Hside 双頭の獣
(4)
來禅が手首のオブジェを投げた方向が丁度「百蛇」へ繋がる道となっている。
「奴ら」が成功だと称するルートだが、彼らにとっては食料への道である。
その方向へ歩いていくと暫くはまだ腸の世界だがそのうちにぽっかりとした大きな穴の開いた壁にぶつかる。「百蛇」への入り口である。それに入りおよそ1キロも行くと途端に入り組んだ道になり無数の穴が一面に広がる。魔物たちはその穴に潜む。そしてまさに魔のエネルギーが充満しているこの穴の中では徐々に方向感覚が失われていくので少し入るだけでも元の位置まで戻ってこられるかは全く定かではない。「奴ら」が此処に恐怖する最大の理由である。
「おーい、いぬっころー。でてこーい」
抑揚のない低い声が「百蛇」の中に響き渡る。オズである。
「悪いようにはせんぞー」
武器を片手にそう叫ぶオズにしかし近づいてくる魔物はいない。ニンゲンが独り。本来ならば格好のチャンスであるはずなのに魔物たちは息を潜めてオズの動向を観察しているに留まっていた。
なぜ出てこないのか。
答えは明白である。
魔物たちは彼らにボコられて連れ去られたきり二度と戻ってこない仲間を嫌というほどにみてきた。はじめは魔に巣食う物らしく果敢に襲い掛かっていた彼らもいつからか互いに譲り合いをはじめ、今となっては総じて彼らを警戒するに至っている。…一言でいえば皆して彼らを恐れているのだ。
ちなみに魔物の「魔」とは人の善行を妨げる力のことでありまたそれを行使するもののことである。まるで邪悪の代名詞のような言葉だ。
そんな名を持つ魔物らをして引かせる彼らの裏側にあるものを端的に形容することはおそらくできない。それはあるいは魔よりも混沌とした何かかもしれないのだ。
さて、オズが狙っているのはここらのエリアに生息している双頭の獣「オルトロス」である。禍々しい眼光に鋭利な牙と強固な顎を持つオルトロスらの尻尾は蛇になっておりそんな「百蛇」という魔窟にこれ以上ないほどにお誂え向きである自分たちがきちんと最終部を縄張りにできていることを密かに誇りに思っていたりもするのだがそんな威厳はオズたちにとっては何のその。彼らからオルトロスらへの呼称は聞いての通り「いぬっころ」である。
「いぬっころー。いぬっころどもー。でてこいとなんどいわせるー」
屈辱的な呼ばれ方をする度にオルトロスのうちの何頭かの足がぴくりと動くがほかのオルトロスらに止められて何とか歯を食いしばって耐えるに留まる。
「どうせ貴様らなんぞ煮ても焼いても生でもジュースでもまずいんだから無駄な抵抗はするなー」
意味のわからない理屈であるがムカつきはするのでオルトロスらの挑発を買うには十分である。
オルトロスAが唸る。
「なぁオイ、先パイたち! 魔物としての誇りはねーんスか! あんなに好き勝手言われて、オレはもう辛抱堪らんッスよ!」
オルトロスBは頭を振る。
「どこにだってなんにだって壁というものは存在する。crucialなのはそれを認めることだ。いいな、若造。あいつは超えようとするな」
オルトロスCは泣いている。
「何もこんなときに仲間でまで揉めなくたっていいじゃない!!」
オルトロスDはもはや興味がなさ気だ。
「…………」
オルトロスEはただただ恐れている。
「ヒィィィ」
F~Y''くらいまでのオルトロスらもまぁ大体が恐れているだけみたいなものである。
「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィ」
そしてオルトロスの尻尾A~Y''の蛇たちは一様に黙りこくっている。たまに瞬きをするくらいの頻度で舌を震わせる。
「…………シャーッ」
魔だけに少々カオスな状態だ。
彼らも中々難儀な世界に生きているのである。




