5−2.
「私はフォルナー侯爵家の利益を守れれば構いません。それで十分です。心の中でジョゼット様を想うぐらい私にはどうって事ないですわ。」
「・・・・・。」
アンディ様はしばらく黙っていた。
けれど。
「・・・嫌だ。」
ぽつりと呟かれた声に、私は瞬きをして耳を疑った。
「嫌?」
「僕、そんなの嫌だ・・・。」
アンディ様は苦しそうに顔を歪めた。
「レイラに失礼なのも分かってる。最低なのも分かってる。でも・・・・。」
薄紫の瞳が揺れる。
「ジョゼットを諦められない。」
この男はやはり馬鹿なのだと、私の心はどんどん冷たくなっていく。
真っ直ぐな声で。
あまりにも必死で、あまりにも子どもみたいな。
私は思わず黙り込む。
「僕、今までずっと勘違いしてた。」
アンディ様は拳を握り締める。
「親友だから大切なんだって思ってた。でも違った。」
苦しそうに息を吐く。
「僕、ジョゼットを誰にも渡したくない。」
その言葉には執着が滲んでいた。
長年抑え込んでいた感情が、一気に溢れ出しているのだろう。
「ジョゼットがオリバーと結婚するなんて嫌だ・・・耐えられない。」
私は静かにアンディ様を見つめた。
なんて面倒な男で愚かで馬鹿なのだろうと思った。
もっと早く気付いていれば、こんな拗れ方はしなかったのに。
「今さら告白なさるおつもりですか?」
「したい。」
即答だった。
私は額を押さえたくなる。
「正気ですの?」
「正気じゃないかもしれない。」
アンディ様は自嘲気味に笑う。
私は頭が痛くなってきた。
「何もしないままジョゼットが他の男のものになるなんて無理だ。」
私はしばらく黙っていた。
そして静かに問いかける。
「ジョゼット様を困らせても?」
アンディ様の表情が強張る。
「オリバー様と想いが通じ合った直後に、貴方から想いを告げられれば、あの方は苦しみますわ。嫌われるかも。」
「・・・っ!」
「しかも貴方には婚約者がいる。」
「それはっ!」
「最低です。そして最悪で愚かで馬鹿です。」
容赦なく言い切ると、アンディ様はぐっと言葉を詰まらせた。
「っ・・・それでも諦めたくない!」
絞り出すような声だった。
「僕、ジョゼットを親友だって言いながら縛ってた。なのに、今さら好きだなんて酷いって分かってる。」
アンディ様は唇を噛む。
「でも・・・今ここで諦めたら、一生後悔する。」
その目は、先程までの絶望とは違っていた。
苦しみながらも、どこか必死に足掻いている。
私は小さく息を吐く。
「(本当に厄介ですわね・・・。)」
けれど少しだけ、羨ましくもあった。
そこまで誰かを求められる事が。
「アンディ様。」
「・・・?」
「もし本当に動くなら、覚悟なさいませ。」
アンディ様が目を見開く。
「ジョゼット様を選ぶなら、今までの関係は壊れます。」
「・・・・・。」
「ジョゼット様もオリバー様も傷付く、私の評判にも傷が付きます。全員が傷付きます。」
アンディ様は黙ったまま拳を握り締めた。
「それでも行くのですか?」
沈黙。
そして。
「行く。」
低い声だった。
迷いを抱えたまま、それでも前に進もうとする声。
私はゆっくり目を閉じる。
「(ああ、これはもう止まりませんわね。)」
十年以上“親友”に逃げ続けた男が。
ようやく恋に狂い始めていた。
「政略結婚じゃなきゃ誰が、貴方なんかと結婚するのでしょうね。」
今度は本人に聞こえる様に言ってやりましたわ。




