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大好きな令息が親友でいたいと言ったから  作者: 鈴木べにこ


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7.この家の罪

 重苦しい沈黙が、部屋を支配していた。


 トワイス伯爵家本邸。


 普段は穏やかな談笑に使われる応接室は、今日ばかりは裁判場のような空気になっている。


 長いテーブルを挟み、向かい合う五人。


 トワイス伯爵。

 伯爵夫人。

 長男ローディ・トワイス。

 その妻ダイアナ・トワイス。


 そして――レイラ・フォルナー侯爵令嬢。


 本来なら幸せな婚約期間を過ごしているはずの令嬢は、静かに紅茶へ口をつけていた。


 その所作は完璧で美しい。


 だが、その場の誰もが分かっていた。


 彼女は怒っている。


 静かに。冷たく。そして当然の権利として。



「アンディ様は?」



 レイラの問いに、ローディが気まずそうに答える。



「部屋に籠って食事をまともに取ってない・・・。」



 レイラは「そうですか」とだけ返した。


 淡々とし過ぎていて、逆に恐ろしい。


 数日前。


 アンディはジョゼットへ告白し、そして拒絶された。


 当然だった。


 むしろジョゼットは優しかった方だろう。


 十年以上“親友”という言葉で彼女を縛り続け、婚約者が出来ても距離感を改めず、散々振り回した挙句。


 ジョゼットがようやく別の幸せを掴もうとした瞬間に、“やっぱり好きだから他の男と付き合うな”などと。


 最低以外の言葉がない。


 そして今。


 その最低男の婚約者がレイラだった。


 仮面夫婦になる提案を断り、告白を実行に移した。


 この先この調子でやっていける筈がない。


 婚約者としての契約違反だ。



「・・・・・本当に申し訳ないと思っています。」



 トワイス伯爵が重い声で言った。


 レイラはゆっくり視線を向ける。



「何に対してですの?」


「全部です・・・。」



 伯爵の顔には疲労が滲んでいた。



「アンディに想い人がいる事くらい、家族全員気付いていました。」


「・・・・・。」


「だが、本人が頑なに認めなかった。だから我々も・・・見て見ぬふりをした。」



 レイラは何も言わない。


 代わりにダイアナが静かに目を伏せた。



「私も、気付いていましたわ。」



 柔らかな栗色の髪を揺らしながら、ローディの妻であるダイアナは苦しそうに続ける。



「アンディ様は、ジョゼット様しか見えていなかったもの。」



 ローディはダイアナの肩に手を置いた。



「ダイアナ・・・。」


「でも、皆どこかで期待してしまったのよ。」



 ダイアナは申し訳なさそうに俯く。



「大人になれば変わるかもしれないって。」


「・・・・・。」



 レイラは目の前の人物達を冷たく見据える。



「婚約して、結婚して、家庭を持てば、少しずつ落ち着くかもしれないって。」



 ダイアナの言葉に、レイラは静かに返す。



「そして、その“期待”の犠牲になるのが私だった。」




 空気が凍った。


 誰も反論できない。


 それが事実だからだ。



「貴族中、皆分かっていましたわ。」



 レイラは穏やかに微笑む。



「アンディ様がジョゼット様を愛している事くらい。」



 父の借金返済の為に断れない事を分かって、愚かな男の婚約者に選ばれたのがレイラだ。



「本人だけが気付いていなかった。」



 ローディが深く息を吐く。



「否定し続けてたからな、あいつ。」


「ええ。そして皆様は、その現実から目を逸らした。」



 レイラの声は責めるようでいて、どこまでも冷静だった。



「アンディ様に好きな人がいると分かっていながら、別の女性と婚約させた。」


「・・・すまない。」



 伯爵夫人が掠れた声で呟く。


 レイラは静かに首を横へ振った。



「謝罪は不要ですわ。もう婚約してしまいましたもの。」


「レイラ嬢・・・。」


「ですから私は、現実的な話をしに来ました。」



 その瞬間。


 ローディが眉を寄せた。



「現実的な話?」


「ええ。」



 レイラは真っ直ぐローディを見る。



「ローディ様。私に子種をくださいませ」



 沈黙。




 

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