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大好きな令息が親友でいたいと言ったから  作者: 鈴木べにこ


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5.政略結婚じゃなきゃ誰が(レイラside)

 アンディ・トワイスと婚約した事を友人や知り合いに伝えると皆決まって同じ事を言います。



“なんで?”



 その”なんで?”には色んな言葉が含まれている事は分かっています。


 だけど、私レイラ・フォルナーには選択肢がありませんでした。


 お人好しな父の借金のせいで侯爵家は没落寸前。


 まだまだ嫡男として未熟なお兄様と、病気のお母様に、下に妹と弟までいたのですから・・・。


 トワイス家からアンディ様の婚約者にならないかと打診があったと時、「なんで?」の言葉が出てしまった。


 アンディ様には誰がどうみても、好意を抱いている相手がいるのは一目瞭然でしたから。


 それでもアンディ様に別の女性()と婚約させようなどと、何と失礼な事かと腹が立ちましたが仕方ありません。

 

 私には選択肢がありませんでしたから。



「政略結婚じゃなきゃ誰が。」



 また無意識に呟いてしまいました・・・。


 王宮の夜会は今日も眩しかった。


 シャンデリアの光。

 甘い音楽。

 笑い声を交わす貴族達。


 その中心で、私の婚約者――アンディ・トワイス伯爵令息は、まるで魂を抜かれたような顔をしていた。



「(そんな顔をなさるくらいなら、もっと早く気付きなさいませ。)」



 私は心の中でため息を吐く。


 アンディ様の視線の先には、ジョゼット・ハーヴィー伯爵令嬢がいた。


 そしてその隣には、焦茶色の髪の青年。


 オリバー・ベアード。


 最近急速に距離を縮めているという噂の幼馴染。


 そして恐らく今夜。


 アンディ様は決定的なものを見てしまった。


 ジョゼット様が、自分以外の男性を選ぶ瞬間を。




「ジョゼットが・・・。」




 アンディ様の掠れた声。


 私は静かに視線を向ける。



「ジョゼットがオリバーと・・・キスしてた・・・。」



 ああ、やはり。


 私は小さく目を伏せた。


 アンディ様は酷く青ざめていた。


 いつもの整った顔立ちは今や泣きそうに歪み、薄紫の瞳は揺れている。



「僕、こんなの知らない・・・。」



 胸を押さえながら呟く姿は、本当に失恋した男そのものだった。



「ジョゼットが他の男に笑ってるだけで苦しかった・・・。」



 私は静かに聞いていた。



「取られたくないって思った・・・あんな顔、僕以外に向けてほしくないって。」



 その言葉に、私は内心で苦笑する。



「(今さらですわね。)」



 誰もが知っていた。


 アンディ・トワイスはジョゼット・ハーヴィーを愛していると。


 本人だけが気付いていなかったのだ。



「アンディ様」


「・・・何。」


「貴方はジョゼット様を愛しているのでしょう?」



 アンディ様は何も言わなかった。


 否定できないのだろう。


 代わりに苦しそうに俯いた。



「・・・僕、どうしたらいい?」



 まるで迷子の子どもみたいな声だった。


 私は小さく息を吐く。



「まず現実を受け入れてくださいませ。」


「現実・・・・・。」


「ジョゼット様はオリバー様を選びました。」



 アンディ様の肩が震える。



「そして私達の婚約は正式なものです。家同士が結んだ大切な契約でもあります。」


「・・・うん。」



 酷く弱々しい返事だった。



「私は婚約解消を望みません。」


「え?」



 アンディ様が驚いたように顔を上げる。


 私は静かに微笑んだ。



「貴族の婚約は恋愛だけで成り立つものではありませんもの。」


「でも僕・・・ジョゼットが好きなのに。」


「ええ。知っていますわ。」


「そんな男と結婚するなんて嫌じゃないの?」



 随分と直接的な質問だった。


 だが私は冷静に答える。



「嫌か嫌じゃないかで言えば、当然嫌に決まってます。凄く嫌。」


「・・・・・・。」


「ですが、それとこれとは別問題です。」



 私はグラスを軽く揺らしながら続けた。



「政略結婚をして、別に想い人がいる夫婦など珍しくありません。」


「・・・・・。」


「私達もそうなれば良いだけです。」



 アンディ様が驚いた表情をする。



「仮面夫婦。」


「ええ。」



 表向きは仲の良い夫婦。


 社交界では微笑み合い、跡継ぎも作る。


 だが互いの恋愛感情には踏み込まない。


 貴族にはよくある形だ。


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