマーが轟音を立てて球にぶち当たる。

 同時に床から伸びた影の刃が女の子の首に巻き付いてたワイヤーを断ち切った。

 

 やっぱりそうなるか。

 ならそれに合わせるだけだ。


「一刀!破矢風!鼓打!」

「【書架は南東・記憶の六列・参拾弐頁八節。私は口述する】」

 

 後ろから檜村さんの詠唱が聞こえてきた。鎮定を振り下ろす。

 風が渦巻いて、国分さんのハンマーを受けて後退した球に風の塊がぶつかる。

 でもこいつらに一発じゃだめだ。


「一刀!破矢風!鼓打!」


 もう一発の風の塊が球にぶち当たる。

 重い音が響いて球が風を受けてぐにゃりとゆがむ。


 もう一発行けるか。

 疲労感がのしかかってくるけど、疲れたとか言ってる場合じゃない。奥歯を噛みしめて意識を集中する。


「くらえ!」


 気合の声を出して踏み込んで鎮定を振りぬく。風がうなりをあげて飛んで球にぶち当たった。

 風が当たったと同時に、球の形が崩れた。ダメージがあったか、と思ったけど、ワイヤーがばらけて伸びる。


「させないわよ!ブラックローズ!ローズガーデン!」


 漆師葉さんがサーベルを掲げる。足元から影が四方八方に伸びた。

 影から今までよりはるかに多い黒い刃が飛び出す。影の斬撃が無数のワイヤーを切り飛ばした。

 

「おら!もう一丁!」 


 国分さんの手にはいつの間にかまたハンマーが握られていた。

 国分さんが気合の声を上げてもう一度ハンマーを投げつける。空中を飛んだハンマーが球にぶち当たってまた衝突音が部屋の壁を震わせた。


「【今、敵は迫り鬨の声は門の外より響く。戦の時はきた。されど恐れるなかれ。我等の四囲に聳えるは家祖が築きし高き城壁】」


 ハンマーを食らった球が大きく下がった。

 大きく息を吸って呼吸を整える。もう一撃。


「一刀!破矢風!鼓打!」


 もう一撃、風の塊が命中する。ワイヤーが一瞬風でばらばらになるけど、すぐに絡まりあって球が形を取り戻した。

 身じろぎするように球が蠢いて、またワイヤーが伸びるけど。


「【其を超えること能うは北天の山嶺を越え渡る鳥たちのみ】術式開放!」


 間一髪、檜村さんの詠唱が終わった。白く輝く壁が立ち上がって壁際にいる人たちを取り囲んだ

 壁に当たったワイヤーが弾き飛ばされる。


 ワイヤーが防壁の表面を削るように動いてあきらめたように戻っていった。

 結構きわどいところだったけど……とりあえずこれで人質はとられずに済むか。



 「完璧なコンビネーションね。片岡。それに檜村さん、さすが4位ね」

 

 漆師葉さんが球から視線を切らないままに檜村さんとハイタッチした。

 確かにいまのは我ながら完璧な連携だった。


 うっすら白く輝く魔素の壁が周りの人の前に立っている。これならとりあえず人質の取られたりはしない。 

 首をワイヤーで絞められていた女の子は床に倒れているけれど、呼吸している気配はある。

 無事だな。 


「流石だな、片岡」

「そっちこそ、今の、どうやったんです?」


 ハンマーを投げたと思ったら、いつの間にかハンマーが手元に戻ってきていた。

 そういう能力というかそういうのなんだろうか。


「俺はお前らみたいな風とか影とかそんなのはないからな。小技を磨いてるわけよ」


 国分さんが自慢げに言った。

 乙類の武器は出したり消したりできる。

 多分、ハンマーを投げて、そのあともう一度武器を出し直したんだろう。


 前に宗方さんがやっていたのを見たことがあるから僕も何度か試したんだけど、これが結構難しい。

 手から離れた武器を消す、もう一度素早く出す、というのをスムーズにかつ速くやるのはかなり慣れがいる。


 それに一度武器を消すと、もう一度作るまでは丸腰になるから結構怖い。

 それをこれだけ使いこなすとは……すごいな。


「人質は助ける。悪い奴はぶっ倒す。どっちもしないといけないのがヒーローのつらいところね」

「でも、僕らならなら楽勝だ、そうでしょ」


 我ながらなんか自分らしくないセリフだなと思う気けど、思わず口に出てしまった。

 漆師葉さんが不満げに僕の方を見る。


「ちょっと、それあたしが言おうとしてたんだけど……片岡」


 ただ、人質を取られている圧倒的に不利な状況は脱したけど……ダンジョンマスターであるこいつをを倒さないといけないのは変わりない。

 それに、漆師葉さんにも国分さんにも少し疲れが見える。

 さっきの広範囲の影の斬撃や武器の作り直しは負担がかかったんだろう。長期戦は不利。


 呼吸を整えて、国分さんと並ぶように前に進み出る。

 消耗がまだ少ない僕がしっかりしないと。


「それにね、人質を取って脅すような卑怯者のいうことを信じるバカはいないわ」


 漆師葉さんが言う。

 確かにこいつらが約束を守る保証は全くない。


『当方の戦力はあなたたちを凌駕しています。抗戦しても結果は同じです』

「それはやってみないとわからない」


 何度も戦って、いろんな人の戦いを見て感じたことがある

 能力の差。実力の差。それはある。だけど戦いの結果はそれとは必ずしも関係ない。


 ほんのわずかななにかが結果を変えることはある。100回戦ったら負け越す相手でも、実戦なら最初の一回を勝てばいい。

 こいつらが強いのは何度も戦ってよくわかっている。戦わずに諦めるという選択肢はない。


「勝つのは僕らだ」

「そう、ヒーローはそうじゃないとね、片岡。それにストーリーはハッピーエンドじゃないとね」


『致し方ありません。捕獲します』


 球体が脈動してきしみをあげた。ワイヤーがほどけて網のように大きく横に広がる。

 大きさが増すと威圧感が増すな。


 鎮定を握って意識を集中する。

 ……これからが本番だ。 

 



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