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大好きな令息が親友でいたいと言ったから  作者: 鈴木べにこ


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13/18

ルートB−2.

「ちょっと!? アンディ!!」



 侍女達が悲鳴を上げる。



「降ろして!! 離しなさい!!」


「嫌だ!!」


「アンディ!!」



 ジョゼットは本気で暴れた。


 ウェディングドレスの裾が乱れ、髪飾りが落ちる。



「どうかしてるわ!!」


「ジョゼット、お願いだから!」


「お願いじゃない!!」



 アンディは廊下を駆け抜ける。



「僕と逃げよう!」


「嫌よ!!」



 ジョゼットは怒鳴った。



「私はオリバーと結婚するの!!」



 その言葉にアンディの身体が一瞬強張る。


 だが止まらない。



「愛してるんだ!!」


「っ・・・!」


「ジョゼット、愛してる!! だから――」


「ジョゼットを返せ!!」



 必死の低い声が響いた。


 次の瞬間。


 アンディの身体が後ろから強引に引き倒された。



「うわっ!?」



 バランスを崩したアンディが床へ叩きつけられる。



「きゃ……!」


「ジョゼット!」



 倒れかけたジョゼットの身体を、オリバーが素早く抱き留めた。



「大丈夫!?」


「オリバー・・・っ!」



 ジョゼットは震えながらオリバーへしがみつく。


 オリバーは彼女を庇うように後ろへ下がらせた。


 一方。


 アンディはオリバーとやってきた騎士によって床へ押さえ付けられていた。



「離せよ!!」



 暴れるアンディの腕を、騎士が容赦なく捻り上げる。



「っあ゛!!」



 オリバーの声は氷のように冷たく言い放つ。



「花嫁を誘拐しようとしておいて、自分がどれ程の事をしたのか分かっているのか!!」


「うるさい!!ジョゼットを返せ!!」



 アンディが必死にもがく。



「ジョゼットは僕のなんだ!!」


「違う。」



 オリバーは即座に否定した。



「彼女は誰の所有物でもない。」


「っ!」


「そして少なくとも、君のものだった事は一度もない」



 アンディの顔が歪む。



「違う!!」


「違わない。」



 オリバーは冷静だった。



「君はずっと彼女の気持ちから逃げ続けた。」


「黙れ!!」


「親友という言葉に甘えて、彼女を縛っていただけだ。」



 アンディの呼吸が乱れる。



「ジョゼットが前へ進もうとした瞬間に、愛してる?」



 オリバーの瞳が冷たく細められる。



「虫が良すぎるんだよ。」



 アンディは完全に錯乱していた。



「返して・・・。」



 オリバーは冷たく見下ろす。



「ジョゼットを返してよぉ!!」



 泣きそうな声だった。


 だが。


 ジョゼットの瞳は、もう以前のような優しさを持っていなかった。


 冷たかった。



「・・・・・最低。」



 静かな声。



「今日がどんな日か分かってる?」



 アンディの身体が震える。



「私にとって、一生に一度の大切な日なのよ。」



 その声には怒りすら薄かった。


 ただ冷え切っていた。



「まだ式が始まる前だったから良かったわ。」


「ジョゼット・・・。」


「でも貴方は、それを台無しにしかけた。」



 アンディの顔色が変わる。



「違う、僕は・・・・。」


「もうやめて。」



 ジョゼットははっきりと言った。



「愛してる?一緒に逃げよう?」



 碧い瞳がアンディを見下ろす。



「そんな言葉、気持ち悪いだけよ!」



 アンディの呼吸が止まる。



「私はもう、貴方に何も感じない。」



 完全な拒絶だった。


 そこに情は残っていない。


 幼馴染としての愛情も。


 親友としての情も。


 何ひとつ。



「オリバー、行きましょう。」



 ジョゼットはオリバーの腕を掴む。


 オリバーは静かに頷いた。


 去っていく二人。


 騎士に抑えられたアンディだけを残して。



「待って・・・。」



 掠れた声が漏れる。



「ジョゼット。」



 返事はない。



「ジョゼット!!!」


 

 絶叫だけが、虚しく廊下へ響いた。






 その後、トワイス家は正式に謝罪した。


 ハーヴィー家。

 そしてベアード家へ。


 慰謝料も支払われた。


 そして今回の件を公にしない代わりに、ひとつ条件が出された。


 ――アンディ・トワイスを病院へ入れること。


 貴族社会において、“花嫁誘拐未遂”は決して許されない。


 トワイス家はそれを受け入れた。


 アンディは抵抗した。


 ジョゼットに会わせろと暴れた。


 泣き叫び、使用人に縋りつき、錯乱した。


 だがもう誰も止められなかった。


 そして。


 アンディは鉄格子のある病院へ入れられた。






 数年後。



「ははうえ。」



 幼い声が響く。


 銀色の髪。


 そして薄紫の瞳を持つ幼い少年が、レイラを見上げていた。



「ちちうえの病気は、いつ治るのでしょうか?」



 レイラは書類から顔を上げる。


 そして優しく微笑んだ。



「さぁね~。」



 柔らかな声だった。



「でもきっと、難しいのかもしれませんわね。」



 レイラは穏やかに紅茶を口にする。


 その横顔は、美しく。


 そしてどこまでも冷静だった。






 鉄格子の向こう。


 薄暗い病室の中。



「ジョゼット・・・。」



 銀髪の男が虚ろな目で呟く。


「ジョゼット・・・ジョゼット・・・。」



 何度も。


 何度も。


 愛しい名を呼び続ける声だけが、静かな病院にこだましていた。





ルートB.END


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