ルートB−2.
「ちょっと!? アンディ!!」
侍女達が悲鳴を上げる。
「降ろして!! 離しなさい!!」
「嫌だ!!」
「アンディ!!」
ジョゼットは本気で暴れた。
ウェディングドレスの裾が乱れ、髪飾りが落ちる。
「どうかしてるわ!!」
「ジョゼット、お願いだから!」
「お願いじゃない!!」
アンディは廊下を駆け抜ける。
「僕と逃げよう!」
「嫌よ!!」
ジョゼットは怒鳴った。
「私はオリバーと結婚するの!!」
その言葉にアンディの身体が一瞬強張る。
だが止まらない。
「愛してるんだ!!」
「っ・・・!」
「ジョゼット、愛してる!! だから――」
「ジョゼットを返せ!!」
必死の低い声が響いた。
次の瞬間。
アンディの身体が後ろから強引に引き倒された。
「うわっ!?」
バランスを崩したアンディが床へ叩きつけられる。
「きゃ……!」
「ジョゼット!」
倒れかけたジョゼットの身体を、オリバーが素早く抱き留めた。
「大丈夫!?」
「オリバー・・・っ!」
ジョゼットは震えながらオリバーへしがみつく。
オリバーは彼女を庇うように後ろへ下がらせた。
一方。
アンディはオリバーとやってきた騎士によって床へ押さえ付けられていた。
「離せよ!!」
暴れるアンディの腕を、騎士が容赦なく捻り上げる。
「っあ゛!!」
オリバーの声は氷のように冷たく言い放つ。
「花嫁を誘拐しようとしておいて、自分がどれ程の事をしたのか分かっているのか!!」
「うるさい!!ジョゼットを返せ!!」
アンディが必死にもがく。
「ジョゼットは僕のなんだ!!」
「違う。」
オリバーは即座に否定した。
「彼女は誰の所有物でもない。」
「っ!」
「そして少なくとも、君のものだった事は一度もない」
アンディの顔が歪む。
「違う!!」
「違わない。」
オリバーは冷静だった。
「君はずっと彼女の気持ちから逃げ続けた。」
「黙れ!!」
「親友という言葉に甘えて、彼女を縛っていただけだ。」
アンディの呼吸が乱れる。
「ジョゼットが前へ進もうとした瞬間に、愛してる?」
オリバーの瞳が冷たく細められる。
「虫が良すぎるんだよ。」
アンディは完全に錯乱していた。
「返して・・・。」
オリバーは冷たく見下ろす。
「ジョゼットを返してよぉ!!」
泣きそうな声だった。
だが。
ジョゼットの瞳は、もう以前のような優しさを持っていなかった。
冷たかった。
「・・・・・最低。」
静かな声。
「今日がどんな日か分かってる?」
アンディの身体が震える。
「私にとって、一生に一度の大切な日なのよ。」
その声には怒りすら薄かった。
ただ冷え切っていた。
「まだ式が始まる前だったから良かったわ。」
「ジョゼット・・・。」
「でも貴方は、それを台無しにしかけた。」
アンディの顔色が変わる。
「違う、僕は・・・・。」
「もうやめて。」
ジョゼットははっきりと言った。
「愛してる?一緒に逃げよう?」
碧い瞳がアンディを見下ろす。
「そんな言葉、気持ち悪いだけよ!」
アンディの呼吸が止まる。
「私はもう、貴方に何も感じない。」
完全な拒絶だった。
そこに情は残っていない。
幼馴染としての愛情も。
親友としての情も。
何ひとつ。
「オリバー、行きましょう。」
ジョゼットはオリバーの腕を掴む。
オリバーは静かに頷いた。
去っていく二人。
騎士に抑えられたアンディだけを残して。
「待って・・・。」
掠れた声が漏れる。
「ジョゼット。」
返事はない。
「ジョゼット!!!」
絶叫だけが、虚しく廊下へ響いた。
その後、トワイス家は正式に謝罪した。
ハーヴィー家。
そしてベアード家へ。
慰謝料も支払われた。
そして今回の件を公にしない代わりに、ひとつ条件が出された。
――アンディ・トワイスを病院へ入れること。
貴族社会において、“花嫁誘拐未遂”は決して許されない。
トワイス家はそれを受け入れた。
アンディは抵抗した。
ジョゼットに会わせろと暴れた。
泣き叫び、使用人に縋りつき、錯乱した。
だがもう誰も止められなかった。
そして。
アンディは鉄格子のある病院へ入れられた。
数年後。
「ははうえ。」
幼い声が響く。
銀色の髪。
そして薄紫の瞳を持つ幼い少年が、レイラを見上げていた。
「ちちうえの病気は、いつ治るのでしょうか?」
レイラは書類から顔を上げる。
そして優しく微笑んだ。
「さぁね~。」
柔らかな声だった。
「でもきっと、難しいのかもしれませんわね。」
レイラは穏やかに紅茶を口にする。
その横顔は、美しく。
そしてどこまでも冷静だった。
鉄格子の向こう。
薄暗い病室の中。
「ジョゼット・・・。」
銀髪の男が虚ろな目で呟く。
「ジョゼット・・・ジョゼット・・・。」
何度も。
何度も。
愛しい名を呼び続ける声だけが、静かな病院にこだましていた。
ルートB.END
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