↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
14/45

王都最強の処刑人

 第十四話

 王都最強の処刑人


 エドワード・グラスから送られてきた手紙は、レアニス本部の空気を確実に変えていた。


 《王子の件、感謝する》


 たったそれだけの文章だったが、その意味は重い。第三王子の排除がグラスにとっても都合の良い結果だったことを示しているからだ。つまりレアニスは知らないうちに利用されていた可能性がある。


 カールは暖炉の前で報告書を読み返していた。第一保管施設から回収した資料、第三王子の財務記録、楽園計画関連の通信文書を並べてみると、これまで見えなかった繋がりが少しずつ浮かび上がってくる。


 第三王子はスポンサーだった。


 グラスは研究責任者だった。


 ギルバート・オルタニアは資金と裏社会ルートを担当していた。


 では、その更に上は誰なのか。


 そこだけが空白だった。




「また難しい顔してる」




 来夏が机へ頬杖をつく。




「大体こういう時って面倒なことしか起きないよね」




「経験上その通りだ」




 カールが答える。




「平和な時ほど次の問題が来る」




 嫌な予感は的中した。その日の夕方、本部へ血まみれの男が飛び込んできたのである。男は王都地下区画で活動する情報屋だった。これまでにも何度か世話になっている。その男の左腕は肩口からなくなっていた。




「おい」




 カールが支える。




「誰にやられた」




 情報屋は震える手で封筒を差し出した。そこには楽園計画の紋章が描かれている。




 そして一つの名前。




 《処刑人バルガス》




 その文字を見た瞬間、カレンの表情が変わった。

 珍しかった。

 彼女が敵の名前で顔色を変えることなど滅多にない。




「知ってるのか」




 カールが聞く。カレンは数秒黙った後、小さく舌打ちした。




「昔殺し損ねた」




 それだけで十分だった。


 処刑人バルガス。


 本名不明。


 年齢不明。


 王都裏社会で長年活動する殺人者。暗殺者ではない。殺人鬼でもない。より正確に言うなら処刑執行人だ。依頼された標的を殺す。ただし必ず正面から。逃げも隠れもせず奇襲もしない。ただ勝って殺す。

 その異常な信念から処刑人と呼ばれていた。苦しくもカールのもう一つの異名と同じである。さらに厄介なのは、その男が王都最強候補の一人とされていることだった。




「どれくらい強い」




 セレンが聞く。






「私より少し下」




 カレンが答える。




「そうか、じゃあお前が戦えばいいんだな」


「・・・・・・」


 カレンは不機嫌そうにぶすっとしている。多少差があるとはいえ同じくらい強いという事はそれだけカレン側にも被害が出るという事である。いつもの楽勝の被害0で戦えない相手なのだ。しかし個人的恨みがあるので戦いたくないと言えば嘘になる。




 情報屋の証言によれば、バルガスは王都東部の廃監獄へ向かったらしい。数十年前に閉鎖された巨大施設だ。王都の人間ですら近寄らない。




「罠だろうな」




 道中でカールは言った。




「確実に」




 来夏も同意する。




「でも行くんでしょ?」






「行く、アイツは私がぶっ殺す」




 カレンが即答した。



 深夜。


 レアニスは廃監獄へ到着した。巨大な石造りの建物は月明かりの中で不気味な存在感を放っている。窓は割れ、壁は崩れ、正面門だけが異様なほど綺麗な状態で残されていた。




「歓迎されてるな」




 カールは眉をひそめる・・・が敵は隠れる気がない。それどころか招待している。

 普通なら引くべき状況だった。しかし今回は無理だった。建物内部へ入った瞬間、全員が気配を感じる。




 重い。




 威圧感。




 殺気。




 空気そのものが変わっていた。




 広間の中央。




 そこに男は立っていた。身長は二メートル近い。筋肉の塊のような体格。短く刈り込まれた灰色の髪。

 全身に無数の傷。そして異常なまでに巨大な両刃斧。


 処刑人バルガス。


 男はレアニスを見ると嬉しそうに笑った。



「久しぶりだな」



 その視線はカレンへ向いている。




「狂犬」






「まだ生きてたか」




 カレンも笑う。




 獣同士が睨み合っているようだった。


 この二人にはちょっとしたいざこざがあった。アサシンギルドの仕事として暗殺を頼まれたカレン達とその被害者である。被害者といっても壊滅的ダメージを与え反撃したが・・・。以来レアニスとバルガス、特にカレンとバルガスは仲が悪い。胸糞悪い因縁地味たような関係を互いに感じていた。



 本能で分かる。この二人は似ている。戦うことを楽しむ人種だった。戦闘は前触れなく始まった。

 先に動いたのはバルガスだった。踏み込みそれだけで床が砕ける。巨体とは思えない速度だった。

 巨大な斧が横薙ぎに振るわれる。




 轟音。




 石柱が切断される。




 壁が吹き飛ぶ。




 まともに受ければ人間など跡形も残らない。




 しかしカレンは笑っていた。




「相変わらずだ!」




 正面から拳を叩き込む。




 斧と拳。




 衝突。




 爆発のような衝撃が広間を揺らした。




 両者とも後退しない。




 化け物同士だった。その間にティナの植物が床を覆う。《ロータス・クイーン》によって生み出された巨大な蔦がバルガスへ殺到するが、男は斧を一振りしただけで全て両断した。


 植物の破片が吹き荒れる。




 来夏がゲートを開く。




 死角へ移動。




 背後から蹴撃。




 だが避けられる。




 反撃の肘打ち。




 来夏が吹き飛ぶ。




「速っ!?」




 壁へ激突しながら叫ぶ。




 カールも驚いていた。




 速すぎる。




 体格と速度が噛み合っていない。




 普通ならあり得ない。


 セレンが前へ出る。


 《ザ・ミラーズ》発動。




 上下反転。




 左右反転。




 空間認識を狂わせる。




 ところが。




 バルガスは止まらなかった。




 勘だけで斧を振るう。




 セレンが飛び退く。




 床が真っ二つになる。




「馬鹿なの?」




 珍しくセレンが引いていた。




「多分そうだ」




 カールも同意だった。




 感覚を狂わされても力業で突破してくる。




 一番面倒なタイプである。しかし戦いを見ていたカールは一つの違和感に気付く。



 息が乱れている。




 僅かだが。




 確実に。




 さらに瞳孔も開いている。




 筋肉の肥大も不自然だった。




「薬か」




 思わず呟く。




 グラスの研究資料を思い出す。




 人体強化薬。




 肉体活性化剤。




 もしそれを使用しているなら。




 限界がある。




「カレン!」




 叫ぶ。




「長引かせろ!」






「分かってる!」




 カレンも気付いていたらしい。




 真正面から殴り合いながら時間を稼ぐ。




 そして十分後。




 異変が起きた。




 バルガスの動きが鈍る。




 足が止まる。




 呼吸が荒くなる。




 その瞬間。




 カールが引き金を引いた。




 膝。




 肩。




 肘。




 関節だけを撃ち抜く。




 続いてセレンが飛び込む。




 来夏が側面から蹴りを叩き込む。




 ティナの植物が拘束する。




 最後に。




 カレンの拳が男の顔面へ炸裂した。




 轟音。




 巨体が地面へ沈む。




 処刑人バルガス。




 敗北だった。


 しかし。




 倒れた男は笑っていた。




 血を吐きながら。




 嬉しそうに。




「やっぱり来ると思った」




 誰に向けた言葉か。




 直後。




 男は懐から一枚の写真を取り出した。




 そこに写っていた人物を見た瞬間、カールの表情が変わる。



 パイロ・フェニックス。




 そして。




 エドワード・グラス。




 二人が並んでいた。




 若い頃の写真だった。




「……は?」




 レアニス全員が固まる。




 つまり。




 楽園計画は最近始まったものではない。




 カールの父親すら関わっていた可能性がある。




 倒れたバルガスは最後に笑った。




「お前ら……まだ入口にも立ってねぇぞ」




 そう言い残して意識を失う。

 残された写真だけが、新たな謎を生み出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。