第7話 ~脱出(エスケープ)~
暑くなったり寒くなったりと忙しい季節だぁ……
≪──そんな訳でアニカってば艦内で暴れまくるから全く手が付けられなかったんだよー≫
「と、言いつつ、何でみんな嬉しそうな声なのかな?」
リオが報告書という名のレポートを作成してる間、佐夜はアルゴノート・ブリッジから掛かってきた通信で出たいずみ達とテレビ電話宜しくモニターで会話していた。
何でも佐夜が不在となった事でしばらくは落ち込む……というか静かにしていたのだが、流石に相手がアンデッドなだけに負の感情を溜め込ますのは良くないとゼロの判断で艦内に残っていたOP業務を習っている3組のメンツ&先輩達でアニカと遊ぶ事になったらしい。
正直、非戦闘員とはいえ一般人よりは体力があるだろうと皆油断していたのだが、実際は逆にこちらが油断していたらしく、相手は言うまでも無くアンデッド。その無尽蔵な身体に秘められたぷぁわーは凄まじく、瞬く間にOP全員(先輩達も含む)の体力を奪っていった。
ちなみにOP達だけでは体力が持たないのでアンヴェでの救助した次元迷子者(動ける者のみ)もアニカの遊び相手になったがすぐに全員がへばった。
で、当の本人は現在ようやく疲れたのか静かに就寝中なのだがOP業務の方々はこれから色々と作業があるのでまだ休めない。しかしここ最近はずっと身体を動かしていなかったので良いストレス発散になったが故に結果的に良かったのかもしれない。なので佐夜との通信中も疲れ顔ではあるが皆、スッキリした顔になっているのだ。例えるなら重労働後の風呂上り的な?
「佐夜さん、誰とお話しされて……あぁ、艦内との通信ですか」
「あ、ティーナちゃん。駄目だった?」
「いえいえ別に構いませんよ。ところで艦内の方でちょっと調べてもらいたい事があるのですが良いですか?」
≪え? あ、はい。何ですか先生?≫
するとリオと共に入った部屋からティーナが出て来て少しビックリするいずみだったがすぐに用件を聞く。
「全員の点呼をしたのですが、月さんだけ連絡が取れなくなっているのでどこにいるのかマップ上から調べて貰えますか?」
≪分かりました。一応まだこの世界の解析が済んでいないのでちょっと5分か10分くらい時間が掛かりますがいいですか?≫
「大丈夫ですが早めにお願いしますね」
≪了解。すぐに手分けして調べます≫
「ではでは」
「あ」
と、佐夜への通信だったのにティーナが勝手に切ったので佐夜が声を上げた。
「……えと、ごめんなさい、勝手に切っちゃいました」
「いや、会話は終わっていたから大丈夫だよ。それより月さんがいないってどゆこと?」
「どういう事も何もそのままの意味ですよ」
ティーナが言うには皆が持っているスマホには毎日、問題ない事を示すメールやライン、もしくはGPSなどを使って位置情報をキャッチし、全員分の点呼を取っているのだが月だけ先ほどから連絡が取れない上、月自身もスマホを使用した形跡が無いし何故か月のスマホの電波がキャッチ出来ず、位置情報が分からない。
故にティーナは現地ではなく外界の亜空間にあるアルゴノートに調べて貰ったのだ。
「ん~。やっぱこういう時って絶対何か……あるよね」
「……はい。もしかしたら誰かと戦っているのかもしれないですね」
「誰かって?」
「勇者とか……でしょうか?」
そう言って2人は首を捻る。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
カッ────
ドォ──────────ンッ!!!!
「「「うわあああああああああああああっ!?」」」
残念!
勇者じゃなく『スキルテイカー』の世界破壊者だよ!
と、誰にツッコんでいるのか不明だが、月達は突然現れた勇者の一角にして『スキルテイカー』の少年に手も足も出ずに苦戦を強いられていた。いや寧ろ頭の中ではすでに撤退を余儀無くされているのだが相手がそう簡単に撤退させてくれないのだ。
(正直クラスの連中に助けを求めたいがこの有様じゃ一瞬の隙を見せたら最後、即死させられるっ)
敵の攻撃を何とかいなしながらどうすればいいのか月は考える。
まず1番効率的なのがスマホを使いクラスメイトに助けを呼ぶ事。だがこれは先ほど言った様にスマホを弄る暇がない。更に言うなら今現在、この場には相手のスキル『威圧』『恐怖』によって月のスマホの位置情報が撹乱し、ティーナ達の元には月の居場所が分からない。
正直アルゴノートの解析が終わり、月達の位置情報が伝わって助けに来るまで粘れる気がしない。
次にワザと死んでアルゴノートに帰還する方法だ。
協会メンバーは皆、人神【如月マロン】の加護によって『1回だけ死に戻り(イニシエに戻って再加護をすれば何度でも可)』が出来る。なのでここはワザと死んで外界へ脱出するのもひとつの手だろう。
しかしそうするとこの場に残された2人は確実に殺されてしまい、今まで培ってきた物を全て奪われてしまうだろう。そうなると自分だけおめおめと逃げる訳にもいかない。ヤンキーとしての筋とかは別に無いのだが、協会入りしたからにはそう簡単に次元迷子者(ちょっと違う)を殺させる訳にはいかない。
それにもう一つ懸念している事がある。それは、
「『四属性混砲』!」
シュゴォォォォォォォ──────!!
「っ、またこれか!?」
何とか死の淵から回復し動けるようになったベレッカが得意のトランプマジックを用いてその攻撃を受け流す。
『またか』と言ったベレッカの言葉通りこの攻撃は元々先ほどベレッカに止めを刺そうとした4人の勇者のオリジナル合体魔法なのだが、攻撃しているのはあの4人ではなく何故かあの少年【芝崎 新】だ。
つまり、
「お前……やっぱりあの4人を喰ったのか!?」
そう、重貴は呟いた。
その通り。あの勇者4人は月がうっかりで放った砲弾で吹っ飛んだ後、この新少年と鉢合わせ、戦い、敗れ、そしてスキルや魔法、ステータスを根こそぎ奪われ、死に至ったのだ。
「喰ったって言い方は良くないなぁー。あの4人は僕の糧になったんだよ。まぁ、あまり大した経験値は稼げなかったけど」
「お前っ」
そう呑気に言う新に重貴はつい接近してボコボコにしてやりたい気分になったが、迂闊に踏み込めば自分もあの4人の様に餌になってしまうので踏みとどまった。
「にしても勇者の多少君はともかくそっちのヤンキーさんは何で何も奪えないのでしょうかね?」
「ふん、そんなの教える必要は無いだろ」
「そうですね。殺して奪えば良いのですから。『ガンマ・レイ』」
「「「っ!?」」」
そう言い返す月に何の反応も示さず次から次へと魔法をぶっ放す新に3人はひたすら避け続けるしかない。
「はぁ、しつこいですね。さっさと死んでそこの死に損ないの様にステータスを喰われなさ──ん、あれ? そういや何でステータスを根こそぎ奪ったのに貴女、死んでないのですか?」
「知らんわ。実際本当に死にかけたんだからなっ。そこの男女が回復薬くれなかったら今頃あの世行きだ!」
「は? 奪ったステータスがただの回復薬如きで回復する訳が無いでしょう。何を言って……ああ、そういう事ですか」
一度否定しようとした新だったがそこで何かに気付いた模様す。
「そこのヤンキーの人。貴女は勇者でもなく、かといってこの世界にランダムで転移されて来た無能者達でもなく、そこの出来損ないスキルを持った軍女の様に「出来損ないって言うなー!」自分の意思でここにやって来た者でもない」
と、勝手に推理を始め(途中ベレッカのツッコミ有り)、
「そう……貴女は神の兵隊、つまり『天使』ですね!?」
そう名探偵宜しく月に指を指して言った。
だが残念。不正解。
「え、全然違うが?」
「……………え?」
「………」
「………」
「何を言うのかと思えば全然的外れな事言いやがって。アタシと羽付きを一緒にするな」
「「ええぇぇ………」」
神の手下という意味では確かに合ってはいるが、何処をどう見たら月が天使に見えるのだろうか。全然的外れな指摘に思わずベレッカと重貴も変な顔になった。そりゃそうなるわ。
「……………(赤面)」
何か自信満々に言った割に思いっきり盛大に自爆した新は顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせる。所謂フリーズ状態だ。
「どうしたんだこいつ?」
「盛大に自爆したな」
といいつつもベレッカと重貴は少し笑いながらも新には近付かず逆に少しづつ距離を取る。ここで思いっきり笑ってしまえば相手の怒りを買ってしまうからだ。
「そうだ。今の内にティーナに連絡を────」
そして月も今の内に撤退しながらスマホを取り出しティーナと連絡を取ろうとするが、
ピシュン────
「うぐっ!?」
背後からの水針が月の右手に刺さり、スマホが消える(スマホは基本手元から離れると空間収納に行きます)。
「ちっ、もう復活したのか……」
刺さった水針が抜けないので自らを炎で纏って蒸発し、傷もそのまま炎の応急処置で塞ぐ。
「こ、ここここk……殺すっ(凄い真っ赤)」
「「うわぁー」」←色々諦めた2人。
盛大に自爆したのに逆ギレした新は風と水を組み合わせ、巨大な渦を作りながら凄い殺意をぶつけてくる。……つかその怒りは的外れだろ!?
先ほどまで消えていた威圧や殺気が更に増え、最早新の周りだけ空間が歪んでいる様にも見える為、ベレッカと重貴は「あ、死んだわコレ」と死を覚悟した。
「へ、だからといってこのアタシがそう簡単に殺られるとは思うなよ」
だが諦めの悪い女、月はまだ諦めてはいなく寧ろ勝ったと思っていた。
何故なら連絡は出来なかったものの、先ほど新が自爆した事で少しの間だけ威圧や殺気が消え、尚且つスマホを一瞬でも出現させた事でティーナ達にもこちらの情報が伝わったからだ。だったら後は持久戦。応援が来るまで少しの間粘ればいい。
と、考えるに甘い事を考えていた月にフラグが立ってしまい速攻でフラグ回収が起きる。
「……いや、既にもう貴女は殺してますよ?」
「へ?」
そう、つまり、だ。
ドックン────
「っ、かは……っ!?」
「「っ!?」」
新の「お前は既に何とやら」というセリフの直後、月は急に心臓を銃で撃たれたかの様な激痛に見舞われ膝を着く。そのいきなりの出来事にベレッカと重貴の衝撃は計り知れない。
「な、何……コレ?」
突然の衝撃に一番驚いている月だったが自分の身体に起きた変化について考えるが激痛で思考が定まらない。
「先ほど貴女に刺さった水針ですが、刺さった際に微量ですが血管に水分を送り込みました」
「……ち、そういう……事か………かはっ」
その言葉に月は思考が定まらずとも何とか理解できた。
つまり簡単に言うと、新が放った水針が月に刺さった際、その微量の水分が血管を通り、そのまま心臓に到達。そしてその水分は新が操作している物なのでそこで再びその水分は針となり、内側から心臓を突き破ったのだ。その証拠に胸元には小さな穴が開いている。恐らくその水針はそのまま身体の外に出たのだろう。
そしてこれは致命傷。段々身体に力が入らなくなって膝を着いた月はとある教習内容を思い出す。
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「───この様に『死に戻り』が発生(使用)する条件は『即死』、『致命傷』、または『身動きが取れない状態』となります」
「先生、身動きが取れない状態ってどういう事?」
「『敵に捕らわれた』とか何かの手違いで転移・転送が失敗して『岩の中にいる』状態でしょうか?」
「『岩の中にいる』って何!?」
幻想界出身の少年がツッコむ。まぁ、これは物質界のネタだし。
『即死』はその名の通り自動で行い、死んだ瞬間に転送先である艦に転送・復活する。
『致命傷』は半自動で行うことが出来、自動で死んだ場合と、自分の意思で『脱出』することが出来る。
『身動きが取れない状態』についてはさっき言った。
その際、『即死』とは違い『致命傷』を負った場合における有利な点がある。
それは──────
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「~~~っ、お前等、アタシの身体に掴まれ!!」
「え?」
「は?」
突然意味の分からない事を言い出す月に2人は呆気に取られる。
「いいから……早く! アタシが死ぬ前にここから出るぞ!」
「あ、わ、分かった!」
「ここから逃げられるのならな!」
理由は分からないが月の説得に応じた2人。
そう、『致命傷』を負って任意で脱出する場合、致命傷を負った者に触れた他の人も一緒に脱出する事が出来るのだ(勿論これは敵の侵入を防ぐ為、脱出する者が同行を許可した者だけに限る)。
という事で、
「ここから逃げる? 逃がしませんよ!」
と、小規模ながら凄い暴風を纏っていた新から凄い数の『水針弾』が発射され、3人に迫る。
が、残念。
「じゃあな、『脱出』!!」
シュン────────
スガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガg────────
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・
「………本当に逃げやがりましたか。やりますねぇ」
『水針弾』が止み、晴れた視線の先に3人の姿は無く、挽肉になった形跡も飛んで逃げてった訳でもない。つまり本当に逃げられたのだと新はある意味感心した。
「あの強力な炎のスキルを持ったヤンキーの女から奪う事が出来なかった事が痛いですかね。……でもここまで来たらこの近くにある町の住人から少しずつステータスでも取りましょうかね」
と、力の無い者からはちょっとしかステータスを取らない新はそこから一番近い町に向かって歩き出す。
「────っ!? や、やっぱりあそこの町は止めておきましょう。何だか嫌な気配を感じる……」
だがその先にあった町から自分を遥かに凌駕する闇を覆った者の気配を感じ、咄嗟に行先を変更し、東の国から南の国へと飛んで行った。
新は当然その正体が分からないのだが、その正体はティーナの義父【ゼクター】のものであった。流石に自分の闇より上位な存在のゼクターには勝てないと踏んでの撤退なのだろう。ある意味こちらも命拾いした形となった。
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~SS~
リオ「終わっちゃああああ!!」
ようやく報告書の作成を終えたリオが文房具を投げ出し万歳した。
佐夜「お、終わったみたいだね」
ティーナ「はい、お疲れ様。ご飯にしますか? お菓子にしますか?」
リオ「奥さんか! ……お菓子で」
ティーナ「はいはい」
佐夜「手慣れてるなぁ……」
菓子とお茶の準備を進めるティーナに佐夜は「仲良しだぁ」と慈愛の表情で見つめる。
ティーナ「え、ちょっと佐夜さん。そんな聖母みたいな顔でこちらを見るの止めて下さい」
佐夜「いや聖母て」
リオ「お母さんにランクアップー(お菓子頬張りながら)」
佐夜「お母さん言わないでよ。ああほらリオ、頬っぺたにカスが付いてる」
リオ「ん~~。えへへ」
ティーナ「………」
とお母さん否定しながらリオの頬に付いてるお菓子のカスを取る。
佐夜「え、何?」
その様子をジト目で見ていたティーナの視線に嫌な予感がした。
ティーナ「……やっぱりお母さんじゃないですか。アニカさんの件もありますし」
佐夜「だからお母さんって言うなー!」
佐夜、慈愛の聖母にランクアップ?
早くGWにならないかなー。本業が忙しいので連休中はずっと寝ていたいですね。
では。




