白雪姫は人を殺す
第二十三話
白雪姫は人を殺す
楽園計画壊滅から二週間後、レアニス本部にはようやく平穏らしい平穏が戻っていた。もっとも、それは外から見た場合に限る。実際には回収資料の整理、グラスの取り調べ、各地の残党狩りなど仕事は山積みであり、カールもほとんど休めていない。しかし、それでも以前のように毎日命懸けの戦闘を繰り返している状況ではなかった。
そんな中、来夏は暇を持て余していた。
「事件ないの?」
「あるぞ」
カールが資料をめくる。
「面倒なやつが」
「却下」
「聞け」
日常だった。
ティナは庭で植物を育てている。
セレンは本を読んでいる。
カレンはソファで寝ている。
平和だった。
だからこそ異変は突然訪れた。依頼は王都郊外の村からだった。行方不明者が続出している。それだけなら珍しくない。しかし報告書には奇妙な共通点が存在した。
全員女性。
全員十代。
全員遺体が発見されていない。
「人身売買?」
セレンが聞く。
「違うな」
カールは首を振った。
「足跡がない」
「何それ」
来夏が顔をしかめる。
「犯人が飛んでるの?」
「分からん」
「嫌なパターンだな」
カレンが起き上がった。
翌日。
レアニスは現地へ向かう。村は森に囲まれた小さな集落だったが、空気は重い。誰もが怯えている。日が沈めば家から出なくなるらしい。聞き込みを続けた結果、一つの証言が浮上する。
白い少女。
それだけだった。
「幽霊?」
来夏が言う。
「死ぬほど安いホラーだな」
「だと助かる」
カールは森へ視線を向けた。
本当に厄介な相手は大抵人間だからだ。
その夜。
森へ入ったレアニスは異常を発見する。
静かすぎた。
虫の声がない。
鳥もいない。
獣もいない。
そして。
「いた」
ティナが言った。月明かりの下白い少女が立っていた。
年齢は十五歳ほど。
白髪。
白いドレス。
赤い瞳。
どこか人形を思わせる美しさがあった。
少女は笑う。
「こんばんは」
その声は普通だった。
だから逆に不気味だった。
カールは少女を見る。
魔力が異常だ。
地下研究所で遭遇した能力者達より濃い。
桁が違う。
「名前は」
カールが聞く。
少女は丁寧に一礼した。
「スノウ」
「それで?」
「皆さんを殺しに来ました」
笑顔のまま言った。
次の瞬間だった。
森が消えた。
正確には違う。
切断された。
何百本もの木々がまとめて真横へ滑り落ちる。
切断面は鏡のように滑らかだった。
カールの顔が変わる。
見えなかった。
攻撃そのものが。
「伏せろ!」
叫ぶ。
直後。
来夏の髪が数本宙を舞った。
一瞬遅れていたら首ごと飛んでいた。
戦闘が始まる。
カレンが突撃する。
両手が緑色に発光する。
《ハイ・ディメンター》。
次元ごと吹き飛ばす絶対破壊。
緑色の軌跡が森を裂きながら少女へ迫る。
しかし当たらない。少女が消える。
残像。
高速移動。
さらに別方向から斬撃。
空間そのものが切り裂かれる。
カレンが回避する。
地面が数十メートルに渡って消滅した。
「面白ぇな」
初めてカレンが笑った。
「強いじゃねぇか」
スノウも笑う。
「ありがとうございます」
セレンと来夏も加わる。
《ザ・ミラーズ》。
《メビウス・ゲート》。
反転。
転移。
連携。
しかしスノウは読んでいる。
いや。
見えている。
未来予知に近い反応速度だった。
「何だアイツ」
来夏が焦る。
「本当に人間?」
「違うかも」
ティナが静かに呟いた。戦闘は激化していく。しかし決着は付かない。そして撤退直前。スノウが笑顔で言った。
「また会いましょう」
「次はお姉様達も連れて来ます」
その言葉だけを残し、少女は闇の中へ消えた。
帰路。
レアニスは全員無言だった。
あれほどの敵は久しぶりだった。
しかも。
一人ではない。
お姉様達。
複数いる。
嫌な予感しかしない。
だがカールが本当に気にしていたのは別のことだった。
スノウが現れる少し前に森の奥で感じた視線。あれを知っている。
忘れるはずがない。
パイロ・フェニックス。
あの気配だった。そして王国北部。山岳地帯。雪に覆われた廃要塞。その頂上でパイロは一人座っていた。目の前には少女達が並んでいる。
スノウ。
赤髪の少女。
黒髪の少女。
金髪の少女。
全員が異常な魔力を持っていた。
パイロは笑う。
静かに。
楽しそうに。
「いい」
誰へ向けた言葉でもなかった。
「始めよう」
新しい戦いが動き始めていた。




