第10話 ~刻詠の腕輪と残留思念~
この回で佐夜の身に大変な事が起きます。
「かふ……っ……」
「っ、無理しちゃダメだよやすしさん」
「いや……無理しないと意識が飛んで……逝きそう。つうか………もうそろそろ逝きそうだぁー」
「逝っちゃダメ-!」
「……まるでコントね」
致命傷を負っているのに昔話をしたせいで余計な体力を使い天に召されようとしているやすしに佐夜が身体を揺さぶって引き留める。というか協会機関メンバーが死んだ場合、その魂はどこに行くんだろうな?(現実逃避)
「ぬ? そいつは殺さなくてもよいのか?」
「いや、そいつ味方味方」
何をとち狂っているのかやすしを「KILL(殺す)?」みたいな感じで聞いてくるベリアルに正義がツッコむ。多分佐夜に構ってもらっているやすしに嫉妬しているのだろう。男の嫉妬は見苦しい。
「そう…だ佐夜。『刻詠の腕輪』について……なんだがよ…かふっ……」
「だから無理はダメだってばっ」
ヤバイくらい吐血しながら喋ろうとするやすしを押さえつけようとする佐夜だがそんな佐夜をお構いなしにやすしは語る。
「その腕輪…はな……元々進化する様に作られた特別品……だ。ごほっ」
「進化する……特別品?」
死にかけのやすしが吐血しながらも話すのを止めない。
元々魔道具や宝具、秘法具や神器、創世器などは一度作られた時点で完成品で基本的にはそれ以上に進化はしない。
また例外としてまれに特定の特殊道具が進化する事があるが、その為にはまたそれぞれ特殊な条件があるのでやはりそうたやすく進化は出来ない。
しかし美里が創った『刻詠の腕輪』は最初から進化出来るように創られた物で、今は『秘法具』扱いになっているが元々は唯の『魔法具』だったのだ。
それで『刻詠の腕輪』の進化条件とは使用者が常に腕輪を装着し、腕輪の能力を使い続ける事だ。
一見簡単そうに思えるのだが、実はこの腕輪、一度装着し使用すると勝手に腕(手首)から外れてしまうのだ。その故常に装着する事が出来ず進化も出来ない。グラスが腕輪を紛失してしまったのもこれが原因。
「あれ? でもこの腕輪外れないんだけど……」
「そう……だ。外れないって事は多分…その腕輪がお前を所有者として認めたって事だと……思うぜ……ごほっ。……何せ俺ですら拒絶されるんだからよ、くはは」
「笑ってる場合かっ」
力なく笑うやすしに軽くチョップする。自棄にも程がある。
「だからよ……最初それを着け続けられているお前を見て、どうやってもアイツと……美里と姿が被ってな。お前が魔界に行たって聞いて居ても立ってもいられず助けに来た結果がこれだ。……情けねぇだろ?」
「情けなくなんかない!」
助けに来たにも関わらず、結局は身を挺にしてしか美里───佐夜を護れず、己の身体は死ぬ寸前にまで陥ってしまった。笑えないけど笑えてくる……。
そんなあざけ笑うやすしに佐夜が吠える。
「情けなくなんかないよっ。やすしさんは……。──────」
そう言いながら佐夜が言葉を紡ごうとした時、一瞬だが佐夜の動きが止まる。
「佐夜?」
そんな一瞬の佐夜の変化に気付いたのは瀕死であるやすしだった。
そんな怪訝な顔をしたやすしの右手を佐夜は黙って手に取りこう言った。
「貴方はちゃんと、私を護ってくれた」
「「「「っ!?」」」」
佐夜の口から出て来た『私』という単語にやすしはおろか、全員が目を張る。
「お前、まさか……まさかっ……ぐっ!?」
「はいはい。そんな瀕死の身体で無理しないの」
「のあぁっ!?」
突然湧いた希望に無理して身体を起こそうとして激痛が走るやすしの身体を指で突いて横たわらせる。
「佐夜……いや、アンタは一体…誰なの?」
「ん? 私?」
するとすぐ横でじっと見ていた舞華が怪訝な顔で訪ねてくる。
「私は『喜屋武 美里』。この子の右手に宿した腕輪に眠っていた残留思念みたいなやつね」
「残留思念……幽霊とかじゃないのか?」
そしていつの間にか近くにきていた正義も話に加わる。
「違うわね。私はこの腕輪を造った美里本人が自身の魂の一部をこの腕に封じていた存在よ。厳密に言うと残留思念とはまたちょっと違うけどそんな感じだと思ってくれていいわ」
「そ、そうか。良く分からんが敵じゃないならいいさ」
「そうね。幽霊に身体を乗っ取られたーっていうなら無理にでも引き剥がしている所だけど佐夜にとって害が無いならいいわ」
「そ、理解が早くて助かるわ」
細かく言ってしまうと時間がかかるーみたいなニュアンスで言われた為、正義と舞華はとりあえず「敵じゃないならいっか」的な事で結論付けた。
「待て待て! その者が我が嫁、佐夜の身体を乗っ取っている事に変わりはないであろうが。なら俺様にとっt──────」
「あーはいはい。お前が関わると話がややこしくなるからあっち行こうなー」
「あ、貴様、何をする!? 佐夜が、愛しき君が────………」
だが佐夜をこよなく愛するベリアルにとっては佐夜の一大事と捉え、佐夜=美里に飛び掛からんとした為、正義がベリアルの首根っこを掴み、向こうの方へと引き摺って行った。
「あはは、何だか楽しそうな人達ね♪」
「そ…そんな事より美里、お前……っ」
「はいはい。だから無理して身体を起こさない様に。ホントに死ぬわよ?」
「ぐわぁっ!? だか…らってわざわざ傷口を押えつけるのはやめろー!」
さっきまで本当に呼吸が浅く、死にかけだったやすしなのに、愛した者が出て来たと思ったら急に元気になった。
「うふふ。それだけ元気が戻ればもう心配はいらないわね。じゃあ貴方、さっさとその身体を元に戻すわよ」
「戻す?」
『治す』ではなく、『戻す』というニュアンスに聞いていた舞華が首を傾げる。
「ってまさか……っ!?」
美里の言った言葉に気付いたやすしがやけに慌てる。
「『時間逆行』!」
キュィィィィ──────
やすしが止めるまでもなく発動したそれは緑色の光を発しながらやすしを包み込み、
「ぎゃああああああああああああああああっ!?」
やすしが激痛を発しながら喚き出し、
「え、何コレ、ヤバくない?」
身体をビクビクさせながら喚くやすしを見て舞華が引いた。何が起きているのかは知らないけどかなりの痛みがやすしを襲っているのは間違いなさそうだ。
「……って、アレ?」
すると嫌々ながらもやすしを見ていた舞華が異変に気付く。
緑色に包まれたやすしの身体の傷口から刺さって身体の中に入り込んでしまっていた金錆や腐木が次々とやすしの身体から排出されていき、次に流れ出てしまっていたやすしの血液がまるで時間が巻き戻るかの様にやすしの身体の中へと戻って行き、最後にはその傷口すら完全に塞がってしまった。おそらくさっきのやすしの悲鳴は身体から破片が抜け出た事による痛みなのだろう。
例えるなら棘や注射針を全身に刺してそれを一斉に抜く様な感じといえば分かるだろうか。まぁ、そんな状況ありえないけど……。
「ぜぇ、はぁ、はぁ……お、お前なぁ~っ」
憔悴したやすしがみさとを恨めしそうに見る。
「貴方は男の子でしょう。少しは我慢しな、さいっ」
ぺしっ
「のはっ!? ったく……お前は相変わらずの神出鬼没だな」
「貴方のぶっきらぼうさも相変わらずね」
「………」
やすしにチョップし、文句を言うやすしに対し「あはは」と笑う美里を見て舞華は別人と思いながらもどこか佐夜に似た雰囲気を持っていると感じていた。
「さってと、本当は色々話したい事とかあるんだけど……時間切れね」
「え、あ、何で……っ」
愛する者が復活し喜んだのも束の間、時間切れと言われて絶句するやすし。
「いや何でって言われても私は喜屋武美里の残留思念よ? 美里本人が死んでる上にこれ以上佐夜の身体に入っていると佐夜にも悪影響を与えちゃうかもしれないしね」
「だからって早すぎるだろ! それに俺はお前を────っ」
「ストップ」
佐夜の身を案じて去ろうとする美里にやすしが焦る。が、やすしがそれ以上話す前に美里に人差し指で口を押えられて塞がれる。
「死んじゃった美里の事をずっと思い続けてくれるのは正直嬉しいよ。でもね貴方、死んじゃった美里の事を思い続けた所為で新しい恋に進めずにいるじゃないの」
「当たり前だ。俺が愛したのは美里、お前だけだっ。他の誰かじゃ駄目なんだよ」
「貴方ね……」
死んだ人相手に縛られているやすしに溜息を付く美里。
「お前が死んで心にポッカリ穴が開いた俺は、お前を殺した奴等を殺し、特殊道具を全部回収し、堺達と出会って機関に入ってからも色んな女達とも関わってきたけどお前ほど好きになった相手はいなかったんだ。俺には美里しかいなかったんだ……」
「……そっか、ありがとう。それを聞いて私の本体もきっと報われたと思うわ」
「ま、待ってくれ美里っ」
美里がそう言うと佐夜の身体が白く光り出す。きっとさっき言っていた時間切れが近いのだろう。やすしもそれを悟って美里の手を掴む。
「大丈夫。一人の女性をここまで深く愛せた貴方ならきっと────」
美里もやすしの手を両手で掴み微笑みながら言う。
「きっといつか私以上に大切な人が出来ると信じてる。だから────」
「ま、待てっ! 行かないでくれ美里っ!」
佐夜を包む光が強くなって美里の存在が消えかかり、やすしが柄にもなく泣き叫ぶ。
「ばいばい……美里がこの世で愛した愛しい人。またどこかで会おうねっ」
そう言って佐夜を包む光──美里は満足した様に涙を流しながら消えた。
「あ、あああ……ああ…………みさとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!」
そして愛しき人が昇る光を掴もうとするが虚空を切る両手。そして己の愛しき人が完全に消滅した事で発狂し、泣き叫ぶやすし。
「ふんっ!」
「がっ!?」
発狂して暴走すると思った舞華がやすしの背後から一撃を加え気絶させる。
「……アンタの気持ちは分からなくはないけど……自暴自棄になって何もかも投げ出してしまったらアンタの大切な人が悲しむでしょうに」
そう言って舞華は気絶させたやすしを横たわらせる。
舞華はやすしの気持ちを全部ではないが理解している。そして今のやすしが発狂して自暴自棄になり何もかも投げ捨てて闇落ちした過去の自分とダブり、このままではやすしですら闇落ち───いや、世界破壊者にだってなりかねない。だから舞華は全力でやすしを気絶させたのだ。後々になって暴走するかもしれないが、今そうなってしまうよりは今気絶させる方がまだマシである。
「何か凄い場面に遭遇しちまったな………」
「う、うむ……分かる、分かるぞぅ(大泣)」
するとベリアルの説得が終わった正義がベリアルを連れて戻ってきていて美里とやすしが感動の別れの場面を見ていた為、2人共しんみりしている。いや、ベリアルは何が分かったのか分からないが腕で目を擦りながら男泣きしている。
「つうかこのシーン。どこかのアニメで見た様な気がするんだが……俺の気の所為か?」
腕を組んで唸る正義に舞華が苦笑する。どうやら同じ事を思ったらしい。
※:ちなみに2人の目には某・死後の世界で神に反逆する学生達の物語。その最終話でのとあるシーンとこのシーンがそっくりだと思っている。タイトルはあえて言わない。
「う…ううん……?」
「あ、佐夜が起きる?」
「居眠り姫の起床だな」
「うおおぉっ。うおおおおぉぉぉっ」
「ってまだ泣いてやがる!?」
美里が消失した事で目覚めかかる佐夜に一同が駆け寄る。ベリアルは未だに泣いているが結構貰い泣きする性格だったのな。
「ほえ? 僕は一体……?」
そして身体を一時的にではあるが乗っ取られた佐夜の意識が目を覚ます。
「目が覚めたのね佐夜」
「舞華……。っ、そうだやすしさんはっ?」
「アイツならもう大丈夫だ。ほれ」
舞華の代わりに正義が指差し先───というかすぐ横にやすしが倒れていた。ただ先ほどまでの瀕死の状態と違い、今は傷一つ付いていないし、何より血液が大量に流れ出て失った事で顔が青白くなっていた筈なのに、今はその顔に生気が戻っている。おそらく輸血か何かが間に合ったのだろう。と、佐夜は思った。
「良かった。意識が飛んでる間にやすしさんが死んじゃったのかと思ったよ……」
と、佐夜はほっと胸を撫でおろした。
ふにょん────
「………。………?」
胸に手を置いた佐夜は何か物凄い違和感を感じた。具体的に言うと胸に置いた手の感触と手で触れた胸部。
ふにょんふにょん─────
「…………………」
その違和感の正体を確かめるべく佐夜は再び、今度は両手で自分の胸部を触ってみる。
スカッ─────
「~~~~~~~っ!?」
そして今度は股間を確かめる佐夜。そこにはある筈の物が無くなっていた。
「ね、ねぇ佐夜? その胸……何?」
「お…おっぱい? 佐夜にOP……だと?」
起き上がったと思ったら急に挙動不審になる佐夜を見た舞華と正義も佐夜に出現した2つの膨らみを見て言葉を詰まらせる。
「な────」
そして、
「なんじゃこりゃあああああああぁぁぁっ!!?」
佐夜は叫ぶ。薄暗い魔界の大地の中心(かどうかは知らんが)で。
はい。遂に佐夜が女性化してしまいました。
といってもこれは一時的な変化なので後日きちんと身体は戻す予定です(ネタバレ)
ではまた。




