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エピローグ

 エピローグ


 パイロ・フェニックスが死んで一年が過ぎていた、世界は変わった、劇的ではない、英雄譚のようでもない、誰もが幸せになったわけでもない、それでも確かに何かは終わった、長かった戦いも、憎しみも、復讐も、ようやく終わりを迎えていた。


 スノウ。


 北方の小さな村、雪が降る静かな土地でスノウは子供達へ読み書きを教えていた、能力者だと知られている、元ヴィラン側だとも知られている、それでも村人達は彼女を受け入れた、最初は何人も凍らせそうになった、冗談ではなく本当に、食器を洗っていて凍らせた、井戸も凍らせた、家の壁も凍らせた、その度に村人達が大騒ぎした。


「ごめんなさい」


「またですか」


「またです」


 今ではそれも日常だった、父から教わったのは戦い方だけだった、だから今は初めて学んでいる、普通の生き方を、人と一緒に笑い、人と一緒に暮らし、何気ない毎日を過ごすという当たり前の幸せを。


 ゴルディ。


 ゴルディは王都に残った、そして驚くことに商人になった、理由は単純だった、金が好きだったからだ。


「能力を利用すれば儲かりますよ」


 本人は真顔でそう言う。


 黄金武器生成能力は建築業界で大活躍した、橋を作る、建物を建てる、資材を運ぶ、その用途は想像以上に広く、以前なら破壊にしか使われなかった力が今では人々の暮らしを支えている。


「以前より圧倒的に稼いでいる」


「父より稼いでます」


 それだけは少し自慢だった、その時だけは年相応の少女のような表情になる。


 黒猫の少女。


 結局最後まで本名は分からなかった、だから今も皆から黒猫と呼ばれている、本人も気にしていない。


 彼女は各地を旅していた。


 猫と一緒に。


 増えた。


 物凄く増えた。


 十匹だった猫は五十匹になった。


 百匹近いという噂もある。


 もはや旅人ではなく移動動物園だった。


「幸せ?」


 かつてスノウに聞かれたことがある。


 黒猫は少し考えて。


「多分」


 とだけ答えた、その短い返答には不思議な満足感があり、かつて生きることしか考えていなかった少女が、幸せという言葉を考えられるようになったこと自体が大きな変化だった。


 マリオネット。


 彼女は誰よりも変わった。


 能力を捨てたのである。


 正確には使うことをやめた。


 他人を操ることが嫌になった。


 だから現在は人形師になっている。


 本物の人形を作る方だ。


 皮肉だった。


 しかし本人は気に入っていた。


 誰も傷付かない。


 誰も泣かない。


 壊れても直せる。


 それが良かった。


 工房には様々な人形が並び、その一体一体に彼女の優しさが込められていた。


 アイリス。


 アイリスは傭兵になった。


 だが昔とは違う。


 金で何でもする戦士ではない。


 戦争孤児を保護する仕事をしている。


 かつての自分と同じ子供達を。


 拾って。


 育てて。


 守る。


 父の真似だった。


 ただし。


 彼女は捨てない。


 最後まで面倒を見る。


 そこだけは違った。


 彼女は子供達から姉のように慕われており、その姿は戦場で銃を握っていた頃とはまるで別人だった。


 スカーレット。


 最も自由だった。


 本当に。


 自由だった。


 剣だけ持って旅している。


 目的もない。


 行き先も決めない。


 強い相手を見付けては戦い。


 負けて。


 勝って。


 笑う。


 それだけ。


 ある意味では一番カレンに近かった。


 ある日のことだった。


 酒場で誰かに聞かれる。


「後悔してるか?」


「何をです?」


「パイロを」


 スカーレットはしばらく考えた。


 そして笑った。


「してないですね」


「でも」


「寂しいですよ」


 それが本音だった、憎しみだけで終わるほど単純な関係ではなかった、だからこそ割り切れない感情が今も胸の中に残っていた。


 六人は今でも時々集まる。


 誰かの家で。


 酒場で。


 旅の途中で。


 理由はない。


 ただ。


 家族だったから。


 歪だった。


 壊れていた。


 それでも。


 確かに。


 家族だった。


 血の繋がりなどなく、出会いも最悪で、育てた父親すら狂っていた、それでも一緒に過ごした時間だけは嘘ではなかった。


 そして。


 墓地の片隅。


 カレン・オルタニアの墓には時々花が供えられている。


 来夏の墓にも。


 誰が置いているのか誰も知らない。


 ただ。


 六人の誰かではないかと言われていた。


「もしさ」


 ある日。


 スノウが呟く。


「カレンさんが生きてたら」


「どうなってましたかね」


 沈黙。


 そして。


 全員が同じことを想像する。


 きっと。


 うるさい。


 馬鹿みたいに笑う。


 勝手に喧嘩を売る。


 面倒を起こす。


 でも。


 誰よりも強かった。


 誰よりも真っ直ぐだった。


 誰よりも仲間を信じていた。


 誰よりも最後まで戦った。


 だから誰も否定できなかった。


 スカーレットが笑った。


「多分」


「また殴られてましたね」


 全員が笑う。


 本当に久しぶりに。


 心から。


 懐かしい誰かを思い出しながら。


 空は青かった。


 もう戦争は終わっている。


 パイロはいない。


 レアニスもない。


 それでも。


 彼らが生きた証は残っていた。


 誰かの記憶の中に。


 誰かの未来の中に。


 失われた者達の願いの中に。


 受け継がれた想いの中に。


 そして新しく歩き出した者達の明日の中に。


 いつまでも。

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