表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/5

2 『牢屋以外の世界』

 俺は何をした...?


 周りの視線が一斉に俺へ向く。

 中には俺を刺すような視線もあった。

 

 「今....何したの?」

 フィオナも驚きを隠せないようで、その場にぺたんと座り込んでしまった。


 静けさのあまり、周りの奴隷たちのざわめきがはっきりと俺の耳に入ってきた。


 「あれって...」

 ―――「もしかして魔法じゃないか...?」―――


 そのざわめきに引き寄せられるように他の看守たちが集まってきた。

 看守は俺の牢の戸を開け、ぞろぞろと入ってくる。

 今にも襲って来そうな形相で俺を睨んでいる。

 もちろん睨んで終わるわけがなく、次の瞬間には、その中の一人の腕がすごい勢いで俺の目の前まで迫っていた。

 俺はびっくりして尻もちをつきながら、顔を守るようにして看守の方に両手を向けた。

 前など見ていない。

 

 ドサッ


 次の瞬間、看守の頭が吹き飛んだ。

 まただ、さっきと同じで手に電流のようなものが走った気がした。

 確信した。これは魔法だ。

 手に走った電流のようなもの、そして吹き飛んだ看守の頭。これを魔法と言わずに何と言おうか。


 流石にその有様を見て、さっきまで威勢の良かった看守たちも、足を一歩、二歩と牢の外に出した。

 「何が起きた...?」

 その瞬間、左後方から一人、俺に襲い掛かってきた。

 俺は咄嗟に左手を向ける。

 ............

 さっきのような首の落ちる音がしない。

 なんd...


 ドゴォぉ!


 看守の拳が俺の頬にクリーンヒットした。

 身に沁みついたあの痛みが俺を襲う。

 いや、それよりも...

 不発...?

 数メートルは吹っ飛ばされて床に倒れ込んだまま自分の左手を見つめる。

 そうしている間に、まだ首のある看守が俺を囲んだ。

 俺は試しに両手を大の字に広げて魔法を放つ。

 そうすると、右手にいる看守の頭が吹き飛んだ。


 なるほど...

 この魔法は右手からしか放てないらしい。

 それがこの魔法だからなのか、練度によって変化するのか、今の俺には知るすべもない。

 今はとりあえずここを抜け出さなければならない。

 フィオナを連れて。

 そう思いながらフィオナに目をやる。

 フィオナから驚きは減っているように見えた。もう普通に立っているほどだ。


 俺は慣れた手つきで左側の看守に右手を向ける。

 次は脚を狙ってみる。

 案の定、看守の右脚はなくなっていた。

 看守は足を失った代わりに足元には血の水たまりが出来ていた。

 暗い牢屋の並ぶこの通りは真っ赤な血の色に染められた。

 

 戦意喪失する者。右脚を引きずってその場から離れようとする者。五体満足の者は静かに道を開けた。


 ここで開いた道を通るのも良いだろう。

 だが俺はそんな情けをかけるつもりはない。

 生まれてから10年、俺はこいつらに散々いたぶられてきた。こいつらも俺を人間として扱ってなかっただろう。

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い。

 死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。

 違う、俺の手で殺してやる。

 俺の手で殺してやりたいんだ。

 何故だろう、さっきまでこんな感情は一切なかったのに。


 俺は戦意がない看守に近づき、胸ぐらに掴みかかり、魔法を発動した。

 俺の感情がにじみ出るほど、看守の体がバラバラになっていく。その数は一、十、百、と増え続ける。

 機械のように看守を細かくしていく。

 

 そんな俺の腕にしがみつく何かがあった。

 その手を振り払うついでに頭を飛ばしておこうかと思ったが、できなかった。

 ――何故なら――

 

 「もうやめて!!!!!!!!!!!」


 その一言が俺の手を止めた。


 そうだ、フィオナだ。俺はフィオナを助けるために戦っていたんだ。

 復讐心のあまり目的を見失っていた。

 それならここから出るのが先だろう。

 これ以上フィオナを危険にさらす訳にはいかない。

 俺はフィオナのがさついた髪を左手で撫で、力強く手を握った。

 脱出に向け、俺は歩き出した。今度は二人で。

 

 


 俺たちは長い通路をぺたぺたと歩き続けた。

 こんな、奴隷の収容施設、それほど構造は難しくない事くらい分かっていたが、ここまで大きいものだとは思っていなかった。

 三分ほど歩き続けたが、まだそれらしい出口は見当たらない。

 奴隷たちは皆、俺たちを不思議そうに見ている。だが声をかけるものは誰もいなかった。

 ところどころに蜘蛛の巣が張っている。俺はその巣の主人に哀れみの目を向けた。


 そんなことを考えているうちにやっと鉄格子以外の扉が見えた。

 だが、そこに見えたのは扉だけではなく、暗闇の中にひときわ光るものがあった。

 それは細長く、先が尖っているものだった。それの先端は静かに殺意を放っていた。

 さっきまで威勢を失っていた看守たちが武器を持ち、扉の前に立っていたのだ。

 フィオナは怖がって、俺の陰に身を隠していた。

 正直俺も少し怖かった。


 だがこいつらを倒さない事にはここからは出られない。

 戦う。俺はそう決意した。


 俺の影が相手より先に動いた。


 ズバッ!


 相手が剣を抜く前にまずは一人を殺めた。

 だがこんなのはまだまだ序の口だ。

 看守の数は片手では数えれないほどだった。さっき逃げた看守たちが俺らのことを報告したのだろうか。


 もっとも一人いなくなっただけでは相手は誰も引き下がらなかった。とはいっても前にも出てこなかった。

 これの目的は俺を殺すことではなく、俺を引き留めることなのだろうか。

 魔法を使える奴隷となると価値も上がるのだろう。そう考えれば筋が通る。


 とにかく、相手から来ないのなら俺から仕掛けていくだけだ。


 ズバッ...ズバッ...ズバッ...


 俺は順番に看守を殺していく。


 ――違和感――


 誰も抵抗しない。おかしい。何故仲間が目の前で死んでそんなにも平然としている?

 もしかしてこれはダミーの人形か何かなのだろうか...いや違う。人間だ、落ちた首からしっかりと濃い血液が今もドクドクと流れている。とても人間じゃないとは思えない。


 「...っ!」


 グサッ!


 気づいた頃にはもう遅かった。

 後ろから不意を突いてきた剣が俺の腕にしっかりと刺さっている。


 「お前の負けだ。」


 腕から大量に血が流れてきた。あと数分も経てば出血多量で死んでしまうだろう。

 意識が徐々に遠くなっていく。だがそれを超えるほどの何かが俺の心を燃やしていた。

 俺がここで死んでしまったらフィオナはどうなる?

 きっと逃げ出そうとした罪で一生牢獄か、それともここで一緒に殺されるかだ。どちらにせよ最悪だ。


 「いや、まだだ...」


 俺は剣を腕で止め、右手を相手の首に当てた。幸い剣が刺さっていたのは左手だった。


 後ろから出てきた偉そうな看守が倒れると同時に、さっきまで目の前で仲間が死んでも一切動揺していなかった看守の額に汗が流れているのが見えた。


 フィオナも無駄な戦闘は望んでいない。ならばここは穏便に済ませよう。


 「おれたちをそとに出させろ。」


 看守たちは全員武器を捨て、諦めた様子で扉を開けた。


 眩しい、外というのはこれほど眩しいものだったのか。これまでを檻の中で過ごしてきた俺からすると、まるで天国のように感じられた。


 俺たちは光の射す方へと歩いた...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ