金色の魔女
第二十四話
金色の魔女
スノウとの戦闘から三日後、レアニス本部は妙な緊張感に包まれていた。
前回の戦闘は敗北ではない。しかし勝利でもなかった。レアニスが総力を挙げて戦っても、相手は余裕を残して去っていったのである。それはカールにとっても予想外だったが、他のメンバーに与えた衝撃はさらに大きかった。
来夏は珍しく訓練場に入り浸っていたし、セレンも能力の制御訓練を増やしている。ティナは植物の改良実験を続けていた。カレンだけは普段通りだったが、それでも以前より戦闘意欲が明らかに高まっていた。
そんな中、新たな被害報告が届く。
王都南部。
貴族街。
屋敷一つが消滅した。
それだけでも十分異常だが、問題はその跡地だった。
何も残っていない。
焼け跡すら。
崩壊した痕跡すら。
ただ更地になっている。
「爆発じゃないな」
カールは報告書を閉じた。
「切断でもない」
「じゃあ何?」
来夏が聞く。
「分からん」
「また面倒なやつだ」
カレンは嬉しそうだった。
現場へ到着した瞬間、全員が異常を理解した。
本当に何もない。
屋敷があった場所だけが綺麗に消滅している。
瓦礫も。死体も。家具も。何もかも。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「気持ち悪い」
セレンが呟く。
「空間干渉かな」
来夏も眉をひそめる。
「いや」
カールは地面へしゃがみ込んだ。
「違う」
「違う?」
「奪われてる」
その言葉を聞いた瞬間、ティナの表情が変わる。
彼女も気付いたらしい。
生命反応、植物の残骸、魔力の流れ・・・根本から消えている。
何かが持ち去ったのだ。
全てを。
異変が起きたのは日没直後だった。王都の鐘が鳴り終わる頃、貴族街全域を覆う魔力反応が観測される。来夏のゲート感知能力が異常な反応を捉え、次いでティナの植物ネットワークが敵の接近を知らせた。
空を見上げる。
黄金色だった。
光。
無数の光。
夜空から金色の粒子が降り注いでいる。
その中心・・・屋根の上に一人の少女が立っていた。
金髪。
青い瞳。
白いドレス。
年齢は十六歳ほど。
スノウと同じだった。
美しい。
だからこそ危険だった。
少女は優雅に一礼する。
「初めまして」
微笑む。
「私はゴルディ」
「お姉様の妹です」
やはりだった。
仲間がいる。
スノウだけではない。
次の瞬間。
ゴルディが指を鳴らす。
すると夜空へ浮かんでいた黄金粒子が一斉に変形した。
剣。
槍。
矢。
斧。
ありとあらゆる武器になる。
数百。
いや。
数千。
王都の空が武器で埋め尽くされた。
来夏の顔色が変わる。
「多くない!?」
「多い」
ティナも珍しく即答した。
「かなり多い」
攻撃は容赦なく始まった。
黄金の武器群が雨のように降下する。
地面が砕け建物が崩れ石畳が消し飛ぶ。
貴族街そのものが爆撃を受けているような有様だった。
しかしレアニスも黙っていない。
《ロータス・クイーン》。
ティナの植物が一斉に成長し、防壁を形成する。巨大樹木が武器の雨を受け止め、蔦が飛来物を捕獲する。しかし物量が異常だった。
一本止める。
二本止める。
十本止める。
その後ろから百本飛んでくる。
「嫌い」
ティナが不機嫌そうに言う。
「すごく嫌い」
来夏とセレンは即座に連携へ移る。
《メビウス・ゲート》。
ゲート展開。
上空。
地上。
建物内部。
複数接続。
飛来する武器を強制的に別方向へ逸らしていく。
そこへセレンの《ザ・ミラーズ》が加わる。
方向感覚の反転。
空間認識の破壊。
武器群の軌道が次々と狂い始めた。
「行ける!」
来夏が叫ぶ。
だがゴルディは笑った。
「そうですか」
次の瞬間。
武器の数が倍になる。
三倍。
四倍。
空が黄金色に染まる。
もはや災害だった。
「あっ超無理!」
来夏が本音を漏らした。
そんな中。
カレンだけは笑っていた。
「面白ぇな」
両手が緑色に輝く。
《ハイ・ディメンター》。
次元破壊。
緑色の光が夜空へ奔る。
拳を振るった瞬間、空間そのものが抉り取られ、数百本規模の黄金武器がまとめて消滅する。
もう一撃。
さらに消える。
次元ごと吹き飛ぶ。
黄金の暴風雨へ強引に穴を開けながら、カレンは一気に前進する。
ゴルディの笑みが初めて消えた。
「あなた」
少女が呟く。
「お姉様より危険ですね」
「褒めるな」
カレンが笑う。
「殺したくなる」
その瞬間。
屋根が砕ける。
二人の距離がゼロになる。
緑色の拳。
黄金の盾。
正面衝突。
爆発。
周囲の屋敷がまとめて吹き飛ぶ。
王都が揺れた。
その戦いを見ながら、カールは別方向を見ていた。
敵ではない。もっと遠く。もっと奥。気配、視線・・・そして既視感。
ゴルディもスノウも前座だ。本命がいる。どこかで見ている。そう確信していた。
そして王都から遥か北。
雪山の頂。
古い要塞。
その窓際に腰掛けたパイロ・フェニックスは、遠く離れた王都の方角を眺めながら静かに笑った。
「まだだ」
「もう少し遊べ」
その背後にはスノウを含む数人の少女達が並んでいる。
そして部屋の壁には王国全土の地図が貼られていた。
新たな敵との戦いは、まだ始まったばかりだった。




