フェニックス・ウォー
第四十話 フェニックス・ウォー
要塞最上階は静かだった、吹雪の音すら聞こえず、巨大な窓の向こうには果てしなく広がる白い雪原があり、その中心には一人の老人が当然のように立っている、その存在感は周囲の景色すら支配しているようで、この場所全体が彼のためだけに用意された舞台なのではないかと思えるほどだった。
パイロ・フェニックス。
世界中で恐れられた怪物であり、楽園計画の元凶であり、レアニス崩壊の引き金であり、カレンと来夏を死へ追いやった男であり、そしてカール・ホークの父親だった。
「来たな」
パイロが笑う。
その声は昔と変わらない、何十年経っても、何人死んでも、どれだけ多くの悲劇が積み重なろうとも何一つ変わらず、まるで長年会えなかった友人を歓迎するような気軽ささえ含んでいた。
カールは一歩前へ出る。
セレンとティナは後ろへ下がった。
これはもう自分達の戦いではない、ここから先は親子の決着であり、誰にも割って入ることのできない場所なのだと二人は理解していた。
「随分回り道したな」
パイロが言う。
「お前のせいだ」
「それもそうか」
老人は笑った。
本当に楽しそうだった、心からこの瞬間を喜んでいるようで、その無邪気さがかえって不気味であり、それが何より腹立たしかった。
カールの脳裏に過去が蘇る。
来夏。
カレン。
レアニス本部。
雪山。
地下研究所。
仲間達との日々。
全部。
全部壊れた。
全部失った。
なのに。
この男だけが笑っている。
「お前は」
カールが言う。
「何なんだ」
「父親だろう」
「違う」
「なら化け物だ」
「それも正しい」
全く悪びれない、罪悪感も後悔も見えず、その言葉はまるで天気の話でもしているように軽かった。
言葉が届かない。
昔からそうだった。
今も。
ずっと。
その瞬間。
カールが抜く。
拳銃。
射撃。
銃声。
轟音。
弾丸が連続して飛ぶ、頭部、喉、心臓、急所だけを正確に狙い、そこに込められているのは純粋な殺意だけだった。
しかし。
パイロは笑っている。
拳。
ただ拳を振るう。
それだけ。
弾丸が砕けた。
空中で。
正面から。
圧力だけで。
常識を超えた光景だった、人間業ではない、もはや生物としての枠組みから外れている。
「知ってた」
カールが答える。
「だからだ」
次の瞬間。
爆発。
要塞全体が揺れる。
壁面へ事前に仕掛けられていた爆薬が一斉に起爆し、天井が崩壊し、床が砕け、巨大な石材が雨のように降り注ぐ、建築物そのものを兵器へ変えるカールの得意な戦術だった。
しかし。
炎の中心から。
パイロは歩いて出てくる。
無傷。
本当に。
無傷だった。
炎も爆風も瓦礫も何一つ通用しておらず、まるで少し埃を被った程度にしか見えない。
「いいな」
「相変わらずだ」
「褒めるな」
「褒めてる」
本気だった。
親子喧嘩ではない。
怪物同士の戦争だった。
パイロが消える。
踏み込み。
それだけ。
空気が爆発する。
床が消える。
要塞が軋む。
あまりにも単純な動作で周囲の景色そのものが破壊され、その余波だけで巨大要塞が悲鳴を上げていた。
カールは《オーバードライブ》を発動した。
世界が止まる。
雪が。
瓦礫が。
炎が。
全部停止する。
そして。
パイロだけが動いていた。
「やっぱりか」
カールが笑う。
「見えてんだな」
「親子だからな」
パイロも笑う。
完全な怪物だった。
拳。
衝突。
轟音。
最上階が吹き飛ぶ。
要塞の壁面が消失する。
吹雪が流れ込む。
二人は殴り合う、撃つ、爆破する、蹴る、壊す、その全てが人間同士の戦いではなく災害同士の衝突だった。
戦う理由も。
思想も。
信念も。
全部捨てて。
ただ殺し合う。
それだけだった。
下階ではティナとセレンが戦闘を続けていた。
六人の娘達。
スノウ。
ゴルディ。
スカーレット。
アイリス。
全員が立ちはだかる。
だが。
戦う気はなかった。
「もう終わりにしよう」
スノウが言う。
「父が死ねば」
「全部終わる」
「じゃあ邪魔するな」
セレンが答える。
「しない」
珍しく全員が武器を下ろしていた、その表情には覚悟と諦めが混ざり合っており、長く続いた物語の終着点を受け入れているようだった。
最上階。
戦いは終盤へ入る。
カールの身体は限界だった、《オーバードライブ》の連続使用により血を吐き、骨が折れ、筋肉が裂け、それでもなお前へ出続ける。
パイロも傷付いていた。
初めて。
本当に初めて。
口元から血が流れている。
笑う。
息子を見ながら。
楽しそうに。
「強くなったな」
「遅い」
「そうか」
「もっと早く言え」
「興味なかった」
「知ってる」
二人とも笑った。
少しだけ。
そして。
最後の瞬間が来る。
カールは残った全てを使った。
《オーバードライブ》。
完全解放。
肉体崩壊。
限界突破。
身体のあらゆる部分が悲鳴を上げ、生命そのものが削られていく感覚の中で、それでも一歩だけ踏み出す。
そして。
最後のナイフ。
軍用コンバットナイフ。
「終わりだ」
「ああ」
パイロが頷く。
「終わりだ」
それが。
最初で最後。
父親らしい顔だった。
ナイフが走る。
閃光。
静寂。
世界が止まったような感覚の中で、雪だけが静かに降り続けていた。
どこまでも。
果てしなく。
パイロ・フェニックスは膝をつく。
胸にはナイフが刺さっている。
致命傷だった。
もう立てない。
誰の目にも分かった。
「勝ったな」
パイロが言う。
「黙れ」
「立派になった」
「黙れ」
「カール」
その名前を。
初めて父親らしく呼んだ。
「生きろ」
それが最後だった。
炎の怪物は倒れる、長い間世界を掻き回し続けた怪物は静かに崩れ落ち、その身体は二度と動かなかった。
春。
雪は溶けていた。
セレンは各地を旅している、能力者達を助けるために。
ティナは森で植物を育てている、以前より少しだけ笑うようになった。
六人の少女達は世界へ散った、自分の人生を生きるために。
そして。
王都郊外の墓地。
二つの墓が並んでいる。
来夏。
カレン・オルタニア。
カールは花を置く。
何も言わない。
言葉は必要なかった。
風が吹く。
どこかで。
昔の声が聞こえた気がした。
「暇だ」
「働け」
「嫌だ」
「知ってる」
そんな馬鹿みたいな日々は戻らない、それでも確かにあった、それは失われたけれど消えたわけではなく、今も胸のどこかで生き続けている。
カールは立ち上がる。
空を見る。
そして歩き出す。
今度は一人で。
前へ。
これにて完結です。完成した感想ですが・・・主人公に知らない能力生えてきて?てなりました。うーん主人公は媚薬フェロモン野郎で甘い日常回がちらほらあるはずなんだけど・・・。後改行がどう指示しても大量に入れるので人力で直してましたが諦めました。短文連発してるのはお許し下さい。自分で書いたのと混ざってて違和感があるのでAIに全体を整えさせてますが全体的にAIぽくなったので随時直していきます。




