外伝・1 ~失われた記憶と『7人目』を求めて~
佐夜の居なくなった後のお話です。
これは佐夜が幻想界【レニアナ】から去った1週間後の話。
トンカントンカン──────
「……もう少しで街も元通りになるな」
「……そうですわね、あの時、一時はどうなるかと思いましたわ」
街の建物を復興中に視察に来たエミリア王女とイング。
侵略者達(ゼリア軍)が攻めたセルニア王国はセウレン帝国より被害が少ない(ヴァン達が直した為)とはいえ建物の一部や道路の整地、地下遺跡などの件も含めてやる事は多く、両国ともそれに奔走している。
ちなみにイングはリハビリついでにエミリア王女に同行している。
「後はニケが戻って来れば元通りなんだけどな……」
「ニケさんが戻ってきてないと言う事は、まだ協会(世界管理協会の事)の方々はまだ発見に至らないという事ですわね」
「それほど遠くに飛ばされた可能性があるって話だったな」
2人は商店街の方を見て歩きながら次元転移してしまったニケの心配をする。
地下遺跡の最深部にあった転送装置の故障で空間が不安定になり、ニケを含む16人が穴に落ち、この世界から飛び出してしまったのだ。
その後、14人まで戻って来たのを確認したが、ニケともう一人についてはいまだその姿を確認できていない。つまりまだ見つかっていないのだ。
「あの(転送)装置も研究者たちが必死になって復元してるって聞いたけど直りそうか?」
「ええ、時間は掛かると聞きましたが直せない事は無いと言ってましたわ」
「そっか………」
歩きながら話す2人は商店街を抜け、王城前の『桜の樹(サラ直しバージョン)』までやって来た。
「何か、さ。この樹を見てると胸が苦しくなるんだよな………」
「イング、貴方もですか。私も何かこう引っかかるような感じか………」
「何なんだろうなこの気持ち……」
切ない気持ちになったイングは首から掛けている『指輪付きのネックレス』をそっと握る。
「イング、貴方そのネックレスにも身に覚えがないと言って、捨てたのではなくて?」
そのネックレスを見てエミリアが怪訝な顔をする。
イングが撃たれて大怪我をした翌日、自宅のベットで目が覚めたイングの手に身に覚えのないネックレスが握られていた。母親のアイナに聞くとそのネックレスについている指輪は翻訳魔法が施されている物で、それかつその指輪はアイナの持ち物らしいが持ち主であるアイナもイングにあげた記憶もなく、イングも何で自分がこんなものを持っていたのかすら分からない。
その上、言葉の分からない人の為にしか使い道がない指輪なので、この世界に住むイングが持っていても意味は無い。
アイナもいらないというので一度ゴミ箱に捨てたイングだったがその後、無性に気になってゴミ収集所から自力で取り戻し、それ以降宝物と言わんばかりに常に首から掛けている。
「今ではこう……身に付けていないと心が落ち着かないんだ」
「それ危ない物ではなくって……?」
「いや、俺も最初そう思って本校の鑑定しに鑑定してもらったら、呪い的な物ではなく、むしろ神聖な物だと言われた」
呪い的な物かと疑うエミリアだが、イングはそれをすぐに否定する。
「そんな代物を何故イングが持っていたのか不思議ですわね」
「ああ………もしかしたら俺達、何か大事なことを忘れているんじゃないか?」
「大事なこと……ですか………」
「だけど思い出そうにも記憶に靄みたいなものが掛かって駄目だった」
ネックレスを握りながら眉を顰めるイング。
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「よう、お2人さん。仲いいねぇ~」
「お前、何キャラだよ!?」
桜の樹を通り過ぎて次に向かったのはギルド街の方。親がギルドの長を務めているというタックが受付から2人を見かけて声を掛ける。誰かの声掛けの真似をしたタックにイングがツッコむ。ちなみにエミリアは「仲いいね~」というセリフで顔が真っ赤になって黙ったままだ。
ギルドの方も侵略者達からの被害があったが、ここに住むのは殆ど一般人では無い為、一般商店街及び住宅街よりは被害が少ない。むしろ地下遺跡に向かった人達の3割ほどが喰われて亡くなったため、依頼を出す方も受ける方も結構大変な事になってるらしい。タックが今、受付をやっているのも本来の受付嬢が地下遺跡で怪我をして療養中で出られないからだそうだ。
「そういえば、イング。地下遺跡で故障していた装置がもうすぐ直りそうってマナが言ってたけど聞いたか?」
「え、マジか!?」
「マj……ごほん、その情報、本当ですのタック?」
イングに触発されてうっかり「マジ」と言いそうになったエミリアは言い直してタックに詰め寄る。
「ああ、あの時は瓦礫が落ちて派手にぶっ壊れてた様に見えてたけど、その瓦礫を退かしたらそんなに損傷した部分は少なく、故障している部分を直せば一応修復は完了らしいぞ?」
マナから聞いた情報をそのままイング達に伝えるタック。
ちなみにそのマナは今も地下に潜って装置を修復する研究者達のお手伝いをしているらしい。その理由はその場に居た当事者&本人がアイナの弟子だからだ。
それとノンとロロの双子はサボってた授業の遅れた分を取り戻すべく本校に短期登校補習)している。
……あれ?そういう勉強の家庭教師的なやつ、誰かがやってなかったっけ?
「両国の復興が終わって学園の授業も再開すればその後すぐに後期の試験&模擬戦があるしなー」
「うっ……確かに……」
最近色々ゴタゴタしてたから全然勉強進んでない2人(タックとイング)。
おまけに前回は7人で挑む事が出来た模擬戦だが今回は5人しかいない。
………あれ?
「なぁタック。俺達……前回の模擬戦と選抜戦の時、7人だったよな……?」
「は? 何当たり前の事言ってんだお前?」
「そうですわよイング。アルケシスはイング、タックに、マナさん、ノンさんとロロさん、そして今はいないニケさんの………あら?」
「………あれ?」
イングに言われて初めて気付く2人は何度も指折りながら数える。しかしどう数えても6人しか名前が出てこないのだ。記憶には確かに7人で戦った筈なのに。
「6人しか名前挙がらないだろ?」
「ええ……おかしいですわね」
「どうなってんだ? 俺達、確かに7人いたはずじゃ………」
3人で記憶を探ってみるがやはり有効な情報は出てこなかった。
その後、記憶と記録が矛盾している事で不安な気持ちになった2人はタックも連れて、色んな所を聞いて回った。
本校の学食に見覚えのない筈の新メニューだがどこかで食べた事のあるような既視感に捕らわれたり、
選抜戦・決勝(対エミリア戦)を見ていた人に聞いてもその決着の仕方について、何故か皆、その理由を覚えてないらしく、自分達の記憶にもさっぱり残ってない。学園の議事録を調べたが矛盾していた事が書いてあったり、
王国の式典パーティに出席していた他国の人達に、街で偶然会ったときなんか「何故か顔を思い出せないけど、今日あの娘はいないのかい?」なんて聞かれたりもした。
「イング、『あの娘』とは誰の事ですの?(怒)」
「し、知らねえよ! 知らないから困ってるんだろ俺達!?」
「でも今の人、『あの娘』って言ってたな?」
「あ、ああ……そこら辺をつつけば更に何か分かるかもしれないな」
エミリアに嫉妬されつつも有力な手掛かりを得たイング達はその後も色んな人に聞き込みを行い、記憶にない『アルケシスの7人目』についての情報を集めていった。
その結果、『7人目』と関りが深ければ深い人ほど覚えている情報が極端に少なく(イング達もこっち側に入る)、逆に関りが浅い人(隣国の客人など)の方が『7人目』についての情報を持っていた。
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そしてその2ヵ月後、地下遺跡の装置も直り、『7人目』の情報を集めたイング達【アルケシス】の5人(ニケはまだ帰ってきてない)とエミリアは、再び地下遺跡の最深部の装置前にやって来た。
「ついにこの時が来たか……」
「………本当に行くのイング?」
「ああ、散々色々と悩んだりもしたが、俺は行くと決めた」
「私もイングに同行しますわ」
「「姫さままで!?」」
エミリアもイングに同行するという発言にノンとロロがざわつく。
エミリアの場合、王家を継ぐのは弟なのでエミリアは王様の許可を(無理矢理)取ってイングに着いていく事にしたらしい。
今、この場には他に装置を操作している研究者達しかいなく、イングがここに来たのは失った記憶と『7人目』と『ニケ』を連れ戻しに行く為に次元転移を試みようとしているのだ。それに同行するのは今の所エミリアだけ。残りの4人(タック、マナ、ノン、ロロ)は見送り&行くのを躊躇っている状態だ。
これまでに集めた『7人目』の情報はこの通りだ
・名前が『アヤ(?)』で一人称が『ボク』(らしい)
・イング達と同い年でかなりの美少女。かつ料理が上手い(らしい)
・亜麻色ポニーテールの髪型に謎の腕時計をしている(らしい)
・錬成術を使用する(らしい)
・イングの家に居候(同居)していた(らしい)
・王城前にある『桜の樹』の制作者(らしい)
これがこの2ヵ月で集めた情報だ。ちなみに全部に(らしい)が付いているのは明確な情報ではないからだ。あくまでも集めた情報で多い順に並べているだけだ。
「姫様。装置の準備、完了しました!」
「ご苦労さまですわ」
研究者の1人が(転移)装置の準備が完了したとエミリアに報告し、転移する時間が差し迫って来た。
「で、結局お前等はどうする? 一緒に行くか。ここに残るか」
イングが迷っている4人を見つめて答えを聞く。
「俺は………行く!」
まずイング同様、散々迷ったタックも一緒に行くことを表明した。
「ノンは行かない。というか行けないよ~~」
「ロロも~~」
続いて双子のノンとロロは行かない事にしたらしい。それもその筈。この二人は良家のご令嬢なので、本当は行きたいが行けないという事で2人は行くのを断念した。
「私は………………………………………行く」
「すっごい間があったな……」
「てっきり行かないもんだとばかり思ってましたわ」
すごい間があったがマナも行くことにしたらしい。
「さあ。無くしたものを取り戻しに行きますか!」
「ええ!」
「おうよ!」
「(コク)!」
そう言って4人は装置から発生したゲートを潜って行った。
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「みんな行っちゃったね~~」
「うん……寂しいね~~」
4人が潜ったゲートを見つめるノンとロロ。そのままゲートが閉じるまでその場にいた。
しかし、後日この世界にとある異変が起きて、結局この2人も異世界へ旅経つ事になろうとはこの時この2人は想定していなかった。
次は第一章の『Q&A』のコーナー。曖昧だった設定や、「アレはどういう事なんだ?」という謎にお答えする話です。




