第9話 ~佐夜と美里とやすしの後悔~
ここで佐夜とやすしの意外な関係が明らかになります。
後、長いです。
「こ、これで終わったの?」
ピックルがベリアルと正義のツープラトン攻撃を食らい文字通り爆散したが、まだ安心出来ないとばかりに周りをキョロキョロと警戒する舞華。まあ、気持ちは分からなくはない。過去に殺した筈の奴が再び『ミシバ・イクロ』で自分の前に現れたんだから。正義達が倒したとはいえまだ湧いて出てくるんじゃないかと勝手に不安になる舞華だが、実はこのピックルこそが唯一無二のオリジナルで、そのオリジナルを倒した時点でもうこのタイプのアバターは存在しないのだ。
「それよりもアレ、そろそろヤバいんじゃないか?」
「ん?」
舞華の近くにいた正義がそう言って指差した先には魔界の穢れた地面に仰向けになって動かなくなったやすしとそのやすしの怪我を何とかしようと頑張る佐夜の姿があった。
「佐夜、もういい……」
「何が? 何がもういいのさっ。勇治郎さん達かリオ達が救助にきてくれるまで何とか時間を稼がないと………」
「だからもうそれ以上魔力を消費しなくていいって佐夜。……それにそんな泣きそうな顔になるな……アイツの顔とダブる」
「だってぇ………って、アイツって?」
自分の所為で瀕死に追いやってしまったやすしを介護しようとし、とりあえず錬成術で止血をしたが如何せん、流れ出てしまった血の量が多かった所為か、出血多量と身体の中に入り込んでしまった大量の錆やカビなどの菌の所為で、何時ショック状態になってもおかしくないのが今のやすしの容体だ。
そしてそのやすしが「もういいと」言ったからにはもう既に手遅れなのだろう。佐夜の涙が止まらない。止まらないが、その前にやすしが言った『アイツ』が気になった。
「佐夜……お前は俺の幼馴染に瓜二つなんだよ……」
「え?」
「かふっ……、ああ、ちなみに性別はちゃんとした女の子だ」
そしてやすしは軽く吐血しながら誰も頼んでもいないのに話し出す。
「俺の幼馴染……あいつの名前は『喜屋武美里』」
「え、それって……」
「そうだ……何の偶然の悪戯かは知らないが、お前の苗字と一緒の名だ(がさごそ)」
そう言いながらやすしは満足に動かない腕でポケットを漁り、棒が付いた飴玉を取り出す(チュ○パチャップスみたいな物)。
「その飴っていつもやすしさんが食べているやつだよね?」
「ん。その中でも特にこれはあいつが好んで舐めていた『レモンプラム味』だ」
「え……舐めていた? 過去形で言うって事はその人───」
「……ああ、死んだよ………」
「oh………」
やすしの死亡肯定に佐夜は「やっちゃったー」的な顔で手で顔を覆い、一方のやすしは佐夜の言葉に特に気にせず、震える手で飴のラッピングを外して口に咥えた。
そしてやすしは同じ機関の仲間(勇治郎以外)にも話していない自分と幼馴染の美里に起きた過去の出来事を話し出す。
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当時15歳のやすしと美里は元々佐夜と同じケースで異世界(幻想界)に迷い込んだ所謂『次元迷子』というやつだ。
※:次元迷子は『召喚』とは違い、文字通り勝手に異世界に迷い込むので召喚特典である『異言語通訳』と『祝福』がない故、現地人と言葉が通じない上、特殊能力も(この時点では)無いから色んな意味で不利なのだ(byリオ)。
少し脱線したが、2人は次元迷子である故、幻想界に迷い込んだ後、現地人とのコミュニケーションが上手く取れず結構苦労した経験がある。
それでも半年経てばある程度言葉が通じる様になったり、次元の穴を通って来た時の副作用で異能力が目覚めたり、幻想界らしくモンスターと戦って強くなったりと、段々幻想界での生活に慣れていく。
ちなみにやすしの能力は以前言った『斥・引力操作』だが、美里の能力は『特殊道具生成』という錬金術の亜種的な能力だ。
というのも『特殊道具生成』という能力は錬金術とは違い、美里の魔力を用いて『無』から作られるのだ。成功率はかなり低いけど。
成功確率は低いが『特殊道具生成』で作られるのは『魔道具』だけでなく、『宝具』や『秘法具』、更には『神器』(一個だけ)なども美里は作った。
それから2年間モンスターと戦い、能力の向上に努め、現地人とのコミュニケーションを取ったりと、やすしと美里は実に充実した毎日を送り、2人が17歳になる少し前にやすしは美里にプロポーズした。
当然美里は喜んで承諾し、現地の人達からも祝福された。
モンスター狩りや美里の作った道具を売ったりしたお金で家も買い、元の世界には帰らずここで暮らしていこうと2人は誓った。
しかしその誓いも、とある事件であっけなく破られる。
美里が……殺された。
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「こ…殺…された……?」
殺害されたと聞いて、美里と瓜二つである佐夜も動揺を隠せない。佐夜の呟きにやすしは小さく頷き続きを言う。その表情は実に辛そうだ。
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美里が殺される原因となったのは美里が持つ『特殊道具生成』の能力が原因だ。
過去に何品かの魔道具や宝具を(公正取引な)高額で売り、それで家が買えたのだが、その魔道具や宝具を買った貴族や国の議員、更には商人や盗賊に目を付けられ、その結果美里が殺されるといった悲劇に見舞われる事になる。
その当日、やすしは朝から現地の知人にどうしてもと頼まれて一緒の依頼を受け、美里に見送られながら家を後にした。夫と妻の様に。
そのクエストとは少し離れた所にある鉱山にオークの群れが住み着いていて冒険者や商人たちが襲われているから討伐するといったよくある話だ。その知人もやすしの能力については知っている為、やすしがいれば簡単に解決するだろうと思い誘ったのだ。
しかし現地に着くとそこにはオークの群れどころかゴブリン1匹すらいなく、倒したのはたまたま通りかかった時に襲ってきたハーピー数匹だけだ。
その後、やすしとその知人は鉱山をくまなく捜索するがやはりオークは1匹もいなかった。
「………やす……し…………」
「っ!?」
すると突然、家にいる筈の美里の声がわずかだが聞こえ、やすしは胸騒ぎを起こす。
そしてその直感に従い、知人を置いてやすしは急いで家に戻る。
「な……っ!?」
そこにあったのは新築したばかりの家ではなく、荒らされまくって廃墟と化した我が家だった。
「美里!!」
あれだけ荒らされているという事は中にいる美里は大丈夫なのかと心配でやすしは中に入った。
そこには胸や口から血を流し倒れている美里と、その美里の右手首に付いている腕時計を引き剥がそうと美里の右手を何度も傷付けている盗賊風の男がいた。
「っ! お前ぇぇぇぇぇ─────っっ!!!」
ドゴーンッ!!!
「ぐはっ!?」
美里に張り付いていた男をふっ飛ばし、妻に駆け寄るやすし。
「美里、みさとっ! おいっ、しっかりしろ!!」
と妻の美里を起こして揺さぶるが目覚めるどころか息すらしていない。そして当然心臓も止まっており、脈も無い。当然だ、心臓を一突きされているのだから。
「……あ、あああああ……あああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!」
ようやく美里が死亡した事を理解したやすしは絶叫を上げた。
「おいやすし、どうし……た………」
そしてやすしに置いて行かれた知人が死亡している美里と絶叫しているやすしを見て言葉を失う。
そしてやすしが声にならない声を上げ、ようやく声が枯れたのか美里を床に下ろし、
「おい」
「っ!?」
その声はとてもとても冷たく、人を呼ぶ様な声ではなかった。やすしに呼ばれた知人はその声にビクッとなり後退る。
「今日の依頼。最初から少し変だと思っていたが……俺を嵌めたな」
「し、知らない。俺は何も知らないんだ! 昨日の夕方、ギルドから俺に指名依頼が来て『やすしと共に鉱山へオークの集団を倒せ』とこの手紙に書いてあったんだ!」
と言いながら知人はギルドから貰ったとされる手紙をやすしに見せる。その手紙をやすしが受け取ると背後で何かが動いた。
「て、てめぇチース(知人の名前)この男を鉱山に引き留める時間稼ぎをするんじゃなかったのか……っ」
そこには先ほどやすしがふっ飛ばした盗賊の男が這いつくばりながら知人を睨みつける。
「俺を鉱山に引き留める……か。つまり、お前もグルだったって事でいいんだな」
ギロリとヤバい目つきで知人を睨み殺気を放つ。
「だ、だから違うって。それもギルドの人に頼まれた事なんだよっ。でもこんな事になるなんて思わなかったんだっ」
「思わなかった……? 思わなかったで済むと思うのか? それで俺の妻が……美里が殺されているのにかぁっ!?」
バキィッ!
「「ひぃっ!?」」
やすしの放つ圧力(斥力の応用)で家が軋み、盗賊の男と知人が怯む。
「……もういい。話し合いの余地はもうねぇ」
「え……?」
そしてやすしの中の何かがプツンと切れ、
「ぐふっ!?」
今まで懇意にしてきた知人を圧力(斥力)で地面に叩き潰し、
「死ね」
「ま、まt……っ」
グシャ。
「うひぃっ!?」
そのまま圧力を加え、トマトの様に圧殺した事で盗賊の男が悲鳴を上げる。
「次はてめぇだ」
「っ!? ま、待ってくれ。この女を殺したのは俺じゃない、他の連中だ。俺は出遅れてしまって他の魔法具を手に入れられなかったから───」
「美里の手を切ろうとした───と?」
「ああ……」
美里を殺ったのは自分じゃない、他の連中だという男。しかしこの男が美里の手を切ってまで秘法具級の腕時計を奪おうとしたのは事実。
「そうか……」
「(ホッ)………」
するとやすしが目を閉じ、盗賊の男は助かったーと思った。
しかし、
「でも死ね」
「ぐえぇっ!? な、なじぇ……っ!?」
そんな事は最早やすしにはどうでもよく、美里の形見である『刻詠の腕輪』を奪おうとした時点で死亡確定なのだ。
グシャ。
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「え? じゃあ僕が着けているこれ……」
「ああ、美里の形見だ」
「そんな偶然ってあるのね……」
まさか自分が拾って身に着けた物が自分と瓜二つだという人の形見だという事実に佐夜と何故かついでに聞いていた舞華が驚愕する。
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自分を嵌めた知人と盗賊の男をあっさり殺したやすしはその後、この家を襲ったとされる連中を特定すべく、玄関やリビング、寝室や美里のアトリエに設置されているカメラ機能の付いた小さなビー玉を取り出し、プロジェクターの様に壁に家が襲われた時の映像を映し出す。
この家を襲ったのは騎士と盗賊、そして商人と商人が雇った冒険者、更にはやすしの知り合いの顔までカメラに映っていた。そいつらは美里の張っている結界をいとも簡単に壊し、家に押し入り、美里を刺して殺し、売っていない『特殊道具』を全部奪い、去って行った。
唯一美里が身に着けていた腕時計だけはどうやっても剥がせなかったらしくこれだけが残った。
そして連中の誤算はやすし達が物質界出身で建物の至る所にに隠された『カメラ』の存在に気が付かなかった事だ。これによりやすしには目的が出来る。
この家を襲った連中を、美里を殺した奴等を、美里の作った特殊道具を奪った者達を、そして自分を騙した人達全員を絶対皆殺しにすると。
やがてこの家を出る事を決意したやすしは再び美里の亡骸を家ごと火葬しようと美里の亡骸に触れた時、美里の右腕に着いていた『刻詠の腕輪』が外れ、それを回収するとともにやすしは深い悲しみに包まれる。これが別れだと言わんばかりに。
そして美里の亡骸と共に建てたばかりの家を燃やしやすしは復讐の旅に出る。
それからやすしは2年間、血眼になりながら連中を探し出しては殺し、奪われた特殊道具を所持している者も殺し(事件と関係無い者も含む)、更には唯一生成に成功している神器『アポカリプス』を奪ったのが隣国の王族だという事が判明し、単身で乗り込んで国をも壊滅させた。
その後、全ての特殊道具の回収と、家を襲った連中またはその関係者達への復讐を終えたやすしは生きる目的が無くなり、死に場所を探している所を偶々(たまたま)勇治郎に出会い、その時に色々あった結果やすしは機関に入る事になったのだ。
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「勇治郎さんと色々あったって……何があったの?」
「……別に…軽くバトっただけだ」
過去話の途中で言葉を濁した所を佐夜が拾うとやすしは顔を背けて言った。
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実はやすしが勇治郎と出会って勇治郎が自分の素性を話した際、大げんかに至ったのだ。
何故かというと話は簡単。
「何で……何でもっと早く俺達を見つけなかった!? そうすれば……そうなっていたらあいつは死なずに済んだかもしれないのにっ!」
ってな感じでやすしは勇治郎に八つ当たりし、2人のバトルは5時間にも及び、勝ったのは勇治郎。
その後、勇治郎は「その子の事は知らなかったとはいえ、助けられなくてすまない」と自分には何の非は無いものの、勇治郎が謝った事でやすしは何だか自分が馬鹿馬鹿しくなって笑い、凄く気が楽になったそうな。
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「そんな事があったんだ……」
「……確かに大切な人が死んだ後に助けに来られても後の祭りだものね」
「勇治郎を責めても何の解決もしないってのは頭では分かっていたんだが感情が、な」
「んー、その気持ちは分からなくもない……かな?」
やすしの言葉に佐夜が少し共感した。
レニアナでの地下遺跡でリオが駆け付けてくるのが遅かったら?
王城前に転移した後でのヴァンによる救助が間に合わなかったら?
そう思うとやすしの悲しみがよりダイレクトに伝わってくる。
「あれ? そうなるとこの腕輪ってやすしさんのとても大事な物なんだよね? 何であんな所に落としちゃったの?」
佐夜の腕に付いている腕輪が元々機関が所有していた物だって言うのは前に聞いたがそもそも何で紛失したのかは聞いていなかった。
「ああ、あれはグラスのアホがへましてな」
「「?」」
そう言って溜息を付くやすしに首を傾げる2人。
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『刻詠の腕輪』は確かにやすしにとって美里の形見であるからにしてとても大事な物なのだ。
※:ちなみに他の特殊道具は全て機関のとある場所に封印してあるそうだ。
形見なので使う訳にはいかなかったのだが、とある任務の際に街中の建物が崩壊し、修復しなくてはならないのだが、撤収までの時間もあまり無い上、錬成術師がグラスなので普通に行っていたら絶対間に合わない。
なので最初は使わせるのを渋っていたやすしだったのだが、早くしないと置いて行かれるという事で仕方なくグラスに使用を認めて渡したのだ。
そこまでは良かったのだが、何とグラス、やすしの大事な美里の形見である腕時計を撤収の際、紛失してしまったのだ。
流石のやすしさんもこれには超激おこ。グラスを半ゴロにし、勇治郎やルイ、その他の機関メンバーにも捜索してもらったのだが、結局見つからなかったのだ。
※:ちなみにその腕輪はその後佐夜が拾っています。
その為、ホテルで佐夜がそれを身に着けていた時、我も忘れてやすしは佐夜に迫っていたのだ。
そして佐夜に迫っていたやすしの方も佐夜に怒った直後に衝撃が走る。
腕輪を身に着けた佐夜が────美里に瓜二つな事に。
迫られた事ですっかりやすしに委縮する佐夜に対し、「やっちまったー」と言わんばかりに自分の行動を後悔するが、今更謝ってもどうにもならない上、アレは美里じゃないと自分に言い聞かすしかないのだ。なのでやすしは今まで佐夜にぶっきらぼうに接していたのだ。そうしないとどうしても美里と被るからだ。
そうやってやすしは自分に『佐夜』≠『美里』と言い聞かせ、距離を取ろうとしたのだが、佐夜が超危険地帯である魔界に行ったという事を勇治郎が言いだした事でやすしは焦ったのだ。
美里の時とは全然状況が違うのだが、あんな超危険地帯の所に行かせたら最後死んでしまうんじゃないかと思い、やすしは自分から魔界に行く事を決断したのだ。
もし万が一佐夜の身に危険が迫っていたら自分の身を挺してでも守ると───今度こそ絶対に護ってみせると誓って。
そしてやすしの危惧は的中し、佐夜が窮地に陥り、やすしは自分で誓った事を有言実行し、佐夜を護り、今に至るのだ。
あの時美里を助ける事が出来なかった事への懺悔の証として……。
そして次回は『刻詠の腕輪』についての話です。
では。




