王子を消せ
第十三話
王子を消せ
第三王子が倒れた瞬間、舞踏会会場は混乱に包まれた。
貴族達の悲鳴が響き、近衛兵達が一斉に動き出す。医師達が駆け寄るが手遅れだった。レアニスにとって問題なのはそこではない。本来ならここで撤収して終わりのはずだった。しかしカールは異変に気付いていた。近衛兵の動きがおかしい。第三王子の護衛達があまりにも冷静だった。普通なら主君の急死に動揺する。だが彼らにはそれがない。むしろ何かを待っているようだった。
「来夏」
来夏も別行動で密かに走り回っていた。カールが小型通信機へ囁く。
「どうしたの?」
「予定変更だ」
カールは廊下の奥へ視線を向けた。
「まだ終わってない」
次の瞬間に王城内部の灯りが消える。完全な暗闇が静寂を支配する。直後、複数の足音が響いた。
「見つけたぞ」
低い声が耳に響く。その数は一人や二人ではない。カールは反射的に壁際へ飛び退く・・・直後ダガーが飛来した。先程まで頭のあった位置へ突き刺さる。
「暗殺部隊か」
舌打ちする。
第三王子は自身に危険が及ぶことを理解していたのだろう。王城内部へ私兵を潜ませていたのである。
廊下の奥から現れたのは黒装束の男達だった。全員が魔力遮断マントを着用している。姿も気配も消す特殊装備だ。
「面倒だな」
カールは拳銃を抜く・・・と同時に通信機から声が響いた。
「カール!」
来夏だった。
「こっちも襲われてる!」
「何人だ」
「十五!」
「同じだな」
奇襲にしては大規模すぎる。王子は相当金を掛けていたらしい。戦闘は同時多発的に始まった。
カレンは大広間で十人以上の敵に囲まれていた。しかし本人は楽しそうだった。
竜巻のような勢いで突撃すると最前列の男を殴り飛ばし、そのまま倒れた相手を掴んで別の敵へ投げ付ける。彼女のスキルは次元を吹き飛ばす能力、その衝撃で敵達は跡形もなく吹き飛んだ。例えるなら満員電車に手榴弾を投げ込むようなものだ。
人体が武器になっていた。
「弱ぇぞ!」
笑いながら拳を振るう。
敵も精鋭だった。巧みに包囲し、一斉攻撃を行う。だがカレンの方が化け物だった。スキルも驚異的だがその戦闘能力も化物地味ていた。
剣を掴む。
折る。
肘打ち。
膝蹴り。
頭突き。
戦闘というより災害だった。一方でティナは植物を利用して敵を封じていた。《ロータス・クイーン》によって生み出された蔦が廊下を埋め尽くし、敵の足や腕へ絡み付く。男達が必死に剣で切断しても間に合わない。切ったそばから新しい植物が伸びる。
「増える……!?」
敵が悲鳴を上げる。
ティナは無表情だった。
「栄養が多い」
敵が多いほど植物もよく育つらしい。来夏は王城内部を跳ね回っていた。
《メビウス・ゲート》。
空間同士を繋ぎながら戦場を移動し、敵の背後から急襲する。彼女は韓国の格闘技テコンドーの達人で蹴り技の達人だ。
「こっち!」
蹴り。
「次!」
ゲート移動。
回し蹴り。
「その次!」
さらに移動。
近衛兵達からすると悪夢そのものだった。どこから現れるのか分からない。追えないし捕まらない。
結果だけ言えば十人近い相手を一人で無力化していた。セレンもまた別の場所で戦っていた。
《ザ・ミラーズ》。
上下左右を反転させる能力は狭い通路で特に強力だった。突撃した敵が突然天井へ向かって走り始める。剣が逆方向へ振られる。距離感が狂う。そして混乱した相手へ格闘術が叩き込まれる。彼女の父親はロシアの軍人で父親から格闘技を仕込まれていた。打撃、サブミッション、投げ技・・・どれも本職並だ。
「理解できない!」
敵が叫ぶ。
「理解しなくていい」
セレンは淡々と答えた。
「倒れるから」
カールの戦場だけは少し違った。
暗闇。静寂。呼吸音。
彼は動かない。相手も動かない。
特殊部隊同士の戦闘によく似ていた。
敵も訓練されている。
だからこそ読む。どこから来るか。どこを狙うか。何人いるか。
やがて一人が動いた。その瞬間。
銃声。
男が倒れる。そして第二射、第三射。廊下に悲鳴が響く。
「化け物か!」
敵の一人が叫んだ。
違う。
慣れているだけだ。カールはそう思った。親父ほどではない。軍の仲間ほどでもない。だがこの世界の人間と比べれば経験が違う。
戦闘が終わった頃には、第三王子の私兵部隊は完全に壊滅していた。
こうしてレアニスは王城からの脱出に成功する。
しかしその直後、本部へ戻った彼らを待っていたのが、グラスからの手紙だった。
つまり第三王子暗殺は、誰かの計画通りだったのである。
そしてカールは嫌な予感を覚えていた。
第一保管施設で戦った狂人達よりも、その背後にいる存在の方が遥かに危険なのではないかと。




