前日譚、花園の怪物
外伝
レアニス・ジェネシス
第二話
花園の怪物
王都南部には誰も近寄らない廃墟があった。かつて貴族が所有していた巨大温室。今では誰も管理していない。壊れたガラス。朽ちた鉄骨。崩れた壁。普通なら荒れ果てた廃墟になっているはずだった。しかし。そこだけは違った。花が咲いている。どこまでも見渡す限り。花、樹木、蔦、あらゆる植物。
まさに森だった。
しかも。
王都の真ん中に突然生まれた異常な森だった。
「気持ち悪い」
セレンが言う。
「そうか?」
「そう」
「綺麗じゃねぇか」
「綺麗で気持ち悪い」
相変わらずだった。カレンとセレンは既に王都裏社会で有名になり始めている。
人攫いを潰し奴隷商を潰し犯罪組織を潰し気付けば二人組として動くようになっていた。
本人達にその自覚はないが今回も依頼ではなかった。
単なる噂・・・廃温室に化け物がいる。人を襲う。植物が動く。そんな話・・・だから見に来た。
それだけだった。
しかし森へ入った瞬間空気が変わる。
植物が見ている・・・そんな感覚だった。
蔦が揺れる。花が向く。木々が軋む。全てが生きていた。
「いるな」
カレンが笑う。
「いる」
セレンも頷く。
次の瞬間だった。地面が裂け巨大な根が飛び出す。
まさに一瞬だった。直径一メートルを超える植物が槍のように襲い掛かる。
カレンは笑った。避けない。むしろ反撃するのが楽しいかのように拳を握る。
《ハイ・ディメンター》。
緑色の光が走る。次の瞬間植物ごと空間が吹き飛んだ。
轟音。
爆風。
衝撃。
森が揺れる。
「出てこい!」
カレンが叫ぶ。
「面白ぇぞ!」
頭がおかしいのか?おめでたい人なのか?普通は警戒する。だがこの女は違う。
強敵を見ると喜ぶ。そして森の奥から少女が現れる。黒いおさげの眠そうな目。
年齢は十四歳ほど。手には小さな花を持っている。
「うるさい」
少女が言う。
「植物が嫌がってる」
「知るか」
「知って」
「嫌だ」
最悪の相性だった。少女は溜息を吐く。そして森が動いた。
《ロータス・クイーン》
森全体が能力だった。
巨大な樹木が起き上がる。蔦が空を覆う。花が牙を剥く。温室そのものが生き物になる。
圧巻だった。セレンですら少し驚く。
「強い」
「知ってる」
少女が答える。
「ティナだから」
意味が分からなかった。戦闘は十分続いた。普通ならもっと早く終わる。だが終わらない。
カレンは全部吹き飛ばす。ティナは全部再生する。壊す。増える。壊す。増える。まさに無限ループだった。途中からセレンは座っていた。暇だったから。既に戦いではない。子供の喧嘩だった。やがて太陽が沈み始める。
「腹減った」
ティナが言う。
「奇遇だな」
カレンも言う。
「私も」
「じゃあ終わり」
「そうだな」
戦闘終了だった。
セレンは未だに理解できない。
何故こうなるのか。
何故敵と飯を食いに行く流れになるのか。
結果として。
三人は廃温室で夕食を食べ始めた。
「お前ここで住んでるのか」
「うん」
「一人で?」
「植物いるし」
「人間は?」
「嫌い」
即答だった。理由も分かった。スキルが異常だから。周囲から気味悪がられた。
避けられた。恐れられた。だから森で暮らし始めた。その結果森の主になった。
「そうか」
カレンが言う。
「なら来るか?」
「どこへ」
「知らねー」
「知らない?」
「まだ拠点ないからね」
「馬鹿」
「知ってる」
その夜、三人は温室の屋根で星を見ていた。
誰も喋らない。
だが不思議と居心地は悪くなかった。
「名前決める」
不意にティナがカレンに言う。
「何のだよ」
「組織」
「組織なのか?」
「多分」
「組織ねぇ・・・」
カレンは考える。
十秒。
二十秒。
三十秒。
「レアニス」
「何それ」
セレンが聞く。
「響きが良かった」
本当に適当だった。しかしティナは頷く。セレンも否定しなかった。
こうしてレアニスは生まれた。
まだ三人だけ。拠点もない。金もない。計画もない。理念もない。
あるのは強い能力者三人だけだった。
だが後にこの三人は世界中へ名前を轟かせることになる。
そして数年後更に厄介な転移者が一人加入する。
だがそれはまだ少し先の話。




